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邪魔者の排除

 依頼を受けては達成し、フォトにスキルを教えて。住む場所を探し、また依頼を受けて。

 そんな生活をしばらく続けていたある日、リンクスに呼び出されて俺とリュートはギルドに向かった。

 リンクスはギルドの前にある席に座っていた。俺達もそこに座り会話を始める。


「どうしたんですかギルマス、急に呼び出したりして」

「全員が集まったら説明するにゃ」

「全員? 他に誰か来るのか?」


 てっきり俺とリュートに直接依頼が来たのかと思ったよ。名前が売れると個人に依頼がきたりするからな。

 そうなると、やっぱりまた調査とかだろうか。なんて思っていると、酒場の扉が勢いよく開いた。息を切らしながら入ってきたのはヴァリサさんを連れたフォトだった。


「遅れてすみませーん! ヴァリサさんが見つからなくて!」

「それ言わないでよ」

「フォトも呼ばれてたか」


 それにヴァリサさんも、ってことはこれはまた森の時みたいな調査の依頼だな。だとしたら戦える冒険者少なすぎるだろ。え、そんなに冒険者って衰退してたの?


「あれっ? ゆ……キールさんも? それにリュートさんまで」


 数日会わなかっただけで勇者様呼びに戻りそうになるのやめて。


「おっす、久しぶりだねぇキール」

「どうも」

「げぇ!? ヴァ、ヴァリサ!?」


 ヴァリサさんにリュートが驚く。知り合いかな? いや、普通に冒険者として知っている可能性もあるか。でも、そうなると呼び捨てなのが気になるな。


「ん……? 君は……リュートくんか。大きくなったな」

「そそそ、そっすね。はははっ」


 知り合いで確定だ。しかも子供のころからの知り合いで、最近は会ってないやつ。

 どういう繋がりだろうか、とても気になる。


「知り合いだったのか」

「ま、まあな。そ、それより話って何ですかギルマス」


 リュートとヴァリサさんの関係について知りたかったのに、話題が呼び出された理由に流れてしまった。


「今日は――――――」


 リンクスが口を開こうとしたその時、近くの席に座っていた男がダンッと音を出してジョッキをテーブルに置いた。丁寧に扱えよ酒場のだろそれ。


「なんだァ? まーたギルドマスターのコネでランクアップでもすんのかよ」

「誰かと思えばあんたか。残念ながらフォトはシルバーランクの依頼を何度も達成しているぞ」


 スキルを教える時に何度か依頼の内容を聞いたのだ。


「その通りにゃ。フォトにゃんには十分すぎる実力があるにゃ。コネなんてないにゃ」

「へっ、どうだか」

「てめぇ!」


 ヴァリサさんが思わず手を出した。襟を掴み、無理やり立たせる。暴力沙汰なので酒場の客は見て見ぬふりをしているようだ。


「ぐッ、ヘヘッ、手ェ出すのかよ」

「…………くっ」


 悔しいがこればかりは仕方がない。向こうは手は出していない、ここでボコボコにするのは簡単だが、それは状況的によろしくない。

 リュートはイライラした表情で早くボコれよと目で語りかけてくる。いやだからダメなんだって、ギルドメンバー同士の暴力行為は。ちょっとした喧嘩なら注意されるくらいだが、思いっきり殴ったりしたらアウトだ。


「ヴァリサさん、落ち着いて。なあ、なんで突っかかってくるんだ? 教えてくれよ、俺たちのなのがいけなくて何が悪いんだ?」

「ああ? そりゃあてめェ…………コネを、だな」


 急に歯切れが悪くなる。元々が想像でしかないのだ、逆にこっちから証拠を出せと言ったら言葉は咄嗟に出てこなくなる。


「証拠はあるのか? ギルドマスター本人がコネは無いと言ってるんだ、それなのにまだ疑うのか?」

「……う、うるせェ! このオレが、そこの女よりも、なよなよした男よりも弱いなんてありえねェだろうがッ!!!」


 訳の分からないキレ方をしながら殴りかかってくる。前と言っていることが違うじゃないか。確かこいつは、フォトを馬鹿にするときに俺のことを強い男と認めていたはずだ。

 適当な言葉で自分を強く見せたかったのだろう。実力があるならば実際に行動をして示せばいい、見下す行為は、自分が弱いと認めているようなものなのに。


「死ねェクソボウズ!!!」


 でかい図体から放たれる拳は俺にはとても遅く見えた。モンスターだってそうだ、身体が大きければ攻撃を避けやすくなる。だから、隙をついて攻撃をしなければならないのに。こんな適当に殴って、自慢のパワーも意味ないだろそれじゃ。

 だが、あえてその拳を受けた。自分を強いと豪語するだけある。巨大な筋肉は本物だったようで、頭にじーんとにじむような痛みが残った。脳が揺れ、一瞬くらっとする。


「……ってーな」

「キールさん!」

「おう、大丈夫大丈夫。それよりさ、殴ったよな?」


 リンクスの目が変わる。冷たい目だ、死んだ猫みたいな目。あ、猫だったか。ネコです。


「ち、違っ、おめェが……」

「俺? 俺が悪いのかよ。なんで突っかかってくるのか聞いただけじゃねーか。なあリンクス、どう思う?」

「ギルドメンバー同士の過度な暴力行為はギルドマスターとして見過ごせないにゃ。最低でもギルドからの退団。最悪、冒険者カードの剥奪も考えるにゃ」

「む、向こうが悪いだろうがッ!! オレは悪くねェ!」


 自分の状況を理解したのか後ずさりをする男の肩を掴む。

 立場が上の人間に言われてようやく悟ったか。もう遅いんだけどね。


「逃げるなよ。自分から仕掛けてきたことだろうが」

「な、ならヴァリサも罰を受けるべきだろうが!」


 そりゃ確かに言えてるな。だけど、同じ罰にはならないと思うよ。


「襟を掴むくらいなら言い合いでよくあることにゃ。それはそれとしてダイヤランクの行動として相応しくないから後で遅刻も合わせて厳重注意にゃ」

「そんなっ!?」

「よーし、ヴァリサさんも罰を受けるそうだ。よかったな。まあ後はヤケ酒でもして冒険者協会からの知らせを待ってな」

「…………」


 男は無言で睨みつけてくる。これ以上言っても意味がないと気づいたか。賢い方だな。


「今みたいに邪魔されちゃ困るしな、話は中でしようぜ」

「やっと終わったか。僕も理不尽な怒りは知ってるつもりだったんだけどムカつくねほんと」


 リュートの過去はまたいつか聞けるだろう。今はまだその時ではない。

 話の途中で入ってこなかったのは俺の実力を知っているからか。信頼されているようでなによりだ。

 ギルドから追い出される男の話はもう終わりだ、これ以上関わってくることもないだろう。さっきまでの騒ぎを忘れ話をするために、俺達はギルドの奥の部屋に入った。

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