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暴走

 水の巨人を前にして言葉を失う。

 身体は透き通っていて、人の形をしている。のだが、水の四天王バルカンの特徴である霧が出る突起があるのを見るにベースが巨人でそこにバルカンの能力が加わったという形だろう。


「おわあああああ!」


 霧に襲われたリュートが逃げながら俺の近くに滑り込んできた。あの霧、自由に動くんだよな。厄介だ。

 先程まで燃え盛っていた槍は既に元に戻っている。


「なんだよあれ! 『暴れ竜』の炎でかき消せないんだけど! 無茶苦茶だ!」

「…………俺がナイアドと戦う。リュートは……」

「やあああああああああ!!!」


 リュートの指示を出そうとしたその時、フォトが『神速』を使いながらバルカンに攻撃を始めた。

 もう魔物も減っているから攻撃するのはいいのだが、いきなりすぎではないだろうか。


「フォト! 何してるんだ!」

「この巨人はわたしたちが相手します!」

「……リュート、二人と協力して魔人バルカンを倒せ。あと、二人に攻撃をする時は必ずスキルか魔法を使うよう伝えといてくれ」

「了解、無理すんなよ」


 そう言い残してリュートはバルカン討伐へ向かった。

 本物の四天王バルカンならば倒すことはできないだろう、だが、これは作り出された魔人のバルカンだ。

 性質は全く同じ、物理攻撃の効かない厄介な身体。強い魔力を込めた攻撃で魔力を相殺していくしかない。


「ナイアド!」

「ほう、向かってきますか。バルカン!」


 バルカンの手が俺に向かって振り下ろされた。避けて攻撃をするか、それとも相殺するか。だが一気に力を使うと反撃を受けた時に対処できない。とにかく避けて隙を伺うか?

 なんて思考している間に目の前まで巨大な腕が迫っていた。


「させっかよ! 『ドラゴブラスト』!!!」


 俺の前に出てきたリュートが槍の先から灼熱の炎を放出させた。

 バルカンの右腕が一時的に蒸発する。それにより攻撃を避ける必要がなくなった。

 こいつを殺すわけにはいかない、バルカンからの攻撃はみんなが防いでくれるので、しばらく剣を交えて様子を見よう。


「お前は何者だ? なぜ四天王の力を持った魔人を作れる」

「私のセリフですよ。なぜ貴方が四天王を知っている、なぜ貴方が魔王様を知っている!!」

「ちょっと昔のことに詳しいだけだ、500年前くらいな」

「人間界にはまだそのような記録が残っているのですか。やはり、一刻も早く征服しなければいけませんねぇ!!!」


 ナイアドの剣はとても重い。俺が弱体化しているのもあるだろうが、それでも人間の出せる力ではない。人間と魔族では、初めから能力が違うのだ。

 ヴァリサさんはこれ以上の力を出しているだろうが、それは魔法を何度も使っているからだ。素の攻撃力では適わない。


「くっ!」


 いまだにバルカンから音はなり続けている。常に一定の間隔で魔物も生成されるため、俺もみんなも休む暇がない。

 音にこれ以上慣れることはできなさそうだ、本当に、限界が、近い。視界も揺らいできた。まるで水中にいるようだ。


「おや、限界ですか? もう少し楽しめると思っていたのですがね」

「一応、聞いておく、ハニビーネの森に、サウンドジュエルを置いたのは……お前、だな?」


 途切れ途切れの言葉を紡ぎそう聞いた。


「もちろん。他に聞きたいことはありますか? ああ、声を出す余裕もなさそうなので私から一つ教えてあげましょうか。私にここまで余裕がある理由についてです」

「…………なに?」

「貴方たちがここにきた時点で、私の勝ちは確定しているんですよ。例え貴方が私よりも格上でもです」

「どういう、意味だ……」


 やばい。もう、意識が。

 プツン、と意識が落ちた。一瞬視界が真っ暗になり、すぐに視界が戻る。


 身体だけは動かすことができる。ぼんやりとした視界と、音だけがある。

 なんだ、この感覚は。意識がなくなったはずなのに、身体が勝手に動く。


「ぐっ、急に力が強くなりましたね……最後の意地ですか? 無駄なあがきですよ!」


 違う。違う。それは俺じゃない。俺が動かしているわけじゃない。

 勝手に動く身体は、勝手にスキルを使った。『アクセル』『神速』『斬鉄一閃』。

 『アクセル』で加速し『神速』でさらに瞬間的な動きをし、『斬鉄一閃』でナイアドの剣を大きく弾く。


 『斬鉄一閃』は武器や防具の破壊を目的として考案されたスキルだ。一切ブレることなく武器や防具の弱い場所に当てるという技。

 本来は自力で弱点を見抜きそこにスキルを使うのだが、この暴れる身体は使い方が無茶苦茶だ。もう少し下を狙えば破壊できたはずなのに。


「な、なんですかこの力は……! それにその技……スキル! 思えばあの少女も、赤髪の青年も使っていましたね。まさかこの時代にスキル使いが集まるとは思いませんでしたよ。ですが無駄、無駄です!」


 勝手に身体が動くのは予想外だったが、戦えているので良しとする。

 だが、一つ。何が無駄なのだろうか。そこだけが気になる。

 ナイアドが何かしら新しい技を使った場合、この身体が対応できる気がしないのだ。


「キール! おいキール! 聞こえてんのか!」

「…………」


 なんだよ、と返そうとしたのに声が出ない。顔を動かして確認することもできない。


「聞こえてる前提で言うぞ! サウンドジュエルが強く光っててしかも魔物も減ってる! 何かあるかもしれない!」


 サウンドジュエルが……? 元々光っているが、強く光るのに何の意味があるというのか。

 それに、魔物が減ってるのはいいことじゃないか。もしかしたら魔力不足の印かもしれない。


「やっと集まりましたか。無駄な費用を出さずに済みました」


 どういう意味だ?


「それでは私はここで。さようなら未来ある若者たち。私がここで貴方たちを殺さなければ、貴方達はいずれ魔王を倒す勇者になっていたことでしょう。残念です」


 そう言うと、ナイアドは空を飛びながら大きな泡を作った。それを追いかけようと身体は高く飛びあがる。

 俺の身体がナイアドに到達する前に、丸く大きな泡の中に入ったナイアドはパチンと指を鳴らした。


 次の瞬間、洞窟内が青い光に包まれる。この状態では何が起こったのか確認できない。確認しようにも見えないのだが。

 光からして発生源はバルカンだ。ならば、リュートの言う通り何かがあったのだろう。


「出口へ! フォトちゃん! キール! リュートくん!」

「む、無理だ! 水中は渦巻いてて泳げない!」

「キールさん!!」


 背後で聞こえてくる会話から考察しようとするが、視界に水が映りこんで思考を放棄する。

 水だ。それもとんでもない量の。洞窟内が全て水で満たされていく。

 落下していく俺の身体を水が包み込む。

 ははっ、マジかよ。そりゃ確かにこの洞窟に入った時点でお前の勝ちじゃねぇか。ナイアド。


 俺の視界に入ってきたのは、水で揺らぐ視界の先で笑うナイアドと、必死に息を止めてもがく仲間たちの姿だった。

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