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なんやかんやあって休憩

 リーナを連れて広場へ向かう。仕事を終えた人々が集まり、作物を運んでいた。

 人が多いので、貴族であるリーナは一人だけ服装が豪華なためかやはり浮いてしまっている。

 当然、お嬢様が広場にいることに対してざわざわと反応する人も多い。


「あっ、キールさん! って、確かお屋敷の……」

「リーナだ。実は色々あってな、こいつを街の外まで連れていくことになった」

「…………あー、なるほど。巻き込まれた、って奴ですねっ!」


 ああ、そういえばフォトは昔の俺について詳しいんだっけ。

 昔からこうなんだ。別の目的があったのに、何か事件に巻き込まれて、仕方なく付き合ったり。

 これも勇者の宿命だというのか。なぜ魔王討伐に関係の無いイベントばかりが起こるんだい教えて神様。おい神様答えろやごら。


「巻き込まれた……? 一応、ぜっっっっっったいに違うのは分かっているけれど、その……迷惑、かしら」

「いや、俺が決めたことなんだから迷惑もクソもあるか。暇なのは慣れてないからな、忙しいくらいが丁度いい」

「そう。だと思ったわ」


 だと思ったならそんなこと聞かないのでは、なんて言えないな。

 フォトよりも子供なのだ。子供の相手は慣れていないが、なるべく肯定するのがいいってのは聞いたことがあるしそれでいこう。


「えーっと、リーナちゃん。よろしくお願いします!」

「…………よろしくお願いするわ。フォト」

「わあっ! 覚えててくれたんですね! 嬉しいっ!」


 なんだこの癒し空間は。もうリーナはフォトに任せて俺は鍋の準備でも手伝おうかな。


「んじゃあ俺鍋の準備してくるよ」

「待ちなさいよ。私も行くわ」


 例のごとく袖を掴まれる。

 私も行くって、鍋の準備にリーナが来てもできることなんてないしな。どうするべきか。


「え、でも力仕事だしなぁ」

「あんたが外に連れて行くって言い出したのよ! いいから一緒にいなさい!」

「はあ、しゃーない。分かったよ」

「それでいいのよ」


 反論できなかった。だって連れて行くって言い出したの俺だし、責任をもって守らないとだよな。しっかりしないとあの執事に殺される。

 ため息をつきながらフォトをチラッと見ると、リーナを見つめながら頷いていた。


「……な、なるほど」


 何がなるほどなんだ。

 何を学んだのか知らないけど、フォトには純粋であってほしい。

 なんか最近フォトへの親心みたいなのが出てきてる。親ってこんな気持ちなのかな。あの執事も似た感情だったんだろうな。


「おーいキール! 特別報酬って……あれっリーナちゃん!?」

「はあ……」


 何度目のため息だろうか。今日は色々なことが起こりすぎて疲れたよ。

 話しかけてきたリュートと、後からやってきたヴァリサさん、ヘンジックスに説明をした俺は、フォトと一緒にリーナを連れて街を軽く歩くことにした。


* * *


 歩きながら街の話をしたり、今までに体験した出来事などをリーナに話した。

 しばらく歩き回っていると、ギルド……および酒場の辺りまで戻ってきてしまっていた。

 鍋ができるまでもう少しなので、酒場で休憩でもしていくことにした。


「とりあえずエール。リーナとフォトは……リンゴジュースでいいか」


 美味しいリンゴを食べるんごってな。

 ここベストーハの大農園には果樹園もある。プレクストンに遠すぎず近すぎず、品質のいい作物を育てる街。元は小さな村から始まったのかな? 500年前には街はなかったけど何個か荘園はあったし。

 注文をし、ボーっと窓の外を眺める。こんなんでいいのかなぁ。


「ギルドなんて始めてきたわ」

「ベストーハに住んでるのに?」

「ええ、そもそも街に出たことなんてほとんどないもの」


 筋金入りの箱入り娘だったか。

 ほとんどねぇ、外に出るだけで街のみんなに驚かれるほどだし、もっと小さい頃に数回とかだろうか。


「あっ! キール、何してるんですか。あの魔族を全部こっちに任せて出ていくなんてひどいですよほんと」

「仕方ないだろ、祭りだったんだから」

「仕方ないんですかそれ!?」


 だって祭りの邪魔されたんだぞ。邪魔者がいなくなったら楽しむだろ普通。祭りだぞ祭り。久しぶりのまともな祭りだぞ。


「ねえ、それって前に言ってたやつよね。あの、魔界が関係してるっていう」

「そうだ。こっちからできることがほとんどなくてな……」

「それで観光に来てたのね」

「…………待ってください。リーナお嬢様では?」


 リーナが俺達の立場などを理解したところで、シウターがそう聞いてきた。


「そうだが?」

「そうだがじゃないですよ!」

「もしかして、たまに家に来てた人?」

「そうですそうです。ギルドと領主のやり取りが必要でしたので」


 領主…………聞かなくてもいいか。予想はできる。

 リーナの両親はこの街の領主だったのだろう。荘園から村になり、街へと進化した土地ならば当然だ。

 まともな領主がいなくなったこの土地で、執事が領主の代行をしていたと。

 屋敷を出る前、執事にこう言われた。『どうか、リーナお嬢様を立派な貴族にしてくだされ』と。


 リーナが付き人を見つけたらリーナに領主としての権利を渡すつもりだったのだ。そして付き人と共に領主として生きていく。自分はただの執事に戻る。

 あの執事、一人で頑張ってたんだろうな。それならば、リーナの同行を許すのにはかなりの覚悟があっただろう。その気持ちを汲んでやらねば。勇者とはそういうものだ。

 人の願いを背負う生き方。これは魔王を倒した後でも変わらないらしい。


「多分執事に説明されると思うからここで言っとく。リーナはこの街を出て外の世界を学ぶことになった。俺と一緒にな。まあ執事が仕事をしていたんだろうからやることはほとんど変わらんと思うが」

「うわ、もう脳内で処理できないんですけど。とりあえずキールがやばいってことは分かりましたが」

「失礼だな」


 少なくとも自分が常人ではないってことは理解してるよ。

 人生楽しんでいこうぜ。前向いて生きていこう、俺は前しか見るのを許されてなかったけど。何とかなったから基本的には前向いた方がいい。


「ずっと気になってたんですけど、クリム火山にも…………連れて行くんですか?」

「一応な。本当は帰りにリーナを回収してプレクストンに連れていく予定だったんだが、リーナが行きたいって言って聞かなくてさ」

「だって、守ってくれるんでしょう?」

「まあな」

「それなら安心ですねっ!」

「貴方達狂ってますよ絶対」


 相手は自然だ。スキルの中には、地面に潜れるものや溶岩から身を守れるものもあるのだ。もし噴火したとしても十分に守ることはできる。近くにいればだが。


「おっ、そろそろ準部もできたみたいだな。行くか」

「はいっ!」

「鍋、楽しみだわ」


 鍋と言えば旅の飯! とりあえず何でもかんでも放り込んで食べる料理だ。

 俺も何度か旅の途中に作ったものだ。氷山とかさ、あったまるもの食べたくなるじゃん。

 太陽も沈んで空は暗くなってきている。祭りの後半は夜じゃないとな。最後まで楽しもう。

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