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ある日の暇つぶし

 フォトがゴールドランクに、俺がダイヤモンドランクに上がってから数日が過ぎた。いざ家を建てるとなると思ったよりもお金が必要で、家を建てた後も余裕ができるようにしばらく依頼を達成してお金を稼ぐことになった。

 どうせ建てるのなら大きい家がいいということで、目標金額は特に決めていなかった。だが今日はもう家を建てるのには十分すぎる金額が集まっただろうと大工に依頼をしたのだ。今はその帰りだ。


「頼んじゃった……な」

「はい……でもいいんでしょうか? そんなに大きい家を建ててしまっても」

「そりゃ俺達はゴールドとダイヤの冒険者だからな。相応の家に住んでなきゃ舐められちまう。……郊外では目立つかもしれないけど」

「だって、あそこがいいんですもん。わたしと勇者様が出会った場所です」

「そうだな」


 短い期間にここまで来たのだ。長い時間をかけてというが、これからは他の魔王候補と戦えるようにもっと強くさせる必要がある。

 俺が魔王を討伐するまでだって話だけ聞けば期間は短かっただろう。五年かそこらなのだから。そのうち魔界は三年。地獄だった。


「さて、それじゃあ帰るか」

「そうですね。大工さんが来るまで時間ありますし」


 家にある荷物は全て運び出している。運び出しているというか、ギルドカードの中に入っているのだ。

 ランクアップすると収納も桁違いなので、わざわざ荷物を全て移す必要がない。便利な時代になったものだ。

 だが、家だけはどうにもならない。なので。


「おっすー、来たぞ」

「お邪魔しますね!」

「ねえなんで? なんで僕の家に来てるの?」


 そう、俺達はリュートの家に来ている。


「いや、この前話したろ? 家建てるからさ、フォトが住み場所無くなっちまったんだよ」

「ま、まさか僕の家に泊まるの……?」

「ああ」

「嘘だろ!?」

「嘘だ。俺の部屋隣だからそこに住む」

「嘘かよ!!」


 角部屋じゃなかったら確実に苦情が入っていただろう。

 リュートの隣の部屋は俺なので苦情が入ることはない。入れようと思えば入れられるが。夜中とか急に歌うし。


「にぎやかな奴だ。まあ暇だから来たんだよ」

「ふーん。にぎやかといえばドロップちゃんは? いないの?」

「あいつは精霊界で楽しくやってるよ。たまにペンダントから来るけどな」


 前よりかは頻度が減っている。最後に会った時は去り際に『邪魔になっちゃうし』とか言ってたな。

 何がどう邪魔なのだろうか。フォトもよくわかってなかった。


「そういや俺達は建設に立ち会うからしばらく休みだけど、お前の予定は?」

「僕は普通に休みだね。あの任務でたんまりお金が入ったからしばらくは遊んで暮らすよ」

「それでいいのか冒険者……」

「実力があるのにコツコツポイントを貯めるのは効率が悪いでしょ。気づいちゃったんだよねぇ、ポイント貯めるよりも強いモンスター倒して一気にランクを上げた方が早いって」


 一理あるかもしれない。フォトは人助けもしたいという理由で依頼を受けているが、毎日毎日依頼を受けてもランクが上がるのはずっと先だ。早ければ次まで一か月はかかる。

 お金に余裕があり、人助けが目的と言うわけじゃないのなら間違っている行動ではないだろう。


「そういうもんか」

「そういうもんだって。僕の目標は楽に生きることだからね」

「楽に生きたいのに戦うんですか?」

「地位も欲しいの。それに戦うのは好きだからね、無駄なことはしたくないだけなのさ」

「無駄なことねぇ」


 無駄なことか、俺にとって無駄なことってあっただろうか。魔王討伐の旅、むしろ無駄なことをしている余裕はほとんどなかったな。

 戦うのが好き、身体を動かすのが好きということだろうか。その考え俺も理解できる。身体を動かすのが目的で依頼を受けてもいいかもしれないな。この時代に来てから身体堅くなってるし。石になった影響かな?


「そろそろか」

「ですね」


 床から立ち上がり、背伸びをする。長くいたわけでもないが、座っていると姿勢が固定されて疲れるんだよな。


「あれ、もう行くの?」

「言ったろ、建設に立ち会うって。今日は家の取り壊しをするから見届けるんだよ」

「解体業者がくるまでここで暇つぶししてたってことね……どうせだし僕もついていくよ」


 なぜかリュートも立ち上がり背伸びを始めた。


「は? なんで?」

「いいでしょ別に!? 暇なんだよ! ぶっちゃけいきなり二人いなくなったらそれはそれで寂しいんだよ!!」

「まあいいけど。面白いもんでもないぞ」


 なんせ家を解体するのだ。むしろ悲しい話だろう。フォトも長いこと住んでいた家なので愛着が全くないわけではない。


「外に出る口実でもあるの。何か理由を付けなきゃずっと家の中だからね」

「そういう経験がないから俺にはわからん」


 家に一日中いたのは赤ん坊の時くらいだろう。歩けるようになってからは毎日外に出ていた。

 旅をしているわけでもない今、やることがないというのは初めての経験で俺も何をすればいいのか分からないな。


 三人で外に出て、郊外まで歩く。あー、暑い。本格的に暑くなってきたなぁ。少し前まで涼しかったのに。

 今でも夜はまだ涼しい方だが、日があたる場所はかなり暑い。


「おー、あそこか。って、ちっちゃ! 一人暮らし用じゃん」

「だから新しく建てるんだよ」

「でも動かなくていいから狭いのもありだね……」

「いや動けよ。動くの好きなんだろ」

「動きたい日と動きたくない日があるんだよ!」


 それも分からん。

 もうリュートは無視しようと家のほうを見ると、工具箱や荷台がついた馬車が見えた。少し早めに出たつもりだったがもう来てたのか。


「お、もう大工が来てるな。いいタイミングだ」

「わ、わたし挨拶してきますね!」


 俺もしばらく住んだ家だ。あの台所や寝室が無くなってしまうのは悲しいが、最後まで見届けよう。

 そんなことを思いながらフォトの家に向かうのだった。

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