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ミネラル鉱山

 道が無くなり馬が通れる場所が無くなってしまったため、街のはずれに馬を止めて山に向かった。

 何頭か魔獣が現れるが、そこまで強くないので簡単に倒すことができた。まだ強化されていない、つまりまだサウンドジュエルは設置されていないということ。

 そのことについて歩きながら全員で話し合った結果、短時間で走って犯人を捜すという作戦になった。


「だりゃあああ!!」


 頻繁に現れるのはキラーラビットという魔物だ。一本角の兎で、突進しながら攻撃してくるため非常にうざったい。

 一発で払い落とせば簡単に倒せるので走りながら倒すのには丁度いい。これがもっとでかくて道をふさいでるとかなら無視一択だった。


「ナイスッ、まさか任務でも組むことになるとはね」


 隣で走りながらそんなことを言ったのはリュート。今までの依頼と同じくリュートと組んでの探索だ。

 ちなみに、女性ということでヴァリサさんとフォトを組ませた。俺とフォトが組まないのはまあそういう意味もあるのだが、今回のヴァリサさんは信頼できるという部分も大きい。

 なんとヴァリサさん、常にパワーマックスなので魔獣が一発で肉塊になるのだ。俺も全力で強化スキルを使えばできるのだが、スラッシュの精度が悪くなるから絶対に真似したくないな。


「お前も戦えよ」

「だって一人で倒したほうが楽じゃん? 探索自体は魔物も魔獣も強化? されてないみたいで楽だし」

「まあそうだが」


 左右それぞれで戦っているため連携とかそもそもない。リュート、普通に強いんだよな。

 それに槍だし、邪魔するわけにもいかない。俺も共闘とかあんまりやったことないからこのほうが楽だ。


「しっかし普通の山だなー、まだ魔獣も三頭程度だろ?」

「三頭でも十分多くないか? 人が立ち入ってるのかもしれない」


 精霊は現地調達だろうか、元々人間界に精霊がほとんど来なくなってるらしいし近くにいる精霊に聞くこともできない。

 精霊の種類は『火』『風』『水』『土』だ。山にいる精霊といえば土か、水だろう。風は割とどこにでも現れる。高いところに現れやすいので山の頂上付近に多くいるんじゃないかな。

 水の精霊は川や泉の近くにいるだろうし、川や泉を巡ろう。泉なら最低でも一人いないと泉が汚れるからな。わかりやすい。


「なあ、今何か聞こえなかったか」

「ん? どこからだ?」


 突然リュートが立ち止まってそんなことを言い出した。聞き逃していたが、走っていると音をよく聞き取れないから困る。

 しっかりと立ち止まり耳を澄ませると、遠くの方から悲鳴のようなものが聞こえた。幼い女性の声。こんな山の上だ、おそらく大精霊だろう。


「っ!! あっちか!?」


 俺が走り出そうとすると、リュートに肩を掴まれて止められた。全速力で走ろうとしていたためおっとっとと体勢を崩す。


「お、おい。二人は呼ばなくていいのかよ!?」

「あ、そうか。なら二人を呼んできてくれ! いけそうなら一人で倒す、無理そうなら遠くから観察する!」

「分かった! ……気を付けろよ」


 心配しているのだろうか。相手が未知の存在だからこそ、俺の実力を知っていても心配はしてしまうと。

 残念ながら俺は長い旅の間に常に未知と戦い続けてきたんだ、このくらい慣れてる。


「おう、なんなら馬車を連れてきて運ぶ準備整えてくれてもいいぜ」


 軽く冗談を言い悲鳴が下方向へ走る。リュートもまた俺とは反対方向に走った。

 『神速』を使いさらに速度を上げる。樹木をジグザグに避けながら山を縫うように登る。

 続いて『隠密』で相手にも気づかれないようにする。準備は万全、後は探しながら走るだけだ。


 坂道は『神速』を使ってもそれなりに時間がかかる。途中で見つけた小川をたどって登ると、滝のようなものが見えた。

 その下に開けた空間がある。そこに、複数のサウンドジュエルらしきものが置かれている。

 茂みに隠れながら慎重に覗くと、全身青い服で染まった仮面の男がサウンドジュエルを持ちながら立っていた。


「何をしているんだ……?」

『あ、なんかあいつだった気がする!』


 テレパシーでドロップが話しかけてくる。


『はあ? お前確か覚えてないとか言ってなかったか?』

『今思い出したの! チラッと見えた服が青かった!』

『そんじゃあいつで間違いないか。さっさと捕まえちまおう』


 そもそもあのサウンドジュエルの時点で疑う余地もないのだ。今すぐに茂みから飛び出してあいつを捕まえよう。

 と、思ったその時。滝の裏に隠れていたであろう水の大精霊が仮面の男に向かって不意打ちをした。


「たああああ!!」

「甘い!」


 水の攻撃が当たる直前、仮面の男は左手首に付けられた腕輪と右手に付けられた指輪を重ねた。

 その瞬間、ハニビーネの森で聞いた時と同じ音が鳴り響いた。音量はそこまで大きくはない、だが、遠くから聞いている俺は吐き気に襲われた。

 おそらく至近距離で聞いているあの大精霊はもっと苦しい思いをしているだろう。


「う、うう……なに、これ……」

「あっはははは!! もう一匹ゲット、今日はいい収穫です」


 サウンドジュエルに大精霊を入れながら高笑いする仮面の男に怒りがこみ上げてくる。

 しかし、身体が上手く動かない。目の前で新たに精霊が捕まりそうになっているのに。

 無理やりにでも動かそうとするが、乾燥した枝を踏んでしまいパキッという大きな音を鳴らしてしまった。しまった、これでは『隠密』を使っていてもバレてしまう。


「誰だっ!」

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 覚悟を決め自由に動かない身体を無理やり動かす。仮面の男も細身の剣を持ち俺の攻撃を受け止めてきた。

 弱体化しているとはいえ全力のスラッシュが止められるだと。顔を上げ仮面の男を睨みつける。


「このパワー……!! 分が悪そうですね。また会いましょう、ではっ」


 ようやく体調が戻ってきたタイミングで仮面の男が煙玉を使った。周囲が滝の霧と煙で充満する。

 煙では『暗視』を使っても意味がない、音や影だけを頼りに仮面の男を探す。


「逃げるな! ごほっ、ぐっ……くそっ!!」


 咳き込みながら煙を『ブラスト』で払う。剣先から放たれた風により突き抜けるように煙に大きな穴が開く。

 煙が無くなり、視界もよくなる。が、そこにはもう仮面の男はおらず、置かれていたサウンドジュエルも無くなっていた。

 滝つぼ付近に残されたのは俺と、突き刺すような滝の音だけだった。

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