魔王の石化光線
タイタンゴーレムの魔法陣が魔力を蓄える。
六つのビームが重なり威力を上げているため、タイタンゴーレムの攻撃範囲は絞られる。
リュートとヴァリサさんが防いだ時の軌道を思い出す。少なくとも、狙っているのは俺たちのいる空間のようだ。
今まで散々エクストラスキルを直撃させたのだ。あのゴーレムに感情があるのかは分からないが、ターゲットとして俺たちを捉えているのは確かだろう。
「『魔力開放Ⅰ』『魔力開放Ⅱ』……」
小さく呟きながら、エクストラスキルの威力を底上げするべく『魔力開放Ⅱ』まで発動させる。
今までならここが開放上限だった。だがこれ以上の開放を長い修行により一時的に、本当に短時間だけ発動させられるようになった。
「『魔力開放Ⅲ』……!!!!」
身体から魔力が溢れ出る。解魔の剣による呪いと似た魔力の放出に、辺りに風が吹く。
呪いと違うところは、この魔力を操作できるということ。精霊王からの魔力供給が追い付かないほどの魔力の開放。
今の俺は外から見れば、化け物と判断されるだろう。それほどまでに、身体から漂うオーラは禍々しいほどの大きさになっている。
巨大な魔力を察知し、目を見開く。
「来るぞ! 盾を展開しろ!」
タイタンゴーレムの魔法陣が光り、ビームが放たれる。
六つのビームは一つに収束され、一本のビームとして俺たちに迫る。
対するこちらはフレンのエクストラスキル。『信託の騎士』による盾でのガードだ。
攻撃のエクストラスキルと違い、守ることに特化しているであろう盾。その効果に期待しつつチャージを進める。
「「『信託の盾』展開!」」
何層にも重なる魔力の盾が、空中に展開される。
白く、それでいて透けている魔力の盾だ。
盾は光を放ち、タイタンゴーレムのビームを弱める。
一枚、また一枚と砕けていき。そして最後の一枚に。
「わたしたちが!」
「わたくしたちが!」
「「守る!!!」」
盾は光を強めた。勇者に憧れた少女と、勇者として生きてきた少女の想いは、盾となって勇者を守る。
光は一層強くなっていき、やがて視界を覆った。
この光が消え、タイタンゴーレムを捕捉できるようになってからが本番だ。
ビームが弾け、『信託の盾』が光を増す。タイタンゴーレムからの攻撃を防いでなお、その盾はそこに留まり続けた。
「今です! キールさん!」
「キール様!」
「行けーーーーっ!!! キーーールーーーっ!!!」
「キール!!!」
光が収まる。遠くに、タイタンゴーレムの巨体が見えた。
『千里眼』でタイタンゴーレムの身体を視る。
コアがあるのは首の下、中心から少し左にある心臓とは違い胸の中心にある。
右手の人差し指と親指を開き、それ以外の指を閉じる。
そして人差し指をタイタンゴーレムに向け、溜めていた魔力を集中させエクストラスキルを発動させる。
「『魔王の石化光線』」
そう呟き、左手で右手の手首を掴み指の震えを止める。
タイタンゴーレムが守りを固めるそれよりも早く、それでいて精確に撃ち抜く。
これは魔王の魔力を宿し放つ死の線。禍々しい黒い魔力は、全てを石化し体を蝕む。
「いっけええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
指先から放つ直前に、そう叫んだ。
タイタンゴーレムを止めるは魔王の能力。魔力から復元されゴーレムになってしまったが、タイタンもこの石化光線に破壊されれば本望だろう。少なくとも、勇者である俺に負けるよりも。
ピシュンと軽い音で放たれた黒い一線が空を駆ける。
その石化光線はタイタンゴーレムのコアを目掛け高速で進む。
そしてタイタンゴーレムの胸に吸い込まれ、静寂が訪れる。
パキっと、何かが砕ける音が聞こえた。
その瞬間、大きな風が大陸を薙いだ。
大量の魔力が放出されたことによる魔力風だ。つまり、この瞬間タイタンゴーレムは活動を停止する。
遠目からでも、コアの辺りが白く変色しているのが見える。タイタンゴーレムを構成する金属が石化しているのだ。
タイタンゴーレムがボロボロと崩れていく。目を放す隙も無く、それは巨大な石の山となった。
終わった。『魔力開放Ⅲ』を解除し、一息つく。
「勇者様ーーー!!!」
声が聞こえ、振り向くとヒューレとナイアドがこちらに向かって歩いていた。
ナイアドは誰かを背負っているようだ、あれは……ディオネか。キレーネはどうしたのだろう。
それに、フォボスもいない。
「ヒューレ! ナイアドも。フォボスはどうした?」
「あの馬鹿は向こう側で見届けると言って座り込んでいますよ」
何をしているんだあいつは。
しかしそうか、三人とも生きていたか。各国から選出された剣士とか魔法使いが逃げているところを見たのでどうなったのか心配だったんだよな。
「それと申し訳ありませんが、キレーネを見つける前にディオネとの戦闘で消耗してしまいました。後はお願いできますかね」
「分かった。後はキレーネだけだな」
キレーネか。あいつはあいつで俺のエクストラスキルで負傷してたからな。この状況なら逃げていてもおかしくない。
一旦戦闘はおしまいかなと思っていると、ヒューレが鉤爪で肩をポンポンと叩いてきた。普通に危ない。
「勇者様、褒めてもいいぞ」
「おー頑張ったなヒューレ。偉いぞ」
500年前と同じような褒め方をしてみる。ちょっとふざけすぎたかな。
「うへへ」
これでいいのかよ。
エルフって精神年齢どうなってるの? ヒューレが特殊すぎるだけ?
まあどちらにせよこれで一件落着だ。ディオネが起きたら話を聞いて、キレーネを探して今度こそ終わりだ。
安堵のため息をついたその時、声が聞こえてきた。
「あーっはっはっはっは!!!」
タイタンゴーレムの残骸の上に、誰かが立っている。
『千里眼』を使わずともわかる、あれはキレーネだ。
何してんだ? と反応する前にキレーネは残骸から降りこちらに向かってゆっくり歩いてくる。
「俺たちの勝ちだ。大人しく諦めるんだな」
「あたしがいつ負けたの??? まだ負けてないよ」
「何を隠してるか知らんが、諦めないならこっちから行くぞ?」
剣を手に持ち剣先をキレーネに向ける。
「……うーん……ここは……」
「む、起きましたか。貴方は負けて気を失ったのですよ」
「……そっか、一気に魔力を削られて、盾に魔力が注げなくなって……」
背後で目を覚ましたであろうディオネがナイアドと会話をしている。
ディオネが無力化されている以上、キレーネに勝ち目はないはずだ。人数も、戦力も明らかにこちらが上回っている。
「……キレーネ!?」
「お疲れ様、ディオネ。後はあたしに任せてね」
キレーネはそう悲しげに言うと、黒く、禍々しい石を取り出した。
なんだ、あれは。
絶対に負けない、そう確信していたのにあの石を見た瞬間に自信を無くしてしまう。
何か、何かを忘れているのだ。何かを見落としている。キレーネが持っているはずの何かを、俺は知っている。
「……まさか……! ダメ! ダメだよキレーネ!」
「もう決めたからさ。それじゃ勇者様、最後の戦いをしよっか」
その言葉を聞いて、俺は無言で背後にいたフォトやフレンたちを下がらせる。
一対一での戦闘だ。キレーネの持っている力が何なのか、その内容によっては最後の手段を使わなくてはならない。
これが勇者キールとしての最後の戦いになるだろう。これ以降、俺は勇者ではなくなってしまうかもしれない。
さあ、正真正銘最後の戦いだ。
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完結間近です。