タイタンゴーレム
とてつもない威力の『終わりなき旅路の剣』が、キレーネの『エクサストーム・カリスト』の威力を上回り、光り輝く刃はキレーネに届こうかとしていた。
その時、巨大な何かが俺とキレーネの間に入った。
咄嗟にそれを見る。それは、石の壁のようなものだった。
「は……?」
やっと絞り出した言葉がそれだった。
巨大な石の壁、いや、天井とでも言うべきか。それはキレーネの魔法で多少威力が落ちていたとはいえ、俺のエクストラスキルを受けて貫通しなかった。
視線を横にずらし、その大きさを確認する。
その先には、天井よりもさらに巨大な岩の柱が存在していた。
いや違う、わかるはずだ。ずっと近くにあった。動くことはなく、ただ魔力を溜め続けるその巨体。
タイタンの魔力が込められたゴーレム。タイタンゴーレムだ。
『――――します! もう一度繰り返します! ゴーレムが動き始めました! 作戦通りお願いします!』
耳元から、フォトの声が聞こえてきた。
集中や、轟音により声が良く聞こえなかったようだ。
指示通り動きたいところだが、目の前にはキレーネがいる。逃がしたくはないが……
「くうっ……次こそは殺してやる……!」
視界の端で、右肩を怪我したキレーネが高速で飛び去って行った。
ダメージは与えたが、またもや逃がしてしまったか。タイタンゴーレムの討伐も元々の目的だったので、これからはディオネとタイタンゴーレムの討伐に移るだろう。
そう思いながら、急激に魔力を使用したことによる硬直時間を受ける。
ビリビリという痛みを感じながら、再び足を動かした。
「おい、どうすンだ?」
「ディオネは……人が多いか。あのゴーレムを倒そう」
タイタンゴーレムの戦力は把握できていない。外から攻撃しつつ、魔力の減りや攻撃方法などを確認しよう。
「っし、じゃあ僕の出番だ」
「お前のドラゴンの出番な」
「細かいなっ!? まあいいや、行ってくるわ」
リュートはそう言うと、ドラゴンに指示を出すために飛び去って行った。
一度、先程のようにエクストラスキルをタイタンゴーレムに撃ち込んでもいいかもしれない。そうすれば腕の破壊くらいはできるはずだ。
「俺たちも別行動になりそうだな。フォボスはディオネとキレーネ、周りの魔獣を頼む」
「了解。脇役ってのが気に入らねェけどな」
確かにあのタイタンゴーレムの方がメインという感じはする。
だが、あれはただでかいだけなのだ。それ故に強力だが、実際はキレーネとディオネさえどうにかできればいいのだ。
タイタンゴーレムを作ったのはディオネだろうしな。もしかしたらそっちを何とかすれば解決するかもしれない。
「キレーネとディオネの相手はむしろメインだぞ。それに、元魔王候補のお前だから任せられる」
「なるほどな。ンじゃ、不服だがナイアドの野郎と協力してやっか」
ナイアドとフォボスは魔界であの二人との交流があった。
仲は良くなかったようだが、相手の戦い方や癖などは把握しているらしく頼りになる。
元々あの四人で争っていたところを人間界が巻き込まれたのだから、ナイアドとフォボスがその仕事を任されるのはむしろ当然と言えよう。
「さて、じゃあ試しますか」
ディオネの元に向かったナイアドを見送りながら、俺は再び二刀の剣を構える。
エクストラスキルをもう一度放つ。魔力の供給はあるので魔力の心配はない。
身体への負担が大きいが、まあ二発程度ならば大丈夫だろう。皆が全力を出してるんだから、俺もそのくらいはしなくっちゃな。
『魔力開放Ⅱ』の飛行能力で空を飛び、空中でタイタンゴーレムの腕を狙う。
先程の攻撃から見て、中途半端な攻撃ではすぐに修復されてしまうだろう。
残念だが、『終わりなき旅路の剣』ではコアを貫くことはできない。それはさっき理解した。
片腕を落とせば、それだけで大きく戦況は変化する。エクストラスキルの準備はできた、さあ、二度目のエクストラスキルだ。
「『終わりなき旅路の剣』おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
今度は全力で、周りの被害を気にせずにただ強力な一撃を放つ。
的が大きいおかげで全力が出せた。これが小さな的……キレーネのような的ではブレが大きく避けられてしまう可能性がある。
この威力なら、片腕を落とすに足りるだろう。少しオーバーかもしれないけどな。
白と黒の光線が伸び、タイタンゴーレムに直撃する。関節部分、肩に当たる部分を抉っていく。
が、光の奥に魔法陣が見えた。
『千里眼』で見ると、岩のシールドを生成し守っていることが伺えた。
なるほど、自衛魔法。てっきりコアの周りでだけ発動すると思っていたが受けきれないほどの強力な攻撃ならばどこでも発動するのか。
「ギリギリ、か」
そう呟いた瞬間、俺の『終わりなき旅路の剣』がタイタンゴーレムの肩を貫通した。
俺のエクストラスキルを以てしても、関節部分を破壊するのがやっと。そうなるとリュートやフォトのエクストラスキルではどうにもならないだろう。
このまま作戦通りに進めていいのだろうか。確かに魔力を削れば他のみんなの攻撃が通じるようになるかもしれない。だが、コアを破壊できるようになるにはどれほどの時間がかかるのか。
「……させない」
「っ!?」
目の前の空間が光った。
そう思ったのも束の間、俺は目の前に現れたそいつを視認する。
ディオネだった。そうだ、こいつは転移を使える。俺のエクストラスキルを見て、危機感を感じたのだろう。
ちらりと地上を見ると、先程までディオネと戦っていたメンバーが立ち尽くしていた。
あの距離じゃ助けには来れないか。しくったな。
「ははっ、またお前か。なんで当然のように浮いてんだ?」
「……キレーネの魔法」
「あー、そりゃそのくらいできるか」
そんな会話をしながら、俺は自分の身体が動くようになるまでの時間を稼ぐ。
二度目のエクストラスキルを使ったからか、硬直時間がかなり長い。
そうこうしているうちに、ディオネは魔力を溜め始めた。
「……『サウザントロックニードル』」
土魔法か、それも強力な。
身体はまだ動かないが、相手が土魔法を使うとなれば話は別だ。
今の俺には四属性の魔法は通じない。この『四精霊の鎧』の強さを改めて感じながら、ディオネを睨む。
岩の針が飛んでくると思い、動けるようになった時のスキルを準備しながら集中する。
「……は?」
が、俺の予想は見事に外れる。
無数の岩の針は、俺を中心に空中で停止した。その全ての切っ先が俺を向いている。
効かないとはいえ、恐怖を覚える。
それだけならまだよかった。ディオネは何かを取り出し、身体の前で構える。
それは、紫色の短剣だった。明らかに魔剣だ。
勘だが、俺の鎧を解く何かがあの短剣にはあるのではないだろうか。
向こうも俺たちを調べてきたのだ、対策をしてきてもおかしくない。いや、むしろしていないとおかしい。
「……じゃあね」
ディオネは。ためらうことなく俺に短剣を向けた。




