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地獄の始まり

 『転移』でマリンアビスとサンドアグリィの戦闘員をプレクストンに運んだ俺は、そのまま戦闘に入った。

 フォトが言っていた通り、倒しても倒しても召喚され続ける。一度本気を出して全滅させたため、数は一気に減ったが、時間が経てばまた増えてしまうだろう。

 このままじゃ埒が明かない。数自体は少しずつ減って増えてを繰り返しているため、負けるということはないが勝てる見込みもない。

 今はただ耐えるしかないのだ。


『キール! 聞こえてる!?』

「っ!?」


 戦っていると、ニンファーからリーナの声が聞こえてきた。

 なるほど、突然の大声は確かに困るな。リュートの気持ちが分かったぞ。多分今頃リュートも同じ反応してんだろうな。


「どした? ニンファーを使う時はいきなり大声出すなって言ったろ?」

『あ、ごめんなさい。じゃなくて、なんかフォボスたちがリュートはどこだって聞いてきて――――』

『オイ! それ貸せ!』

『あ、ちょっと!』


 ガサゴソという音と共にフォボスの声が聞こえてくる。奥の方で小さく聞こえたため息はナイアドだろうか。

 そういえば、あの二人にはまだ連絡をしていなかった。あの二人の軍がいれば今の状況もよくなるだろう。


『キールよォ! こりゃ一体どういうことだァ?』


 声は強いが音は小さめ、ニンファーを手に持って声出してるな。耳に付けて同じ声出されたら大変なことになってしまいそうだ。

 こりゃ、というのはプレクストンが騒がしくなっていることだろう。元々二人はウルシュフスが召喚されていることを知っていたので、なんとなく予想はしていただろう。


「フォボスか。いいかよく聞け。ついに仕掛けてきたんだよ、ディオネがな」

『何ッ!? キレーネはどうした?』

「まだわからん。でも多分一緒に攻めてくるだろうな」


 召喚魔法はディオネが、戦闘はキレーネが行うのだろう。もしかしたらディオネだけかもしれないが、最大限の警戒をしておいた方がいい。


『しゃあねェ。おいナイアド、全員戦場に駆り出せ!』

『私に命令しないでくれますか。私の仲間は私が指示しますよ』

『は?』

『あ?』


 仲良くして?

 俺も最初はどうせだし指揮が得意なナイアドが全員に命令すればいいのにと思ったが、よく考えたら自分の味方は自分が命令するよな。というか出撃の知らせはフォボスでもできるよな。


「とにかく、今は戦闘に行ってほしいんだ。いつディオネが本気を出してくるか分からないし、敵は常に召喚され続けるしでとにかく人手が欲しい」

『はいよ。待ってな』

『私もすぐに戦闘に向かいましょう』


 よかった。人数が多ければ戦闘員を入れ替えながら戦うことができる。敵が増えないように倒し続け、尚且つ戦闘中の人数と同じかそれ以上の人数を休ませる。

 そうやって強敵が出てきたときにいつでも対処ができるようにしておくのだ。


『ほらよリーナ嬢ちゃん。んでこれどうやって切るんだ?』

『そのままでいいわよ! 早く返しなさい!』

『へいへい』


 あいつすごいな。

 そんな感想が出てしまうくらいには、リーナは俺たちに染まってしまった。最初の頃はフォボスやナイアドに怖がっていたのだが、二人と会話をしたり、長く旅をして度胸も魔法も一流になってしまったのだ。

 執事さんに怒られちゃうかな。でも成長するまでプレクストンで預かっていいって許可も貰ったしな、大丈夫だよな。


『今王国の人たちが来て説明してるわ。多分、そのことでしょ?』

「多分な。郊外に簡易的な拠点を作って、そこに全員住み込みで対処することになると思う。リーナには悪いが、仕事も今までとは比べ物にならないくらいに増えるはずだ」

『うげぇ』


 女の子が出していい声じゃないな。

 それほどまでにリーナの回復魔法の仕事は大変なのだろう。傷ついた人を治療する、そんな特殊な魔法を使える人は少ない。少ないからこそ、仕事が増える。

 俺も回復スキルを使えないことはないが、本職の回復魔法使いよりは効果は薄い。時間が空いたら手伝いにでも行こうか。


『……世界を守るために必要なことなのよね』

「そうだ」


 正に世界を守るため。そして今わかる限りで最後の戦いである。

 これを乗り切れば、やっと魔王に怯える日々は終わる。国同士でのいざこざはどうしてもあるだろうから完全な平和まではいかないだろう。だが、少なくともこの世界は助かる。

 昔の俺だって、その一時の平和のために戦っていたのだから。


『頑張るわ。でも、終わったらその分思いっきり休むんだからね』

「おう。フォトと三人でピクニックにでも行こう」

『言ったわね!? 言ったわねキール!』


 再び大きな声を出すリーナ。

 おそらく騒がしくなる少し前に三人で行ったピクニックが気に入ったのだろう。その声は跳ねるように明るい。

 それとは別に、ザザッという音が聞こえた。他の人がニンファーを起動したのだろう。


『ん、んんっ。約束ですよ。キールさん』


 聞こえてきた声の主はフォトだった。というかさっきまでの会話フォト以外にも聞かれてるんだよな。

 くぅ、恥ずかしい。個人での雑談ができないっていうのがこのニンファーの欠点だな。


「フォトまで……はいはい。じゃあリーナ、頑張れよ」

『頑張ってくださいね!』

『ふふん、まっかせなさい!』


 それだけ言うとリーナはニンファーを切った。それに続いて、フォトもニンファーを切る。

 さて、後はこれからの報告か。先程リーナに説明した通り、プレクストンが郊外などに簡易拠点を建設し、そこを拠点として戦闘をすることになるだろう。


「あー、フレン。聞こえてるか? 外壁付近は今どうなってる?」

『キール様の言っていた通り、現在簡易拠点を建設中ですわ』

「そうか。お前ら聞いてくれ。俺たちはこの戦いを終わらせてもう一度世界を守る。だから、死ぬなよ」


 俺の声を聞いているのは、フォト、リュート、ヴァリサさん、リーナ、フレンだ。

 そのうち、フレンとリーナ以外は五年前クリム火山で戦っていた者たちなのだ。あの時の再現のように、俺は再び仲間と戦う。今までも冒険はあった。だが、世界を守る戦いはなかった。

 自らの覚悟を決めるため、そして仲間を信じるため。声を掛ける。


『ばーーーか当たり前だ!』

『リュートくんの言う通りだね。それに、あたしの弟子たちなら余裕さ』

『キールさん、終わらせましょう』

「……ああ!」


 これでしばらくは頑張れる。そして、絶対に乗り越えられる。

 あのフォボスを倒して、今は味方にフォボスがいるのだ。大丈夫、負けることはないさ。それに、俺だって強くなったのだ。


『わ、わたくしも頑張りますわ!』

「フレンも、期待してるぞ」


 フレンの実力は本物だ。彼女もまた、勇者を目指した人物なのだ。フォトと同じく勇者の光が出る剣を使うことができ、剣術も飛び抜けている。

 今この場にいる者は、皆勇者なのだ。敵の前で世界を救うべく戦っている全員に敬意を表して、俺は剣を振るった。


 そして、終わりが見えない、地獄のような戦いが始まった。

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