変人変人変人
「そうそう、もしお暇でしたらこれに参加するのはどうでしょうか」
「参加?」
シウターが依頼の掲示板から一枚取り、こちらに見せてきた。
何かに参加する依頼か、なになに……収穫祭。収穫祭だって?
「収穫祭って、作物の収穫をみんなでする祭りだよな」
「ご存知でしたか。その中でも一般人には大変な収穫がありまして、その依頼が来てるんです」
「ふーん……ゴールドランク以上? そんなに危険なのかよ」
依頼書には条件としてゴールドランク以上であることが書かれていた。
「まあ戦えないと難しいですから」
「森の中には危険だからな」
それにしてもゴールドは少し条件が厳しすぎないだろうか。
内容はベスト茸の収穫。キノコ狩りとして森の中に入る必要があるということ。森は確かに『スポット』の一つなので危険なのはわかるけども。
「いえいえ、そうじゃなくて。収穫するのが大変なんです」
「どうしてですか? 崖に生えてるとか……?」
「それはこのワタシが解説しましょーう!」
突然酒場の奥の方から男が走ってきた。そして俺達の前で停止すると、ふんすと胸を張った。え、何この人。
「誰だ」
「変人です」
「ああ、例の」
「変人ではなーい、ヘンジックスだ」
シウターが言っていた変人はこいつのことだろう。服装は赤と青と黄色と紫と……ああもう、とにかくカラフルだ。髪の毛もそんな感じで様々な色が混じっている。派手過ぎて目が痛い。
お前みたいなのは娯楽島でピエロのバイトをする方が合ってるぞ。
「まずこのベスト茸でーすが、なんとカメのモンスターの背中に生えているんでーすよ」
「なるほどな、カメの背中に生えてるから一般人じゃ収穫できないのか。もうわかったから帰っていいよ、お疲れ」
「酷いでーすねこの人!?」
「いやだって、もう解説することないだろ」
「そうでーすが……シウターさんこの人なんなんでーすか」
俺からも詳しく聞かせてほしいんだけど。この人なんなんでーすか。
情報が変人とカラフルしかない。何者なんだこいつ。
「クリム火山に行く前にこの街に寄った冒険者です。一応ランクはダイヤモンドですよ?」
「この人がでーすか?」
疑っているようなので一応ギルドカードを見せておく。透明に輝くカードを見たヘンジックスは目を丸くして驚いていた。
「そういうお前のランクは?」
「ゴールドランクでーす……」
ゴールドか……ゴールドランクでもすごいんだけども。
シルバーよりも上にいく人は少ないそうだ。理由は簡単、ランクアップのための条件をクリアできないから。それなりに強い魔獣でも倒せばクリアできるが、そこまで行ける人が少ないんだこれが。
「そうか。フォト、ゴールドランク同士仲良くな」
「はいっ!」
「ええっ!? こんな小さな子がゴールドランクなんでーすか!?」
「一応……」
自信はついたが、まだフォトは一緒に戦った俺のおかげという気持ちが残っているようだ。
気にしなくてもいいのにとは思うが、いくら言っても気持ち的な問題はどうにもならない。少しずつ変わっていけばいいんだ。
「冒険者の未来は明るいでーすね。さて、案内しまーすよ」
「いや別に……あ、場所知らねぇや」
この森ってどこにあるんだ。近くだとは思うんだけど、知っている人に聞いた方がいいな。
「でーすよね? まず森は……」
ヘンジックスが森について説明しようとした次の瞬間、酒場の扉が勢いよく開いた。
バンッと壊れないか心配になるほどの音を立てて扉を開けたのは、赤い髪の男。第二の変人だ。
「いやだあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「とうっ!! 必殺十万字固め!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
酒場に逃げ込んできた変人二号を追って変人三号……じゃなくて、ヴァリサさんが酒場に入ってくる。
ヴァリサさんは身動きが取れなくなったリュートの腕を掴み、寝技に持ち込んだ。
およそ小説一冊分に及ぶかと思われる情報量の技が炸裂する。なにそれどうなってんの。
「あ、あなたはもしーや……ヴァリサでは!?」
「うん? 誰だ君は」
そう言えばヴァリサさんってそれなりに知ってる人がいるんだっけ。
ナイアドを捕まえた時の情報も、ヴァリサさんだけ名前が出てたし。
話なら向こうでしてくれるだろうと未だに床で寝ている、もとい関節技を極められているリュートの前に座る。
「ギブ! ギブ! 審判!!!」
「続けて」
「鬼かよ!」
床をバンバン叩くリュートだったが、審判の判断により試合は続行することに。
俺を審判と呼んだのが悪い。フォトを審判にすれば助かったのにな。
「おおっ、貴方はプラチナランクのヴァリサですか。初めまして、ギルド長をしているシウターと申します」
「これはこれはご丁寧に。それで、あたしの仲間が何かしましたか?」
「あんたが今まさにやばいことしてるんですが!」
あ、さらに力強くなってる。一人を除いて楽しそうだからいいか。
「ヴァリサの仲間だったんですか、キール」
「最近よく組むんだ。知ってるだろ? ミネラル鉱山の事件」
「それも貴方達でしたか。クリム火山に行くのも頷けます」
「いやいや、まーさかそんなすごい人たちと会えるなんて。ヴァリサも参加すーるということなーので、このワタシがみんなまとめてご案内しーますよ!」
なんだかんだあり、全員が集まった状態で依頼を受けることになった。
改めて依頼についての説明をされながら、俺達は酒場から出るのだった。




