ゴーレムと土魔法
落下していく球体。地上に落ちるその瞬間、散らばっていた黒い塊が動き始めた。
何が起こっているんだと思いながら見届ける。六つの球体に吸い寄せられ、形が形成されていく。
ゴーレムだった。それも巨大な。
いつかの砂漠で見たあのゴーレムを思い出した。あの時は俺と仲間で倒すことができたが、今回はどうだろうか。
明らかに戦闘力も上がっているだろう。これだけの戦力が集まっているのなら大丈夫だろうが、それでも不安だ。
『ゴーレム出現! フレンさん! 指示を!』
『フレン! 何してるにゃ! 返事するにゃ!』
ニンファーから聞こえてくる通信に耳を傾ける。フォトとリンクスの二人が何か言っていたが、なんだ、フレンがどうした?
フレンの応答がないまま数秒経過する。すると、ざざっと雑音が入った。他の人が起動したな。
『も、申し訳ありません。ゴーレム一体に二班、それ以外はウルシュフスの討伐を行いながらサポートですわ!』
『了解です!』
少しぐだぐだしてしまっているが、なんとか指示が出たようだ。地上の戦闘員たちも動きを取り戻す。
フレン……やはり勇者の話を聞いて集中力が無くなってしまっているな。このままでは指示を出す人間がいなくなってしまう。
いやまあ、俺のせいなんだけど。どうにかしなきゃな。
……おおっ、ナイスタイミング。
「あれー??? もうピンチになっちゃったー???」
「んー、少しな。どうする? このままだと決着つかないぜ?」
「知るか! 殺してやる!」
言うと思ったよ。
俺は正面から突っ込んでくるキレーネに、剣を向けなかった。
予想外の行動に、キレーネは対処できずに空を斬った。
「悪いな、交代だ」
「っしゃあ! 覚悟!」
キレーネの背後から飛んできた竜騎士リュートと交代する。皆を起こし、ドラゴンを率いて手助けに来たのだろう。
そして、リュートも今俺がやろうとしていることを理解している。フレンが今危ない状態なのはリュートも知っているのだ。そしてそれをどうにかするべきなのは俺だということも。
「頼んだぞ」
今リュートが連れているドラゴンはインフェルノ、ライトニング、ブリザードの三頭だ。
あれだけいれば、まともに張り合うことくらいできるだろう。というか、できないとおかしい。
むしろあれだけいれば勝てるのではないだろうか。瞬間移動の回避距離内よりも広範囲のブレスならば、キレーネにダメージを与えることができるかもしれない。
『転移』を使いすぎたな、少し頭が痛い。身体を休ませるために『転移』での移動はやめようか。
地上に降り、暴れまわるゴーレムを見ながらフレンを探す。いつも通りなら、プレクストンの門付近にいるはずだ。
「……行かせないよ」
着地してすぐに、目の前にディオネが現れた。相変わらず茶髪に黒メガネという普通の見た目をしている。変わっていないな。キレーネよりも変わっていない。
唯一変わった点と言ったら、右手が金属になっていることだろうか。すごいな、指まで動いてる。
それにしてもこいつ、俺とキレーネの戦闘を遠くから見てやがったな。今の今までバレてなかったのは土魔法による隠蔽だろうか。
「ディオネ、そこをどけ」
「……どくと思う?」
ま、そりゃそうだ。
正直、出し渋っているが『転移』を使ってもよかった。
しかし、今ここでディオネを見逃したら被害が出てしまうかもしれない。土魔法の使い手、サンドアグリィで何度か対戦したが、厄介なんだよな。
「悪いが急いでるんだ。本気で行くぞ」
「……こっちも、その、つもり」
深呼吸をし、集中力を高める。魔力は精霊王の加護のおかげで困らない。
土魔法にも防御方法はいくつもあるだろう。しかしキレーネのような瞬間移動ほど当たらないわけではない。
「行くぞっ!!!」
剣を構えて走り出す。
『魔力開放Ⅰ』を発動させ、全てのスキルを強化する。
「……『ギガロックボンバー』」
「『ガードブレイク』!」
前方から飛んできた巨大な岩を斬る。硬度を無視して切断された巨大な岩は、俺の背後で爆発した。
爆風を背中に受けながらディオネに剣を向ける。
「はああああああああ!!!」
「……『ギガアイアンシールド』『サウザントストーン』」
ディオネの目の前に大きな円盤状の金属が現れる。岩じゃなく金属か、そりゃきつい。
しかし負けてられない。こういう硬い敵は、力でねじ伏せるしかないのだ。
「ぐっ! らああっ!」
「……『ギガグラウンドアッパー』」
「なにっ!?」
続けて斬りかかろうとしたが、地面がせり上がり打ち上げられてしまった。突然空中に投げ出されては飛ぶこともできない。スキル無しでは飛べないのだ。
なんとか上手く着地し、離れた場所から向かい合う。
おいおい、ディオネの奴まだ一歩も動いて無くねぇか。
「ここで決める」
『魔力開放Ⅱ』を発動させ、空を飛べるようにする。
これで地面から突き上げられても対処できるようになる。
よし、終わらせよう。こんなところで止まっている場合ではないのだ。
「『ライトニングソウル』」
竜化。今空の上で戦っているライトも俺の存在に気が付いただろう。近くにいるため以前よりも力がみなぎってくる。
バチバチバチっと電撃が迸る。最初から飛ばしすぎるのはよくないとは思うが、相手が魔王候補のディオネなのだ。むしろ今全力を出すべきだろう。
「……ッ! 『テラロックロード』」
「勝利を我が手に、『ビクトリーロード』」
ディオネは危機を察してか、俺の左右を岩で塞ごうとした。
だが、俺の『ビクトリーロード』も同じ種類のスキルなのだ。ディオネの『テラロックロード』を破壊しながら勇者の光が浸食していく。
勝利の道は決まった。後はその上を走るだけだ。
「……い、いや、やだやだやだ! ちょっと!」
「そらああああああああああああああ!!!!」
光と化して突っ込む。この状態ではスキルを出すことも難しい。だから、普通の斬撃を食らわせる。普通の斬撃で十分だ。
最後の足掻きとして、ディオネは目の前に何枚もの岩のシールドを展開した。が、それも全て破壊していく。止まらない、止まらずに全てを倒す。
最後の最後に、かなり厚い金属のシールドが展開されていたせいか、致命傷を与えるには至らなかった。
だが、ダメージを与えることはできた。このまま戦う気にはならないだろう。
『魔力開放Ⅱ』の解除は……別にいいか。魔力の供給はあるのだ。最後まで発動させたままにしよう。
「……ごり押し」
「うるせぇ! あ、おい待て! 逃げるな!」
「……絶対許さない」
そう言いながら、ディオネは転移でいなくなってしまった。くそ、逃げられたか。
まあでも逃げられるよな。本格的に逃げる隙も与えずに倒さなければ。俺だって、あそこまでピンチになったら『転移』で逃げるし。
……最後に不穏なこと言ってたな。どうせまだなにか隠しているんだろうし、引き続き警戒は怠らないようにしよう。
ああ、そうだ。フレンに会いに行かなければ。




