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ミネラル鉱山内部

 仮面の男を取り逃がし立ち尽くしていると、遠くから声が聞こえた。静かなのにうるさく感じていた滝以外の音に安心する。ずっと、時間が止まっているような感覚だった。


「キールさん!!」

「キール!!!」


 俺の名前を呼びながらこちらに走ってくるのはフォトとリュート、その後ろにヴァリサさんだ。

 全員が心配そうな顔をしているが、俺は無事だ。俺は。


「悪い、逃がしちまった」


 苦笑いをしながらそう言うと、ヴァリサさんが前に出てきて口を開いた。


「何があったんだ、説明してくれ」

「……さっきな、仮面の男が――――――」


 俺は仮面の男について説明した。俺がその男と剣を交えたことや、大精霊が複数体捕まってしまったこと。

 情けない話だ、魔王と同じく魔物や魔獣を操る相手に負けるなんて勇者失格だ。


「そんな、キールさんが逃がすなんて……」

「…………悪い」

「うっせーーーーー!!!」

「びゃっ!?」


 小さな声でつぶやくと、リュートが俺の頬を勢いよくバチンとビンタした。

 え、痛い、普通に痛いんだけど。


「なんだお前さっきからくよくよくよくよ! まだ近くにいるかもしれないだろ! 早く探すぞ!」

「お、おう」

「リュートくんの言う通りだ。理由は知らないが、仮面に青い服なんて目立つ格好をしているのだから、簡単に見つかる」

「そう、だな。よし。向こうからしてもこっちの存在は邪魔だろうし、味方を増やしたらすぐに襲ってくるはずだ。相手が設置する前に叩く。魔獣や魔物が多くいる場所を探そう」


 こんな大事件を起こしたのだ、相手が強かろうとこちらを潰しに来るのが普通だろう。それに、あの状況で俺の実力を理解したわけではない。一人では無理でも複数の魔獣を使えば倒せると思うはずだ。

 そうと決まればと魔獣や魔物、モンスターが多く生息する場所に向かう。

 ……まさかリュートに元気づけられるとはな。


「それならば……鉱山内部だろうな。洞窟の出入り口は二か所ある。また二手に分かれて挟み撃ちにしようか」

「それで中にそいつがいなかったら間抜けだなぁ」

「何か言ったかいリュートくん」

「な、なにもっ?」


 こんな時だってのにリュートはヴァリサさんに聞こえる声でそんなことを言ってしまった。

 いや、こんな時だからこそ場を和ませるために言ったのかな。どうだろうか。


「中にいなかったらその時だ、移動中に外の魔獣が暴れてたら外にいる可能性の方が高い。外にいたら作戦変更で、鉱山内部で情報共有だ」

「それでいこう。後は……」


 それ以外にもあらかたの作戦を決める。

 連携の取り方や、影の魔物が大量に現れた時の対処法などだ。


「ああ、それとフォト」


 解散する直前にフォトを呼び止める。


「はい?」

「もしも――――――」


 フォトにとある作戦を伝え、再び解散する。リュートは炎を使うので鉱山内で使われたらなんか嫌だな。熱いのは嫌だ。あと寒いのも嫌だ。

 伝えた作戦、使わずに終われればいいんだけどなと思いつつもミネラル鉱山の反対側まで走った。


* * *


 鉱山への入口に行くまで強化された魔獣は現れなかった。魔物は相変わらず襲ってくるが、前みたいに狂ってはいない。

 つまり、まだ設置していないか、内部にいるかだ。

 なんて思っていたら奥から真っ赤な目のゲイザーが現れた。俺の記憶の中のゲイザーよりも凶暴で、狂っている。魔物のような暴れ方。確定かな。


「っ!? なんだそりゃっ!」


 リュートがゲイザーを槍で貫いた。焦りながらも巨大な目の中心を確実に貫いている。流石だな。

 ゲイザーは空中に浮遊する目のモンスターだ。目から魔力エネルギーの光線を出してくるので遠距離で戦うのは不利。倒すだけなら簡単な相手だ。なんせ弱点がでかいんだからな。


「当たりだな、中にいるぞ。気を引き締めていけ」

「りょ、了解」


 俺の発言により緊張感が高まる。今は鉱石を採掘した後の道だから進みやすいが、奥まで行くとただの洞窟になっているため道が整備されていない。慎重に進まなくては。


「っ!!!」


 突如激しい頭痛に襲われる。微かにあの音が聞こえるのだ。だがこれも三回目、ほんの僅かだが初見の時よりはマシだ。


「ど、どうした!?」

「例の、サウンドジュエルだ……よし、短期決戦で行くぞ」

「大丈夫なのかよ」

「大丈夫だ。走るぞ」


 弱体化しているためむやみに前に出るのは危険ということで、リュートと同じ速さで走る。


 真っ直ぐ道を進むと、大きな空間に出た。山の中にぽっかりと穴が開いているようなその空間の中心に、サウンドジュエルが四つ設置されていた。

 そして問題の仮面の男は、天井付近の足場に立っている。あの高さ、攻撃をすることはできるがその前に防がれてしまうだろう。


「な、なんだこの数」

「気を抜くなよ、一気に攻めるぞ」


 フォトとヴァリサさんはまだ到着していない。到着してからの方がいいだろうか、いや、そうしたらまた魔物が増えるだけだ。

 あのサウンドジュエルは魔物を生み出す。魔力から生み出されるため数に限りがない。魔物が生成され始めてからは時間との闘いだ。


「馬鹿ですねぇ! わざわざ死にに来てくださるとは!!」

「逃げてんじゃねーよぉ! 降りて来いよ!!! 負けるのが怖いのかーーー!?」


 リュートが仮面の男を挑発した。もう目の前まで魔獣が来てるのに何してるの? 馬鹿なの?


「貴方は魔法使いに近距離で戦えと言うのですか?」

「えっ……あーーー、そうだ!!!」

「無視しろ馬鹿! 戦うぞ!」


 死ぬかもしれない状況でアホアホトークしている場合じゃない。だが、この会話のおかげで緊張も和らいだ。やはりリュートってわざとやっているのでは? 終わったら聞いてみるか。

 武器を持って走り出し、本格的な戦闘が始まる。魔獣に魔物にモンスター。そのすべてが暴れているこの空間で、今戦闘が始まった。

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