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一歩

「ちょっと待ってくれ。そんなこと言われたって、そもそも報酬じゃないし、他にやることだってあるんだけど」

「ですが、リーナ様が認めた人しか嫌だと言い出しまして……」

「無茶苦茶だなおい」


 それはつまりあれか、ベスト茸の採取大会で優勝した人なら認める、みたいな条件を出したのか?

 なんて自分勝手な。まあでも貴族って基本的に自分勝手だもんな……このくらいなら可愛いものなのかもしれない。


「ダメなの? どうしてよ」

「あー、お前はさ」

「お前じゃないわ。リーナよ」


 腕を組みながらわかりやすく不機嫌になるリーナ。

 見た目が子供なら中身も子供って感じだ。年相応だな。


「リーナはさ、貴族で箱入り娘だから世間知らずなのは仕方ないと思う。だから、選ぶならしっかり自分で選ぶべきだ。強い人だからとか、一番になれるからとかよりも、自分の目で確かめて話して、この人なら付き人にしてもいいって人を選ぶべきなんだよ」


 俺の予想が正しければ、リーナは今まで自分で決めたことがないのだろう。

 生まれてから全部与えられて、それが当たり前だと思ってる。だから付き人も向こうからやってくるものだと思っている。


「私が選ぶの?」

「ああ。もしヘンジックスが優勝したらどうするつもりだったんだ?」

「あの人はダメね。あとリュート? って人もダメ。優勝しても適当にお金払って誤魔化すつもりだったわ」


 ここでまさかのリュートへの流れ弾。リュートのことは変な奴だとは思っているが、ヘンジックスと一緒にされるのは流石に同情せざるを得ない。


「なんだ、選んでるじゃん。執事、どうしてこんな選び方にしたんだ?」

「実は、街の外からよさそうな人を見つけては度々紹介していたのですが……お嬢様が来る人来る人全員嫌だと言い出しまして」

「だって、私の近くにいる人なのよね? みんな下心が見え見えで気持ち悪いもの」


 確かに、貴族の付き人になろうとする人の中には財産目当てだったり、お嬢様目当ての人がいるだろう。

 普通に働きたいという人は……そもそも少ないのか。なかなか見つからないから妥協点として収穫祭で優勝した人を付き人にする。わからなくもないが、他に方法はないのだろうか。


「それならどういう人ならいいんだよ」

「そうね、私に逆らわないのがまず一つね。それから、下心がないのと、強い人。かしら」

「いねーよ」

「いないの!?」


 こいつは重傷だ。理想が高いというか、なんと言うか。聞いている限りじゃ奴隷が欲しい、みたいに聞こえてくる。貴族ってこれだから嫌なんだ。


「一つアドバイスだ。一緒にいて安心できる人にしろ」

「……? 分からないわ、安心できる人、いるのかしら」

「この執事はどうなんだ? 安心できるか?」


 名前も知らない執事を指さす。


「まあ、小さい頃から一緒だもの」

「ありがとうございます」

「じゃ、その気持ちと同じような気持ちになる人を探すんだな」

「そんなこと言われたって、見つからないわよ……」


 見つからない、か。

 それも仕方ないかな。小さい頃から一緒……例えば俺だと、剣術を教えてくれた師匠とか。そういう人と同じような人を見つけろと言われても、まず見つからないだろう。


「キール様、少しよろしいですか」

「ん?」


 執事に呼ばれ、リーナから離れる。

 俺が離れむすっとしているが、恨むなら執事を恨んでくれ。というかもう俺のことを所有物として見てない?


「お嬢様は幼い頃に両親を亡くしているので、愛を知らないのです」


 なるほどな。親は何をしているんだと思ったが、死んでたか。そりゃ世間知らずにもなる。


「それなら、あんたが与えてやればよかったじゃないか」

「一度やってみたのですが、突然態度が変わった私にお嬢様が怯えてしまったのです」

「あー……リーナの中ではあんたはあくまで執事ってことか」

「はい。それでもできる限りの愛は与えてきたつもりでしたが、あまり愛は感じてくれなかったようで」

「だいたいわかった。だからすぐにでも付き人が欲しかったんだな」

「そういうことです。自分勝手なのはわかっていますが、お嬢様のためなのです。申し訳ございません」

「そうかー……あー……どうしよ」


 親がいない、その気持ちは俺も知っている。周りから何を言われても、そもそも親がどういうものなのかをよく知らないから辛い気持ちにはならない。それが当たり前だから。

 だが、周りとは少し違う感覚というのはかなり心に来るものだ。

 同情なんて最悪だ。逆の立場なら、同情されたというだけで嫌な気持ちになるだろう。

 だけど。


「リーナ。お前さ、外に出たくないか?」

「いきなりなによ」

「だからさ、この街とは違う街に行ってみたくないか?」

「! 行きたいわ!」

「キール様、それは……」


 一つ、考えたことがある。考え方ってのは簡単に変わることがある。外に出て考え方さえ変われば、付き人を見つけやすくなるし、人間ってのを理解することができる。

 ま、あんまり人に関わらずに旅をしていた俺が言えたことじゃないかもしれないけど。


「いいからいいから。つまりさ、世間知らずだから頭が固くなってるんだよ。人に会えば考え方も変わるし、世間知らずも治る。どうだ?」

「ですが、どのように外に出るのですか? それこそ付き人無しでは危険すぎます」

「俺が連れてってやる。正直俺も世間知らずなところあるからさ、一緒に治したいなって思って」


 世間知らずっていうか、時代知らず? まあとにかく元の時代もよくわかっていなかったのだ、今の時代とかもっとわからん。

 むしろ、リーナの方が知識だけなら勝っている可能性すらある。そのくらい俺はこの世界のことを知らない。別の大陸とか今どうなってるの。


「ほ、本当に連れて行ってくれるの!? 約束よ! 約束しなさい!」

「ああ約束だ。ま、執事が認めればだが」

「…………いいでしょう。ですが約束してください、お嬢様を必ずお守りすること。わかりましたね?」


 思っていたよりも条件は簡単だ。いや、人を守るのは簡単じゃないのか?

 まあそもそも危険な目に合わせなければ守れるし大丈夫かな。街に連れて行って、ギルドとかで人と交流させる。それだけだ。


「わかった、守るよ。じゃあ第一歩として広場に一緒に行こうぜ」

「えっ……街のみんなは、受け入れてくれるかしら……」

「大丈夫だ、リーナが思っているよりみんな優しいから」


 これは、俺がこの時代に来てから知ったことだ。

 今までは他人と関わってもろくなことがないと、そう思って生きてきた。だが、いざ話してみればどうだ。確かにろくなことがない奴はいるけど、優しい人はもっとたくさんいるじゃないか。

 案外、他人と関わるのは悪いことじゃないってことを教えてやろう。

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