謝罪と調査日程
フォトが目を覚ますまで傍で待ち、目を覚ました時に今日酒場で待とうとしたことなどを謝罪した。
「もう一度謝る。本当にごめん」
深々と頭を下げて謝る。これはフォトの気持ちを思ってあげられなかった俺自身の問題だ。謝らなければ気が済まない。
「わたしは気にしていませんって。それより、わたしのことを思って行動してくれたことの方が嬉しい…………あっ、なんでもないです!」
「ん、おお。そうか。ならよかった」
ちょっと途中何言ってるか聞こえなかったが、咄嗟に何でもないと言ったということは聞こえても聞こえなくてもどっちでもいい内容なのだろう。それか、今はまだ話すべき時ではない。とか。
「そういや、依頼の報告はいいのか?」
「はい。魔物の回収もあるので明日報告します」
「そうか。じゃあ今日はゆっくり休めよ」
「はいっ」
暖かいミードのお湯割りを飲みながらそう言うフォトは、あまり意識したくはないが可愛かった。
ああ、ミードは蜂蜜酒だ。フォトは甘い酒なら飲める。一緒に麦ジュースを飲みたかった……
こうして、二人で話をしながらこの日は終わった。
* * *
朝、ギルドに報告したフォトはお金を受け取った。
それがかなりの金額、やはりハードプラントを一人で討伐したのは大きいか。
「こ、こんなにたくさん……」
「しばらく依頼受けなくても暮らせそうだな」
「そ、それはダメです!」
「ははは、分かってるって」
さて今日はどんな依頼を受けようかなと掲示板を見ていると、後ろから足を蹴られた。
くそっ、誰だコラァ!
「朝からイチャつくにゃ」
背後に立っていたのはいつも通り仁王立ちをするリンクスだった。弱そう。
「なんだ、リンクスか。で、どうなんだ? 調査の日程決まったのん?」
「明日にゃ」
「え? 明日、ですか……?」
驚いた、少なくとも知らせてから二日三日は猶予があるものだと思っていたから。
「そうにゃ。本当は昨日知らせる予定だったんにゃけど、来ないから教えられにゃかったにゃ。昨日は何してたにゃ?」
「昨日……」
「昨日か……」
昨日あったことを思い出してみる。フォトも思い出しているのだろう。
思い出した瞬間、お互いに抱きしめ合った光景が目に浮かんだ。ああああ恥ずかしい! 何してんお俺!
「にゃ、にゃんで二人共赤くにゃってるにゃ!? 詳しく話すにゃ!!」
「いや、えっと……えへへ」
「にゃにその反応!?」
いや俺も同じ感想だよ。なんでそんながっつり照れてるんだ、そんなに恥ずかしがることでもないだろ。
抱き合ったのだって、しっかりとした理由があるんだ。恥じることではない。
「か、勘違いするなよ。俺達は清く正しい冒険者生活をだな」
「問答無用! にゃーーーー!!」
リンクスが身長からは想像もできない大ジャンプをしながら俺の顔にしがみついてきた。さすが猫人族。
視界が奪われ頭が物理的に重くなる。降ろそうとするががっちり手を回してきているので剥がすこともできない。
「うわああああやめろ! 重い!!」
「レディーに対して重いとは失礼にゃ!!」
「顔に乗られたら誰でも重いでしょお!?」
まあまあ痛いが耐えられないこともない。こいつが満足するまで耐えるか。向こうもずっとこの体制は辛いだろしな。少しの辛抱だ。
それから数分が経過した。
「むふーーーーー」
俺の目の前には満足そうな笑顔のリンクスが。
「はぁ……はぁ……なげぇよ!」
「今日はこれで勘弁してやるにゃ」
「次もあるのかよ!?」
はあ、やれやれ。まあとにかく明日が調査ってことは分かったんだ。今日は依頼ではなく明日に向けて準備をするべきだろう。
「準備って言ってもなぁ」
「道具も、剣と防具とポーションがあれば十分ですしね……どうしましょうか」
そう、今からできる準備なんて、心の準備くらいしかないのだ。剣も防具も揃っている。だってこれから依頼を受けようとしていたのだから。
「あっれ、キールじゃん。その子は……昨日言ってた子?」
「あっ、ヴァリサさん。昨日はありがとな」
「いいっていいって。解決したようでよかった」
相変わらず直視しにくい服装のヴァリサさんが話しかけてきた。単純に年上だからさん付けしたい。でも丁寧な言葉とか慣れてないから敬ってるのか敬ってないのかわからんなこれ。
「ヴァ、ヴァリサさん!? えええ!?」
「えっ、キーにゃんリサにゃんと知り合いにゃの?」
いやそんな反応されても、ヴァリサさんがどのくらい有名かとか知らないし。
「まあ、昨日話をしたくらいだな」
「キールさんが昨日言ってた相談した人ってヴァリサさんだったんですね……びっくりです」
フォトが知ってる、ってだけじゃ有名かどうかわからん。フォト、知識はあるからな……みんなが知らないことも知ってるからどのくらい凄いのか分からない。
「それなんだけどさ、ヴァリサさんって何者なの? 俺よく知らないんだよね」
「ははっ、あたしに会ってビビらないから変な奴だとは思っていたが、まさか知らないなんて。じゃあ改めて自己紹介するね。ダイヤランクのヴァリサお姉さんだよ。よろしくぅ!」
「へぇ、ダイヤランクがあるのか。改めてよろしく」
お互いに手を握る。胸元のせいで直視できないが、それはそれ。なんとか顔を見て乗り切った。顔も整ってて直視するの大変だったけど。
「君がフォトちゃんかー。よろしくね」
「よ、よ、よ、よろしくお願いしままままま」
「落ち着け」
なんで俺に初めて会った時よりも取り乱してるんだよ。なんか悔しいぞ。
で、でも。あの時は驚きが勝って脳が理解できてなかっただけだよね。驚きすぎて倒れてたし。
俺の勝ちね。ほなフォトにゃんいただきます。
「それで、調査がどうとか言ってたよね。二人も行くの?」
「ああ、リンクスに誘われてな」
「ふぅーーん、ねえギルマス。二人のランクは?」
「ブロンズだにゃ」
「ブロンズ! それでギルマスに誘われたんだ……期待の新人だぁ」
てっきり、ブロンズランクなんかを呼ばないで、とか言われるかと思ったが、本当に戦う冒険者が少なくなってきているのだろう。ヴァリサさんは歓迎していた。
「特にフォトにゃんに期待だにゃ! 昨日の依頼の成果はすごいにゃ!」
「強い冒険者が増えるのは嬉しいなぁ。あ、ギルマス。この前の依頼のことなんだけど……」
ヴァリサさんとリンクスは何やら話を始めてしまった。俺とフォトじゃあまだ入れないような内容なので、ここは離れて話をしよう。
その後、フォトにランクに付いて聞いてみると、ゴールドの次がダイヤで、その次がプラチナ、ミスリル、オリハルコンの順らしい。オリハルコンランクあるのかよ。
フォトもいつかそのくらいランクが上がるのかなとワクワクしつつ、明日の調査に付いて話し合ったのだった。