リュートの部屋とスキル
依頼を達成し、報酬金を受け取り、どうせだから一緒に食事をしようと酒場でリュートを食事をした。
ドロップも精霊界に帰りたいということで一旦解散、ということになったのだが。
「なんで僕の部屋にキールがいるのさ!!!!!」
「いやははは、部屋取れなくてな」
実際には空いている宿屋はあったのだが、無駄に高かったのだ。どうせだしリュートの家についていったのだが、ふむ、いい部屋だなここ。俺も似たような家探して借りようかな。
「そういやお前って実家もプレクストンにあるんだっけか」
「そうだけど、なにさ」
「いや、それならわざわざ家借りなくてもよくね?」
「僕の親は冒険者になることを完全に認めてるわけじゃないんだよ。普段から仲もよくないし。認められても僕はここに住むね」
「ふーん、お前も大変だな」
俺は親についてよく知らないから、こういう時に何て言えばいいのか分からないな。
「家で思い出した。キールはここに住んでるのになんで家を借りてないのさ」
「つい数日前までフォトの家に住んでたからなぁ、家を探すにしてもそんな簡単に見つかるもんじゃないし」
「…………は? フォトちゃんの家に住んでた?」
「やべっ」
自然に聞いてくるものだからこちらも自然に答えてしまった。そりゃまずいよな、一緒にいるだけならまだしも住んでんだから。
「おおおお前えええ!! 子供に手ぇ出してるのかよっ!!」
「待て誤解だ! 俺だってまずいと思ってたんだけど、フォトが寂しいって言ってな、だから勘違いすんな!」
「誤解どころか確信じゃねーかよ!! なんだお前ら! 聞いてたらのろけ話ばっかりだし、怖すぎるわ!」
テーブルにバンッと手を叩きつけながらまくし立ててくる。妬みなのか知らんが、そういう関係じゃない以上こちらから言い返せることは何もない。
「落ち着けよ……ほら、お茶上げるから」
「元々僕のお茶でしょ!?」
そう言いながらもリュートはお茶を一気飲みする。結構熱かったのに普通に飲んでる、お前の喉の方が怖いよ。
「ったく、本当に好きじゃないわけ?」
こいつは何が聞きたいんだ。恋愛脳で脳内ピンク色なのは知っているが、ここまで踏み込んでくるか普通。
「いや、好きだけど、恋愛とかそういうのじゃねぇよ。って俺の話はいいんだよ、お前はどうなんだ? 女子に話しかけまくってんだから流石に一人も反応なしってわけじゃないだろ?」
「僕だよ? 当然反応ありあり。めっちゃ反応してくれるからね」
自分から聞いといてなんだが、まさかそんなに反応があるとは思わなかった。
俺自身も今の時代の女子がどんな反応をか気になったので聞いてみることにする。
「へー、どんな?」
「えっ……あー、殴られ、たり?」
「そりゃあ確かに反応ありありだわな」
どの時代も不審者に話しかけられたら抵抗するか。冒険者ってのも理由の一つだろうけど。
「あーこれ以上会話してもテンション上がんない。明日はフォトちゃんの修行の日なんだろ? もう寝ようぜ? 明かり消していい?」
「おう。あ、毛布ある? 床だから硬くて」
リュートの部屋にはベッドが一つしかない。まあ当然と言えば当然か。
なので俺が床でリュートがベッドだ。木がむき出しの床はとにかく硬くて痛い。欲を言えば床に何かを敷いといてほしかった。
「ほい、これ使って。悪いねベッド一つしかなくて。って、なんで僕が申し訳ない気持ちになってんの!?」
「知るかよ……おやすみ」
「ん。おやすみ」
寝る前なのに騒がしい奴だ。
明日はフォトにスキルを教える日。いつも通り、普通に接しよう。今日の朝のように不用意に関わる、という対応は無しだ。
* * *
遮るものが少ない草原に吹いた抜けるような風が全身を包み込む。少し前は肌寒かったが過ごしやすい風になった。服の中に入り込むひんやりとした空気が心地よい。
そんな草原に、俺とフォトとリュートは集まった。
「よっろしくぅ」
「よ、よろしくお願いします」
まさかのリュートが暇すぎてついてきやがった。付き合ってないならいいでしょ? とか言ってた。お前は好きな子に告白できない年下の男の子を寝取るお姉さんか。なんだこの例え。
「それじゃあいつも通りスキルの練習だけど……とりあえず教えたスキルを一通り見せてくれ」
「はいっ、では……『スラッシュ』!」
最初は普段斬るときに切れ味や勢いを増加させる『スラッシュ』。連続で使い続けることができるが、タイミングを間違えると硬直時間が発生してスキルの発動が遅れたりする。
フォトは二、三回までしか繋げられなかったが、今は五回ほど連続で斬ることができるようになった。このスキルは上手くなればなるほど便利になるスキルだ。成長が早くて大変よろしい。
「『ブラスト』!」
続いて突き技の『ブラスト』。剣先から魔力による風と衝撃波を放つスキルだ。とどめを刺すときによく使ったな。
剣先から放たれた風が辺りに吹く。俺とリュートが立っている場所にも風が来た。
「『スパイラルセイバー』!!」
回転しながら剣を振る。フォトの周辺の草が一定の高さまで切れた。
『スパイラルセイバー』、意味はそのまま回転しながら斬るスキルだ。俺にスキルを教えてくれた師匠は回転斬りとか呼んでたな。
ぶっちゃけ前後から囲まれた時くらいにしか使えないし、もしそんな場面になっても他のスキルで一点突破すればいいのであまり使わないスキルだったりする。覚えやすいのが利点なのでフォトに教えたのだ。前みたいに囲まれたら危険だからな。
「『神速』!」
いつもの『神速』。キレが増してるぜ。
あの速さなら囲まれなければどうとでもなるだろう。囲まれたときは『スパイラルセイバー』や『ブラスト』で隙間を作って、そこから『神速』で逃げ出せば問題ない。
「おおっ、昨日やってた技じゃん」
「フォトにも教えたんだ」
「え、そんな簡単にできるものなの?」
「いや、もっと難しいはずだ。コツを掴むのが上手いんだよフォトは」
俺もそれなりにスキルの才能はあった。だが、スキルを極めるのが早かっただけで、覚えるのには普通に時間がかかったのだ。
フォトは覚えるのが早い。だが極めるのはそこまでかな……時間はたっぷりあるし気にするほどでもないか。
「コツなんてあるんだ」
「普段戦っててたまーにめっちゃ効率良く動けるときあるだろ? あれがスキルの予兆で、あれ以上の技を常に出せるようにするのがスキルなんだ」
ただ剣を扱うのが上手いだけでは再現できない技、それがスキル。たまに再現できる天才がいるが、そいつらは例外な。
その後もフォトのスキルを確認しながら、スキルを使う場面や硬直時間の管理などを教えるのだった。
 




