解体と母親
「あーーーーー!!」
フォトが大きく声を上げた。何事だ!? 走って家に向かう。
そこには、入り口付近で固まるフォトが。その先には…………ひげ面の見覚えのあるおっさんが。
「おおっ、フォトさんとキールじゃねぇか!」
「お久しぶりでやんす!」
「お前ら…………どこにでもいるな」
最近見ないと思ったらこれだよ。忘れたころに現れる。
今回は……まあ解体の仕事だろうな。マキシムは分かるんだけどミニムはどうなんだ。力ないでしょ。
「あ! あの時のおっさんじゃん!」
「ん? おお、赤髪のガキじゃねぇか」
「ガキじゃないんですけど!?」
それに関しては俺は話に入れない。だって俺も童顔なんだもの。周りから見れば育ち盛りの若者だろう。
いや実際若者なんだけども、まだまだ子供に見られてしまう。顔に経験とか詰めなかったんですか?
「大工の依頼か。稼げるのか?」
「おう。それなりにランクも技術も必要だからな! 解体だけじゃなく建造にも関わるんだぜオレ様は」
もう大工になれよ。と言いたいが、様々な職業に対応できるというのは依頼者としても嬉しいだろう。
俺たちのような戦う冒険者とはまた違った貴重な人材だ。こいつらが元荒くれものとか、言われても信じないだろう。
いや、やっぱ信じるね。雰囲気が荒くれものだもん。
「つーことは俺とフォトの家を二人が作るのか。いやーなんか感動だな、あの時の二人が作るんだから」
「ん? ここフォトさんの家だったのか!?」
「おう。知らなかったのか」
そういやマキシムとミニムに会った時はいつも家の外だし、知らないのも当然か。
リュートも知らなかったのだ、仕方ない仕方ない。
「キ、キールさんと一緒に住むんです……えへっ」
「そういうわけだ。頼むな」
「そうか。遂に……おめでとう」
「おめでとうでやんす!」
「えへへへへ」
「? おう」
急に何だってんだ。フォトもすごい嬉しそうにしてるし、新しい家が建つのがそんなに嬉しいのか。うんうん、提案した俺としても嬉しいぞ。
なんて思っていると、マキシムが肩を組んできた。またなの?
「なあ、どっちからだ?」
「はあ? 俺からだけど」
「あっ、それ僕も気になってたんだよね。どんな感じだったんだよ?」
話にリュートまで入ってきた。この話にどんだけ興味があるんだよ。
「なんなんだよ……夕飯を食べ終わった後にお茶をしながらだ」
「ほお、いいじゃねぇか。雰囲気あって」
「それね! 羨ましいわー」
「雰囲気とか関係あんのか?」
正直雰囲気とか気にしてなかった。なんとなくお金の使い道とか、これからのことを考えてふと思いついたから言っただけなんだが。
「あるだろそりゃ、告白なんだから」
「え?」
「「えっ」」
二人の声が重なった。奥の方でミニムとフォトが解体の確認をしているな。解体は向こうに任せよう。
それよりもよくわからないことを言い出したこいつらの対応だ。
「あのなぁ、何度も言うが別に付き合ってないんだって」
「マジで言ってんのかよおい」
「僕、てっきり隣に新婚さんが引っ越してきたと思ってイラついてたんだけど……」
「よかったじゃん、イラつかなくなって」
「いやお前らの関係の方がモヤッとするわ!!! なんだお前ら! 死ね!」
言いすぎだろ。大体な、フォトは子供なんだ。子供に手を出すとか……いかんでしょ。
それにフォトがそれを望んでいるかどうかも分からない。多分、今もフォトは俺を俺自身じゃなく伝説の勇者として接しているのだ。だから変なことはできないし、したくない。
「フォトさんが可哀想だよな」
「そうだそうだ」
「別にフォトはそんな気持ちに何てなってないだろ。ほらさっさと働け。解体しろ」
こうして、フォトの家の解体が始まった。
屋根から始まっていき、魔法を使って次々とパーツが外れていく。まだ使える木材などを再利用できるようにするらしい。
昔住んでいた家の木材が、新しい家に残っている。いいじゃないか。愛着があるほど嬉しいシステムだ。
そして、解体を終え、木材を回収し、家の建造が始まったのだった。
* * *
「なんでまたうちに来てんの」
「暇だから」
「すみません……」
いつものようにリュートの部屋で暇をつぶしている。
しかし普通に計算外だった、まさか家を建てるのに数か月以上かかるとは。
大工とか、そういう仕事については疎いからな……やることが魔獣退治とスキル修練くらいになってしまったのだ。
「あー今日は何もやりたくない日だ」
「最近になって俺もそれを理解できるようになったよ。意味がないってわけじゃないけど、もっとやるべきことがあるのに動けないのがきつい」
自分の足で探しに行こうとしても、この広い世界だ。何かしら情報がなければ動けない。
今回ナイアドがプレクストン付近で動き出したのは運がよかった。別の大陸だったりとか、簡単に移動できない場所から侵略が始まった場合間に合わなかったかもしれない。
「はあ、いい加減何かないかねぇ」
だからと言って事件を望むのは間違っているだろうと言おうとしたその時、ドアからコンコンとノックの音が聞こえてきた。客か。
「誰だろ。待ってて」
「ん」
流石に寝転がってるのを見られたらまずいな、普通に座っておくか。
リュートがドアを開けると、そこには赤い髪の女性が立っていた。綺麗な装飾などが付いた服装、貴族だろうか。
「リュート。久しぶりね」
「なっ……! 母上……」
母上? へぇ、リュートのお母さんか。美人だけど、聞いていた通りお堅い人のようだ。
「今更何の用? 言っとくけど、戻るつもりは……」
「そう構える必要はないわ。少し頼みがあってね、クリム火山まで行ってほしいの」
「クリム火山って、あそこか」
竜の一族……リュートの祖先が住んでいた場所だ。懐かしいなぁ。
「あら、お友達?」
「そうだけど。って、それよりこっちの話だ。クリム火山で何をすればいいのさ」
「おばあ様……貴方の曽祖母に会いに行ってほしいの。もう長くないみたいでね、会ったことないでしょう?」
「僕の、ひいおばあちゃん……?」
会ったことがないのか。呼び方も分かっていないらしい。
「ええ。それとこの手紙に、お土産もお願いね。私はもう嫌われてしまっているから、あそこには行けないわ」
「……分かった。だけど」
「もうそれはいいのよ。私も親に歯向かってこの街に来たのだから」
「そう。それじゃ明日にでも出発するよ」
「お願いね」
リュートはお土産らしき箱と、手紙うを持って頷いた。俺達は邪魔かな。
「ああ、それと。お二人共リュートをよろしくお願いします」
「はあ」
「はいっ!」
それだけ言うと、リュートの母親は出て行ってしまった。仲が良くないとはいえ、お茶くらいしていけばよかったのに。
「美人さんでしたね」
「リュートに似てたな」
「どこが!? それより、聞いてたでしょ? 僕明日からクリム火山に行くから、部屋入れないよ……って合鍵渡してたっけ」
「誰もいない部屋になんかわざわざこねーよ」
明日からリュートいないのか。どうしようかねぇ、フォトにはスキルをあらかた教えたし、後は磨くだけ。やることはそこまでないんだよなぁ。
ま、明日のことは明日の俺が何とかするだろうと思い、俺とフォトは再び会話に戻ったのだった。
 




