再出発
リーナは屋敷に、俺たちは宿屋に泊まり、その翌日。
ベストーハの街、短い間だったが楽しかった。クリム火山へ行く途中にもう一つあるという小さな町に運ぶ作物を乗せた俺たちの馬車は、ヘンジックスや執事、シウターなどの面々に見送られながら出発したのだった。
「あーーーまたやることない時間になっちゃった」
「そう言うなよ。馬車ってのは暇なもんだ」
「だってさぁ、ん? それ、光ってね?」
「え?」
リュートに言われ胸元を確認する。水の魔石を使ったペンダントが光っていた。
何かあったのだろうか、そういえば最近ドロップと会ってないな。精霊界の事件とか嫌な思い出しかないんだけど。
『キール? 聞こえるー?』
「うおっ、なんだよ。どうした? てかそれどうやってんの」
ペンダントからドロップの声が聞こえてくる。テレパシーではない、実際に声が聞こえてくるのだ。リュートにも聞こえているだろう。
魔石から声を出す、一体どうやってるんだ。
『説明するにゃ! これは冒険者ギルドの魔術師が総力を挙げて作り出した最強の通信装置にゃ! これを使うことで登録してある魔石から、精霊の力を使って話しかけることが可能なんだにゃ!』
「リンクスか……何か用か?」
まさかの魔法、魔術の進化により、短期間で通信装置? の開発に成功したらしい。
リンクスの声もはっきり聞こえる。欠点は精霊がいないと機能しないというところか。
「うおお! すげぇ! ペンダントから声が!」
『リュートうっさいにゃ。もうベストーハの街には行ったんにゃよね? 向こうのギルド長から何か伝言がにゃいか聞きたいんだにゃ』
「ああそれね。実はさ――――――」
俺はベストーハの街で何があったのかについて話す。まず近隣の森でキノコ狩りをしているときに魔族と会い、捕縛したことだ。
『そっちに現れたとは、予想外にゃ……竜人族、以外の特徴はあったにゃ?』
「そうだな……あっ」
『なんにゃ』
リーナの一件もあり完全に忘れていた。
あの魔族……竜族は妙な宝玉を持っていたのだ。今は馬車なので炎が出るかどうかの確認はできない。
「宝玉を持ってた。こう、赤い玉でな。そこから炎が出るんだ」
『ほうほう。詳しく調べる必要がありそうにゃ。して、それも一緒にプレクストンに運んだのかにゃ?』
「いや、今の今まで忘れててな。持ってきちまった」
『なら、帰ってきたらすぐに渡すにゃ。魔族からの情報を元に、帰ってきたらすぐさま調査にゃ! フォトにゃんとサーにゃんには怪我だけはしないようにと伝えといてほしいにゃ』
「僕達は!?」
直接伝えるのが嫌だったのだろうが、リンクスは俺たちにも怪我をしないようにと言っているはずだ。
怪我かぁ、火山が噴火したら流石に止めるために火傷はしてしまうかもしれない。そもそも火山は危険地帯なのだ。いくらゴールドランクでも、魔物の強さを見くびっていたら怪我は避けられない。
『じゃあそういうわけだからさー、何か言いたいことがあったらわたしに言ってねー! それじゃあバイバ――――――』
通信を切るタイミングがズレてしまったのか、ドロップのセリフは途切れてしまった。
まあ最後の一文字だけだろうし、気にする必要なんてないんだけど。
『バイバイっ!』
再び声が聞こえてきたと思ったら、すぐに切れた。
え、それだけのために通信繋いだの? ドロップらしいといえばらしいが、通信繋ぐのに魔力使うんじゃないのか。相変わらず変な奴だ。
「帰ったら本格的に調査開始だね。確かこれまでも情報を集めて、怪しいところをいくつか予想してたんだっけ?」
「どれも怪しい人を見たとか、関係ない事件なんだろうな。だって完全に関係のある魔族が近くにいたんだから」
「それもそうだねぇ……今更なんだけどさ、僕達って世界救おうとしてない?」
本当に今更過ぎることを言ってきた。ナイアドを倒した時点で、軽く一回救ってるまであるからな。
今のほとんどなにもできない状況。魔王を倒すために旅をしていた時代にも同じようなことがあった。おかげで何日も人間界にいられたから今思えばまだよかったのかもしれない。魔界……あれはあれで大変だった。
「そりゃそうだろ。魔界から来る魔王候補を倒そうとしてるんだから」
「なんで僕達なんだよ! もっと強い奴らいるだろ!」
「どんな?」
この時代に来てからそれなりに生活をしてきたが、まだ他の強い冒険者には会ったことがない。
本当にいるのだろうか、そもそも何をやっているのだ。世界が危ないのに。
「ヴァリサと同じプラチナランクだったり、それ以上の冒険者が数人いるんだってさ。会ったことないけど」
「会ったことないのかよ」
「いやだって、依頼で世界中飛び回ってるらしくてギルドには全然いないんだよ」
遠くの大陸にいるから来れないとか、そういう感じか。
まあ遠征してたら情報を伝達するのも大変だからな、仕方ないと言えば仕方ないか。
「へえ、会ってみたいな」
「会おうと思って会えるわけじゃ……いや、でも少し遠出しててそろそろ帰ってくるっていう人はいたような……」
この大陸にいるのか。
「じゃ、帰ったら会ってみようぜ。そいつの強さ次第で使えるか判断する」
「使うって……確かにキールの強さは未知数だけどさ。利用できるような奴じゃないと思うよ? 強い冒険者なんて全員変人だし」
その考えは正しい。強い奴が変人なのは人間界でも魔界でも変わらないのだ。
基本、俺が関わった人間は変人だ。俺もそうだし、リュートは言わずもがな。フォトは勇者オタクだし、ヴァリサは筋肉バカだ。
だから飽きないのだが、それ故にめんどくさいことも多い。それでも、何もない人と、合わない相手と一緒にいるよりかは楽しい方がずっといい。
「確かに、俺の知り合いの冒険者も全員変人だな」
「それ僕も入ってませんかね」
「当然だろ」
「ひっどいね!? あー怒った、僕もう寝るわ」
ふざけながら横になったリュートを横目に、少しずつ近づいていくクリム火山を見据える。
あの山が本当に噴火するのだろうか。そんなことを考えながら景色を見ていると、俺も眠くなってしまった。少し、横になるか。