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ベストーハの街

 寝ていると馬車が突然止まり、俺は目を覚ました。

 なんだなんだと窓から外を見ると、そこには大きな村……いや、街だろうか。とにかくそんな場所だった。

 リュートの説明によれば、ここはベストーハの街。村から成長した大きな農場のある街らしい。

 ここで、一度馬車が動くまで待つ必要があるとか。どれくらいの時間この街にいなければならないのだろうか。


「御者、次の出発はいつだ?」

「街の者と話をしたのですが運び出しが予定通りにいかず、いつ出発できるのかわからないのです……申し訳ございません」

「まあ急いでいるわけじゃないし、俺はいいけど。リュートは?」

「できるなら早めに済ませたいんだけど……その予定って、なんでダメになったの?」


 俺もそれは気になっていた。予定通りに進まなかった、それは分かるが簡単な理由だけでも知りたい。理由を知らずに何日も街で過ごすのは嫌だ。これ以上モヤモヤしたくない。


「はい。この街の者は皆、力仕事を冒険者に頼っていたのです。しかし、最近冒険者の多くが自分の街に帰ってしまい作物の収穫が追い付かなくなってしまったとか」


 出稼ぎでここまで来ていた冒険者が帰ってしまった、ね。多くはプレクストン出身の冒険者だろう。

 マキシムも困っていた。手伝い系の冒険者が増えて依頼を受けるのが大変だとかなんとか。


「つまり、作物の収穫が終われば出発できるってわけ? そっかぁ、まあ仕方ないね」

「そうなります。宿の手配は済ませていますので、観光でもしていってください」

「了解、行くぞ!」


 リュートの腕を掴まれて馬車から飛び出る。

 同じように説明を受けているフォトとヴァリサさんが目に入った、置いていくわけにもいかない。


「ちょっ、急ぐ必要ないだろ。フォトとヴァリサさんはどうすんだよ」

「キール、早く出発できるに越したことはないよね?」

「ああ、そうだけど」


 なんだこいつは。急に真面目に話を始めやがった。

 教えてやろう見たいな態度は気に入らねぇなぁ! 生意気だぞリュートのクセに。


「なら僕たちが収穫を手伝えばいいじゃないか! そしたら早く出発できるんだ!」

「えー、お前そういうキャラじゃないじゃん。普段なら『お金かからないし遊ぼうぜ!』とか言い出すのに」

「普段ならね。でも僕さ、クリム火山に行くの初めてなんだ。だからなんていうか、時間が経てばたつほど緊張しちゃうんだよ!! どうすればいいのこれ! ひいおばあちゃんとか僕絶対殺されちゃうよおおおお!!!」


 クリム火山に行くのを楽しみにしているのかと思ったら、普通に怖がっているだけだった。

 どんな人だろうか。500年前の族長は……あれだ、怖かったな。伝えない方がよさそうだ。


「知るか!!! 分かった、手伝うのは分かった。でももう少しゆっくりしようぜ。その方が緊張もしなくなるだろ。収穫は手伝うし、急ぎすぎない。これが一番いい。そうだろ?」

「確かに……ああ、怖い……絶対やばい人だって……大体今何歳だよ……」

「怖がりすぎだろ」

「だって、あの母上が会いたくないとか、怖いとか言ってたんだぞ……」


 あの母上とか言われてもな。


「俺には優しそうな親に見えたけど」

「家だとやばいんだよ!」

「とにかく宿屋に行くぞ。荷物……はないけどな、受付済ませねぇと」

「そうだなぁ……」


 どんだけ不安なんだよ。

 俺じゃあその気持ちは理解できないし、ヴァリサさんあたりに聞けばいいのに。あの人の家もかなりいいところなんだから共感してくれるぞ。


* * *


「収穫祭?」

「そう。作物の収穫が間に合っていないから、街のみんなで収穫するのよ。だからそう心配しなくてもそこまで時間は掛からないはずだわ」


 宿屋の娘から聞いた情報によると、街のみんなで収穫するので俺達が手伝う必要はないとのこと。

 それを聞いたリュートの顔は……うわ、面白い顔してる。開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。


「どうする?」


 部屋まで行き、確認する。男部屋と女部屋の二部屋で分けられたらしい。

 とりあえず男部屋に集まり、話をする。


「す、少しでも手伝って気を紛らわそう!」

「お手伝いなんて久しぶりです!」

「ははあ、リュートくんが人の手伝いをすると言い出すから驚いたんだけど……そういうことね」

「ヴァリサさんは家族と仲いいの?」


 ふと聞いてみた。ヴァリサさんの両親についてはよく知らないんだけど、どうなんだろ。


「んー、お姉さんの親は何というか強くなれば何でもいいよって人だからさ、基本仲はいいよ。ハニビーネの森で負けちゃったときはめっちゃ怒られたけどね」

「脳筋家族」

「は?」


 リュートの小さな呟きを聞き逃さなかったヴァリサさんは、情け容赦なく関節技を極めた。

 なぜ結果が分かっているのに煽るのだろうか、負けず嫌いな性格はこういうところがいけない。俺が言えた話ではないが。リンクスとかに煽りまくってたし。


「ぎゃあああああああああああああああああ!! 腕がああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「フォト、ギルド行ってみるか。なんか伝言とかあるかもだし」

「ですね。ではお先にギルドに行ってきます!」


 俺も俺だがフォトもフォトだ。この状況に慣れてしまったのだろう。出会ったばかりの穢れの無いフォトはどこに行ってしまったのか。

 あ、出会ったときは既にぶっ壊れてましたね。勇者オタクとか普通じゃない。


「ちょっと二人共!? 助けてよ! 見てこれ! 関節が曲がらない方向に曲がってる! すごく痛い!」

「丁度いい機会だし、技の精度を上げるためにコミュニケーションを取ろうじゃないか!」

「それ肉体言語でしょぉ!?」


 まだまだ余裕がありそうだなと思いながら宿屋を後にする。

 チラッと言っていたが技の精度って何のことだろうか。二人の合体技かな。俺も精霊との合体スキルがあるから気持ちわかるぞ、息を合わせないといけない技とかあるよな。

 さて、ギルドはどこにあるのだろうか。

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