邪魔者と移動開始
ギルドの外に出る。すうっと空気を吸い込む、ああ、空気が……美味しくない。なんか臭い。
臭いの元を見ると、みすぼらしい恰好をした男たちが俺のことを睨みつけていた。その先頭には先程ギルドを追放された男が。
「よォ、さっきはよくもやってくれたなァ? 全員でボコってやるからついてこいよ」
「本当についさっきじゃねーか、行動力どうなってんだ」
俺たちが話し合いをしている間に仲間を呼んできたのか? 荒くれもの仲間ねぇ、もうマキシムとミニムのこと荒くれものって言えないな。
「うるせェ、黙ってついてこい」
「へいへい」
言われるがままに路地裏に連れていかれる。
逃げ道を完全にふさがれた。全員が汚い笑い声をあげる。早く終わらせてくれないかな。
「この後予定あるから早めに終わらせてくれない?」
「てんめェ自分の状況分かってんのかァ!? やっちまえ!」
「うおらあああ!!」
「だからぁ……」
大勢の男たちが俺に向かって武器を振り下ろした。ある者は斧を。ある者は剣を。ある者は槍を。ある者はナイフを。こんな至近距離で一人に向かって集中攻撃をする時点で戦略もクソもない。
「数に頼ってる時点で弱いって認めてるようなもんだろうが!」
相手の醜さへの怒りで声を荒げる。
それ以上の言葉は不要、息を整え腰を落とす。真っ直ぐあの男を見据え、拳を握る。足に力を入れる。
「『神速』ッ!!!」
一瞬の静寂、周りにいる荒くれものの武器が俺に直撃するよりも前に、俺の身体は轟く雷鳴のように男どもの間をジグザグにすり抜けた。
目の前に憎たらしい男の顔が、驚きを隠せないその顔に向けて、こぶしを突き上げた。
「なあッ!?」
アッパーが顎に直撃し、男は人数人分宙を舞った。
拳を上げた状態のまま立ち尽くす。これだけの人数が集まっているのに、誰一人言葉を発することはない。
「行っていいか?」
「あ、え? ああ………………はい」
「そうか」
部下? と思われる男に聞くと、外に出る許可が下りた。余計なことをせずに早く終わってよかったと思いながら大通りに戻る。
日の光に照らされ、思わず額に手を当てて光を遮った。
待ちゆく人たち、子供の笑い声。騒がしいが、心地よい。大通りの方が人が多いのに、なぜか恐ろしく空気が美味しかった。
* * *
しばらく街を歩いてから酒場に戻り、ギルドの扉を開ける。無駄な外出だったかな。
いや、俺が外に出なかったら全員で出発するときに絡まれてたか。結果的に良かったと考えるべきだ。
「あれ、キーにゃん外に出てたにゃ? 何してたにゃ」
「空気を浄化してきた」
「何言ってるにゃ?」
まあ通じないよな。分かってたがその馬鹿を見る顔やめろ、腹立つ。
それにしても馬車の準備早いな。他の人に指示出しただけとか? どうもそれっぱいな。
なんて話をしていると、扉が開きリュートとフォトの二人が入ってきた。
「きたくうううううううう!」
「うっせ。あとここ家じゃないだろ」
「い、今戻りました! 準備万端です!」
「おかえり! えらいぞ!」
「僕と反応違いすぎません!?」
「なあフォト、リュートと同じタイミングってことは『神速』使ったな?」
「無視っ!?」
だって普通にうるさいんだもん。
リュートのことはどうでもいいんだ、俺はフォトに伝えなければならないことがある。『神速』はそれはそれは便利なスキルなのだが、速すぎて危険な場合もあるのだ。
「は、はい。すみません……」
「いや、もう普段も使っていいと思う。隠すことでもないしな。ただ、人が多い街で使うときは気を付けろよ?」
「なるほど、わかりました!」
人に当たったらマジでシャレにならないからな。だって高速タックルだよ? 疑似『メテオタックル』みたいなものだよ? あ、『メテオタックル』は超強化されたタックルスキルね。
とにかく『神速』を使いながらの衝突事故は相手にも自分にもダメージが入るのだ。危ない。
「おみゃーら、喋ってないでさっさと出発するにゃ!」
「あー怒られた。ほら、謝れって」
「なんで僕が!?」
「リューにゃん、うるさいにゃ」
「理不尽すぎるだろ! ねえ! なんでこの世界は僕に優しくないの!?」
両手を激しく動かしながらそう訴えるリュートだったが、誰一人としてリュートの話を真面目に聞いている人はいなかった。
「何準備した?」
「とりあえずポーションの補充ですかね。それとお菓子です。移動中に食べましょ」
「おっ、いいねー。あたしも食べていい?」
「もちろん!」
「馬車で茶会だな」
ポーションの補充のついでに家にあったお菓子を持ってきた感じだな。それにギルドカードに入ってる荷物で、必要ないものを出すとかの整理だな。準備と言ってもその程度だ。
本格的に準備をするというなら、武器の調整や装備などの修理とそれこそ数日必要だからな。最低限の準備ならこんなもんだろ。
「みゃーも楽しみにゃ」
「え、リンクスも来るの?」
衝撃の事実。リンクスはてっきり前回のようにギルドで仕事をするものだと思っていた。
「向こうのギルド代表に説明も必要なんだにゃ。それだけ重要な任務なんだにゃ」
「ああ、そうか。そうだよな」
改めて重要な任務だと認識する。何者かが魔獣を暴れさせている。これだけで国が動くような事件だろう。
「ところで、目的地ってどこなんだ?」
「ミネラル鉱山にゃ」
「あそこね、了解」
ミネラル鉱山、鉱石が大量に採掘されていた鉱山だ。内部に洞窟があり、上に登ることができる。
採掘は地下に向かって行われるからあんまり山を登る人はいないんだよな。魔獣もいるからね仕方ないね。
「ミネラル鉱山……あの高い山ですね」
「あそこ鉱石が沢山掘れるんだよな」
「沢山? 採掘しやすい鉱石は掘りつくしちゃったから昔よりは掘れないにゃ。今はほぼ休山状態にゃ」
「そ、そうだったな」
やっちまった。そうか、ある程度掘りつくされちゃってるよな。
500年も経ったら採掘技術も上がって掘れる鉱石も増えるだろう。なのに休山ってことはさらに掘りつくしたということ。またさらに技術が上がるまで休山だ。まあその方が一般人を巻き込まないから楽か。
久しぶりのミネラル鉱山、遠くから見ている分には変わらないが、内部は大きく変わっているだろう。期待に胸を膨らませながら、俺は馬車に乗るのだった。
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