解魔の剣
紫色の短剣、魔剣だろうか。それが鎧に触れる。
その瞬間、俺の『四精霊の鎧』が弾け飛んだ。
「……え」
理解が追い付かなかった。ただダメージを与えるわけではなく、鎧を破壊するとは。
それほどの攻撃力があの魔剣にあったわけではない。あの魔剣の能力が、魔力を解くというものだったのだ。
防御手段がなくなった俺に向かって、無数の岩が動き始める。
先が鋭利になっており、岩は容易く俺の身体に突き刺さった。
鋭い痛みに顔を歪ませながらも意識を保つ。よかった、直接心臓を突かれたわけではない。
「……とどめ」
俺が動けるようになる直前に、目の前のディオネは金属剣を創り出した。
あれも魔法か、それも声に出さずに。
今度こそ避けられないか。致命傷を負ったとしても復帰する方法はあるが、ここで戦線を抜けるのは痛いな。
「かはっ……」
刃が心臓を穿つ。胸から血が噴き出し、魔力が抜けていく。血液には多くの魔力が含まれているのだ、消費もする。
回復までのどれほどの時間がかかるのだろうか。精霊王からの魔力を頼りにしていたため、予想以上に魔力が抜けてしまった。これでは意識を失ってしまうかもしれない。
覚悟を決めたその時、俺の身体を緑色の光が包んだ。
「フォレストドラゴン……!」
上空を見ると、背中に木が生えたドラゴンが旋回していた。フォレストドラゴン、回復のブレスを使ってくれたのだろう。
身体から痛みが引いていく。多くの傷が塞がり、止血もされた。
意識が急激に戻ってくる。よし、まだやれる。
「……反則」
「お前が言うかよ!」
今度こそと、俺は剣で攻撃を仕掛ける。魔法で防がれてしまうが、『転移』で回り込み剣を向ける。
しかしディオネも流石の実力、俺に勝てないと踏んで転移でどこかへ消えてしまった。
「また逃がしたか。くそっ」
まあいい、ディオネの相手はあいつらに任せてるんだ。
俺も引き続きタイタンゴーレムを……と思ったが、どうにも魔力が回復しない。
自分の身体に注目する。傷はもう全て塞がったはずだ。どこからも血は出ていない。
なのに、魔力はどんどん消費されていく。『魔力開放Ⅱ』による魔力の放出とはまた違う。精霊王から供給されてすぐに抜けてしまうのだ。
「まずいな、これも魔剣の効果か?」
まるで、身体の真ん中にぽっかり穴が開いてしまったかのような感覚。
そこから魔力が流れ出るのだ。体調もよろしくない。常に疲れているみたいに息切れを起こし、集中力が乱れる。
俺はニンファーを起動し、皆に状況を報告する。
「こちらキール。ディオネの魔剣にやられた。魔力が流れ出て上手くスキルが使えない。一旦下がって様子を見るから、皆は引き続きタイタンゴーレムの相手を頼む」
降下しながら声を出す。正直、このまま戦うのはきつい。
ナイアドの用意したサウンドジュエルとはまた違った体調の悪さだ。
『こ、こちらフォト。キールさん、大丈夫ですか!?』
「正直きつい。俺無しで作戦を実行するのは難しいかもしれないが、とりあえず片腕は落としたから少しは戦いやすいと思――――」
目を疑った。
タイタンゴーレムの腕が、少しずつ復活しているのだ。
よく観察すると、足元に落ちた右腕が崩れ再びタイタンゴーレムの足に集まっている。
形成している岩が動きながら、腕を修復しているのだ。直接腕まで浮かせて修復するわけじゃないのか。最初に作られた時よりも修復は早いだろう。
「……フォボスたちに伝えてくれ。タイタンゴーレムは気にしなくていい、ディオネを優先して倒してくれって。俺とフォト、リュート、ヴァリサさん、フレンはタイタンゴーレムの正面に集合だ」
『了解しました!』
この状態でタイタンゴーレムを倒す方法が思いつかない。ドラゴンのブレスで魔力を削っても、修復には支障がないのだろう。
そうなると、やはり強力な一撃を食らわせる必要がある。
ディオネを倒し、魔剣の効果を解除してもらいたいがそれもすぐには無理か。
「キールさん!」
地面に降りると、フォトが心配そうな顔をしながら近づいてくる。
「これは……すごい魔力の量……」
「精霊王からの魔力がなかったら魔力が枯渇しちまうんだろうけどな……とりあえず、この魔力をどうするか」
これではただ無駄に垂れ流しているだけだ。これを全て魔弾にすればそれなりの威力になるだろうか。
いや、一つ一つの威力が低いから効かないだろう。しかしこの魔力を一つの魔弾にしたら……どうだろうな。それでもただの魔弾だからな。
スキル、エクストラスキルを使おうにも中途半端な完成度になってしまうだろう。それではもう一度片腕を落とすこともできない。
「キール様、何があったんですの!?」
遅れてフレンも合流する。フォトと行動していたようだ。
「魔剣で刺されたんだ。身体に穴が開いたみたいに魔力が流れ出ちまう。魔力の制御も上手くできねぇ」
何度かスキルを発動させようとしたが、上手くいかない。出すことはできるがこれで戦闘ができるかと言われたら無理だ。
俺の言葉に、フレンは露骨に表情を暗くした。
「そんな……キール様が戦えないなんて、どうすればいいんですの……?」
「俺がいなくても戦えるだろお前らは。あれとだって、十分やり合える」
これは本音だ。
あのタイタンゴーレムを倒すことはできないが、戦うことはできると思っている。
時間を稼げれば、一気に倒す方法を探すことだってできる。
俺が戦えなくなったからなんだと言うのか。別に攻撃スキルが使えなくても、できることはある。
そう、強化スキルだ。
この溢れんばかりの魔力を仲間の強化に注ぐ。そうすればこれまで以上のポテンシャルを発揮することができるだろう。
全員集まった後、俺は皆と新たな作戦を考えることにした。




