力のぶつかり合い
サラマンダーの強化付与範囲に入ったことにより、リュートが莫大な量の魔力を受け取る。
もちろん俺とフォボスにも強化が入るので、先程よりも強力な攻撃を出すことができる。
「いける……! うおおおおおおおおおおおお!!! 『インフェルノウォール』!!!」
リュートとインフェルノの『インフェルノウォール』により、俺たちは炎の壁に閉じ込められる。
よし、これだけ広ければ戦える。リュートもフォボスも炎系なので耐性はあるし、俺も鎧の効果で無効化できる。
リュートにはもう少し『インフェルノウォール』を高くしてもらう。空を飛んで逃げられないためだ。
俺はリュートを追い越し、キレーネに剣を向ける。すると、キレーネはふわりと空中に浮いた。空中戦か、予定通りだ。
「はっ! なんのつもりー??? わざわざ狭くするなんて」
「あんたを逃がさないためだよ」
「ふーん、やってやろうじゃん。うっりゃあああああああああ!!!」
飛びながらキィンキィンと剣で斬り合う。移動できる範囲が狭くなったため、少し戦闘は難しくなった。
それはキレーネも同じらしく、動きが鈍くなっている。お互いに動きにくく、隙が多い。そのためか、早い段階でお互いにダメージが入る。
「くっ……リュート!」
「おうさ!」
こちらが有利なのは、交代ができるところ。
キレーネの傷が回復する前にリュートの攻撃が始まるため、集中力が欠けてさらに隙が多くなる。
このまま勝てるのではないかと思ってしまうほどに、『インフェルノウォール』の効果は出ていた。
「このまま、押し切る!!!」
「させない! 『テラストーム』!」
キレーネの剣から、とてつもない勢いの風が放たれた。
俺がやろうとしたことの反対、上から下へ落とすようなその風はインフェルノのブレスによって相殺された。
これで威力がブレス以上だったら、地上で待機していた俺にもダメージが入っていただろう。
「うわっ!? っぶねー……」
リュートの頬や腕が風で切れているが、大きなダメージにはなっていない。
ここでリュートはフォボスと交代する。その間にも俺はスキルのチャージを進める。
フォボスの黒い炎はキレーネに効果があるようで、蝕むような炎はキレーネの魔力を食い尽くしていく。
まさに死の炎。あの炎を間近で見ると、直に死を近く感じるだろう。精神的に不安定にさせる炎、敵にはしたくない。
「あんた、勇者に手を貸すんだ。そんな奴だっけー???」
「一回負けちまったンでな。お前も、魔王なんて諦めて大人しく国で暮らしたらどうだァ?」
両翼を広げたフォボスが、空中で黒い炎を纏いながら剣を振るう。
そのまま爆発を起こし、爆風で瞬間的な移動をする。インフェルノはフォボスに当たらぬよう気を付けながら時折ブレスを吐いている。
何か言葉を交わしているようだが、何を話しているのだろうか。魔王候補同士、話すこともあるのだろう。
「そんなことするわけないじゃん。あたしは人間を滅ぼす。そのために力が必要なの。だから魔王になる」
「そーいやそうだったか。興味ないから忘れちまったよッ!」
「ッ! 相変わらず力だけは一級品だね。馬鹿で羨ましいな」
「ああン!? ンだとゴラァ!!!」
内容は分からないが、フォボスがキレたのは分かった。逆上して致命傷を負わないようにしてほしいものだ。
その後、フォボスがリュートと交代し、戦闘を続けた。
戦闘が長引くほどに、キレーネの移動速度は上がっていく。これが怖いから、長期戦はしたくなかったのだ。
そうこうしているうちに、スキルのチャージは進んでいた。よし、もう少しで出せる。
さあどうする、これだけチャージすればいくらでもスキルを出すことができる。確実に潰すなら、俺のエクストラスキルを使用した方がいいだろう。
そうと決めた瞬間、月光剣と暗黒剣が光に包まれる。剣の周りには、黒い魔力が迸っていた。
「リュート! フォボス!」
声を掛け、二人を避けさせる。声に気付いたフォボスは地上に降り、リュートはインフェルノと共に落下しながらキレーネを引き付ける。
丁度、インフェルノが陰になってキレーネニハ俺の剣が見えていないようだ。
二本の剣は、強大な魔力を放つために光を増した。
「――――『終わりなき旅路の剣』」
月光剣で空を斬る。すると、空中に光の玉が出現した。次に、暗黒剣でそれを斬る。光の玉の周りに、闇の魔力が漂う。玉の周りを回転する闇の魔力は、高速で回転し始める。
次の瞬間、集まった魔力が一気に放出された。
輝く勇者の光は、天の光のように輝きを増しながら昇っていく。
その威力は、五年前に放った『終わりなき旅路の剣』と同一とは思えないほどのものだった。
何倍にも強化されたそれは、キレーネを容易く包み込むだろう。
インフェルノが避け、俺のエクストラスキルに気が付いたキレーネの目に驚きが映る。だが、それでも止まらない。キレーネにも、それだけの覚悟の決まった気持ちがあるのだ。
「ッ! 『エクサストーム・カリスト』!!!」
キレーネの奥の手だろうか。細剣を光らせながら叫ぶ。
すると、先程の『テラストーム』とは比べ物にならない威力の風が発生した。空中で、俺の『終わりなき旅路の剣』とキレーネの『エクサストーム・カリスト』が衝突する。
常軌を逸した勇気の剣、その勢いは止まらない。ただ、ただ真っ直ぐ。今もなお威力を増し続ける。
――――そして。
キレーネの奥の手である巨大な風は、空中で分散し、消滅した。
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