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精霊式通信装置ニンファー

 結局、いくら調べても出どころ不明で調査に行き詰ってしまった。

 分かったことと言ったらやはりあの魔獣がシュフスと同種ということだ。

 シュフスが強化され、さらに召喚された生命体。召喚獣ウルシュフス。そう名付けられた。


 今はひたすら召喚されるウルシュフスの討伐を行っている。ウルシュフスの死体から何かわかればいいのだが、召喚獣のため死体は残らない。魔力自体の調査は進めているようだ。

 それが分かるまでこちらからはできることはない。


 ウルシュフス退治家に帰ってきたリーナがどんよりしながら椅子に座った。

 ああああと、太い声を上げながらくつろぐリーナ。ちょっと、いい歳の女の子がそんな声出しちゃいけませんよ。

 しかし成長したな。子供の成長は早い、ちょっと前までちっこいガキだったのに、今となってはそれなりのガキだ。五年の月日を掛けても流石にまだ大人にはならんよ。


「随分疲れた顔してるな」

「そうなのよ、そうなのよ! よく聞いてくれたわね。なんだか最近負傷者が増えてて、仕事が忙しいのよ」


 リーナの仕事は、怪我人の治癒だ。

 回復魔法や治癒魔法を使い怪我人を治す重要な仕事なのだが、如何せん人が少ない。

 最近は魔獣退治に人員を割いているので、負傷者も増えているのだろう。大変そうだし、負担を減らすために魔獣退治の時間増やそうかな。


「忙しいところ悪いが、これからもっと忙しくなるかもしれんぞ」

「はああ!? 何よそれ!」


 リーナはダンッとテーブルに手をつきながら立ち上がった。

 こいつ、だんだんヴールに似てきたな。精霊とも仲いいし、契約もしてるし、魔力の心配はないだろうに。


「プレクストンの実力者が集まって魔獣退治をしているが、数は減るどころか増えてるんだ。今原因を調査しているけど、まだ何もわかっていない。俺も本格的にプレクストン防衛戦に参加する予定だけど、それでも怪我人は増えるだろうな」

「もー! 何なのよ本当に! キールのその、勇者パワー? でどうにかできないの?」

「できるならやってる」


 しかし本当に困った。こういう時にすぐに解決できるよう修行を続けていたのに、魔獣を倒す以外に何もできないとは。

 だが、時期に何かが分かるだろう。魔力の調査もそうだが、何より嫌な予感がするのだ。

 勇者の勘、というやつだろうか。今以上に何か大変なことが起こる予感がする。昔から、この勘はよく当たるのだ。


「何の話ですか?」

「おお、フォト。実はさ――――」


 俺はフォトに怪我人が増えリーナの負担が増えていることや、これからさらに魔獣の侵略が激しくなることなどを話した。

 可能性ではあるが、ウルシュフスを召喚した本人が弱ってきたところを直接攻めてくるかもしれない。

 こちらが弱る前に相手が何者なのかを知る必要がある。……まあ、魔王候補なんだろうな。


「明日から魔獣退治を中心に行動しましょうか」

「そうするか。ああそうそう、これ貰ったから二人とも着けといてくれ」


 ある重要なことを思い出したので、俺は『倉庫』に入れていたある魔法道具を取り出す。そして、テーブルの上に置いた。

 形は、耳に付けるデザインの金属アクセサリーだ。イヤリングとは違い、耳の外側を囲うような形となっている。


「何よこれ、ヘンテコな形ね」

「何ですかこれ?」

「これは精霊式通信装置『ニンファー』だ」


 説明しよう。精霊式通信装置ニンファーとは、精霊の力を使い開発した通信装置のことである。

 これを使えば離れた場所にいても話をすることができる。ニンファーを一度指でタッチすると起動し、他のニンファーへ音声を届けることができる。

 同時に起動すれば会話ができる。報告だけなら、一方通行で返事をしなくてもいい場合もある。

 まあとにかく、これを使えば情報共有が楽にできるようになるのだ。


「まずこれを耳に付けてだな?」


 簡単に説明し、二人に持たせる。二人以外にこのニンファーを持たせるのは、他の重要人物だけだ。

 例えば、ギルドマスターであり冒険者を統べるリンクス。兵士を指揮し、軍隊を動かす隊長。勇者のフレン。リュートにヴァリサさん。と言ったところか。まだニンファーのストックはあるので他の人にも渡すことはできる。

 ヴァリサさんの場合、ヴァリサ道場の弟子の動きも任せることになる。あれもあれで重要だな。


「でも、私に渡す必要はあるのこれ?」

「医療班への伝達係を頼む。あと、まあ、仲間だし? 特別待遇だ。うん」

「ふーん、そう。それなら、ありがたく受け取っておくわね」


 少し照れながら言うと、リーナはまんざらでもなさそうにニンファーをぎゅっと持った。

 しかし二十五歳がここまで照れるとは、俺の心もまだまだ子供だな。

 男の子は一生子供のまま、少年の心を忘れないで生きていくのだ。大人とか知らない。


「こいつの使い方とか試してみたいし、明日はそれぞれ離れた場所で戦闘するか」


 実際に戦闘しながら使ってみないことには実用性は分からない。明日はリュートたちも呼んでウルシュフスを倒そう。

 それ以外にも、俺たちにできる調査を独自に進めたい。


「報告はどうしましょうか。まず魔獣の様子や、殲滅し終えた報告。それ以外に何かおかしいことがあったら報告、でいいですかね」

「だな。あと次の調査についてなんだが、今度は召喚される場所に直接行ってみてだな――」

「うわ、始まった。全くこの戦闘バカ夫婦は……」


 自室に向かうリーナに変な目で見られた気がするが、今は明日の予定を話し合おう。当日の動き方の確認や、使い方の再確認などを話す。

 その日の作戦会議は、夕食に呼ばれないリーナに怒られるまで続いた。

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