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五年間の静寂

第三章開始です。

 クリム火山での決戦から、五年が経過しようとしていた。

 俺は二十五歳、フォトは二十歳となり、お互い大人になってしまった。いや、俺は元々大人か。

 既にプレクストン及び各国の人々は平和になったと感じている。もちろん王国側は常に警戒を緩めずに戦力を維持するため活動しているが、それでもかなり気が緩んでしまっている。

 こちらの戦力に余裕ができている、というのも理由の一つだろう。仲間たちは覚醒を通り越し格段に成長しているし、この五年で知り合った勇者であるフレン・マグナキールや、他国の精鋭たちもどんどん強くなっている。

 正直、これならば負けることはないだろう。なんて思ってしまうくらいには戦力は充実している。


「はあ? モンスターが大量発生?」


 そんな日常を送っていると、ある日リンクスに呼び出された。そこでプレクストンの周辺にモンスターが大量発生しているという話を聞いた。

 リンクスも歳を取ったはずなのに、まるで成長していない。面白いくらいに変わらないのは少し羨ましいかもしれない。


「そうにゃ! にゃんだか知らないけど、突然強力なモンスターが現れ始めたのにゃ」

「強力なモンスターって……そんなになのか?」


 ここ数年でプレクストンの戦力も向上している。

 そのくらいならただの兵士でも倒せるはずだ。苦戦しているとなると本格的に異常事態である。


「上位ランクの冒険者を総出陣させる予定にゃ」

「おいおい、そりゃ大事だな。……魔王候補か?」

「それは分からないにゃ。まあでも、今はとにかく戦うしかないにゃ。さっさとみんなと一緒に街を守るにゃ!」


 呼び出してきたくせに、さっさと行けと背中を押してくるリンクス。それならそっちから家まで来ればよかったのに。

 しかしリンクスの言葉が気になる。確かにモンスターを討伐すれば街の人々を守ることになるだろう。だが、基本的に街は魔法結界で囲まれており、モンスターが寄り付かないようになっているのだ。


「それはいいけどよ、守るってのはなんだ。街には魔物も魔獣も寄ってこないだろ」

「それが、結界を無視して外壁を壊そうとしてくるらしいのにゃ」


 結界を無視する、までは分かる。新種のモンスターとして扱えばいいだけの話だからな。

 しかし外壁を壊そうとするというところが分からない。明らかに目的を持って行動をしている。

 一頭のモンスターがそういう行動をしたのならたまたまだろうで終わる。しかしリンクスの口ぶりからすると大量発生した多くのモンスターがそうなのだろう。でなければ俺に相談をしない。


「どう考えても緊急事態だな。仕方ない、様子を見てくるか」

「お願いするにゃ!」


 俺の言葉を聞きリンクスは満足したようににゃははーと笑いながら見送ってきた。この五年でこいつにどれだけお願いされたんだろう。

 フォトたちを呼びに行きながら考える。なぜ外壁を狙う。それに突然現れたというのも気になる。それでは、モンスターというより魔物として扱った方がいいのではないだろうか。

 考えても仕方ないか。とにかく、実際に行ってみて倒そう。数が増えれば、防衛戦のような形になるかもしれない。


* * *


 プレクストンの周りには多くの冒険者が集まっていた。全員が全員、例のモンスターを討伐しに来たのだろう。

 近くにはいないようなので、空を飛びながら観察する。すると、遠くで青い光と共に四足歩行の巨大トカゲが現れる。やはり、現れ方は魔物のものだ。

 見た目は……シュフスに似ている。似たような巨大トカゲなのだが、大きさや禍々しさが違う。シュフスは魔獣だったはずだが、どういうことだろう。


 集団で現れた巨大トカゲが、一直線にプレクストンの外壁に向かって走り出した。

 おいおい、現れた瞬間から外壁に向かうのかよ。どう考えても普通じゃない。何かしら命令を受けて行動しているに違いない。


「はああっ!」


 地上に降り、襲い掛かってきた一頭を斬る。弱い、が、俺にとって弱くても一般の兵士には荷が重いだろう。兵士ならば複数人で相手をすれば何とかなる程度。それなりに実力のある人なら一人でどうにかなる。

 一頭一頭はそうでもないが、数が多い。これでは確かに対応が間に合わないだろう。

 さてモンスターの死体はどうなっているかなと近づくと、モンスターの身体が青く光り、青い炎に包まれながら消えてしまった。なん、だと。


「……マジか」


 魔物、でもないのか?

 今の消え方は、魔物でも魔獣でもない。おそらく、召喚された魔物のものだろう。

 少なくとも誰かが召喚していることが分かったので、収穫はあった。


「『ブレイドレイン』!」


 再び空を飛びながら『ブレイドレイン』で一気に片付けていく。ただの魔弾では火力不足なので、この『ブレイドレイン』はとても使いやすい。ただひたすら魔力の剣を量産して撃つだけだからな。

 しかも、元の剣が強ければ威力も上がる。まあ、その分消費魔力も増えるんだけどな。

 俺が担当していた場所のモンスターは倒し終った。他の場所も殲滅し終わったようで、もう近辺にモンスターはいない。


 リンクスに聞いた話だが、あのモンスターは定期的にやってくるらしいのだ。先程のような召喚が定期的にされるのだから、その対策に人員を割く必要がある。

 常に城門付近に強い冒険者や兵士がいなければならないのだ。


「うっし、終わったな」


 着地し、仲間の元へ向かう。フォトとリュートも終わったようで、こちらに駆けてきた。


「こっちも終わりました!」

「おっつかれー! 楽勝だったな!」

「おう、おつかれ。これで苦戦される方が困るわ」


 五年前の俺たちでも楽勝だっただろう。まあ、『魔力開放Ⅱ』を使わなければ空は飛べなかったので時間と魔力は多く使ってしまうだろうが。


「しかし、あの魔獣は謎に包まれていますわね。あれほど大規模な召喚魔法を使える人は思い当たりませんわ」

「……!? あれ、フレンいたっけ」


 突然声が聞こえてきたので振り向くと、額に手を当てながら考え事をしているフレンがいた。相変わらず真っ白な髪が綺麗な奴だ。

 いやそうじゃない、なんでここにいるんだ。呼んでないんだけど。


「偶然ですわね。皆さんも、こんにちは」


 ぺこりと頭を下げるフレン。俺たちも軽く頭を下げた。


「し、しかしよく会うな。一応聞いておくけど、この前買い物中に会ったのも、依頼先で一緒になったのも、酒場で相席になったのも偶然、だよな?」

「ええ、()()()()ですわよ」

「フレンさん……」

「うわぁ……」


 フレンが俺のことを好いてくれるのは嬉しいのだが、事あるごとに会うのがとても気になる。

 偶然か、偶然ってあるんだな。フレンが言うんだから間違いない。フレンと出会ってから会うことが増えた気がするが。それも運命ってやつだろう。


「それよりも、今回の召喚についての話し合いが必要ですわね」

「そうだな、だがまだ情報が足りないんだ。今は調べるしかないだろ?」

「そうですわね。では、今後も相手の動きを見ながら行動する、ということでよろしくて?」

「だな」


 今は情報が欲しい。いくら話し合っても、最終的に相手について調べようという結論に至るのだ。

 今できることと言えば、俺が他国まで行って報告する程度だろう。

 だから、今は調べよう。今回は、今まで起きてきた事件とは違う。遂に魔王候補が仕掛けてきた可能性があるのだ。気を緩めてはいけない。

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