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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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祈れガキンチョ

「いやぁ、君をこんなに近くで見るのは初めてだよ。救世主くん?」

記紀は霊残の顎を垂れる血を手で拭うと、味見するように舐めた。どうやら美味しいらしい。

「へぇ、来果でも閏になったらそんなに美味しくなかったのに。君はすごいなぁ。いっぱい人間の遺体を食べたからかな?」

記紀はふむ、と分析を始めた。霊残は痛みにゼイゼイと呼吸を乱す。

「しかしなぁ…君が食べてたのは腐肉だろ?なんでこんなに美味しいのかな?これもやっぱり憎しみの感情のおかげかなぁ。」


「うるせぇ……」

痛みに意識が焼き切れそうだが、霊残は言葉で抵抗する。

「死んだ仲間を侮辱するな……」

それに記紀はきょとんとした顔をする。

「そんなに言うなら君が最初から強ければ良かっただけだろうに。」

霊残は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「でも、ちゃんと強くなれたんだね。心臓も何もかもがまだまだ活動するおかげで閏の専売特許である死んですぐ無傷で蘇ることもできないんだ。」

くすくすと笑っている。



俺は、救世主なのか?

それは常々疑問に思うことだった。

俺は昔から兄ちゃんがいなければ何も出来ない泣き虫だ。弱い。あまりにも弱い。

今だって兄ちゃんがいてくれるから頑張れている。いなくなってしまったら、考えたくもない。

何も護れなかった。こんなに弱くて何が救世主だ。ただ人と違う瞳の色で生まれてきただけじゃないか。何も特別じゃない。


『大丈夫。人は誰かに手を差し伸べられることだけでも救いになるんだ。見送られるだけでも、覚えていてもらえるだけでも。霊残は今までよく頑張ってきたよ。霊残の苦労も悲しみも喜びも楽しみも、全部ちゃんと繋がっている。』



クセロ・ヘルゲート。ケオ・ヘルゲートの従兄弟の少年である。そしてケオ・ヘルゲートの祖先にはフラム・ヘルゲートがいる。

フラムとは、霊残の息子のことである。



「君は未来が見えるらしいじゃないか。」

幸せな未来を見る方法とは。それを考えながら歩いていると、クセロはとある人物に声をかけられた。しかしクセロの知り合いではない。

「…誰ですか。」

「私はオズ。サンタマリア病を作ったすごい人だよ。そしてこの件の元凶でもあるね。どうだい?楽しい世界だろう?」

にっこりと朗らかな笑みで残酷なことを口走る宝石のような男。

「何を言ってるんですか?一体、どういうことです!?」

「そのままだよ。私が記紀という青年に不老不死の薬の作り方を教えたんだ。そしたらこうなった。みんながサンタマリア病で苦しんでくれて私はとても満足しているよ。お疲れ様。」

クセロを労わるように握手をしてきた。クセロはもちろんその手を払った。

「貴方の目的は何なんだ!?」

「おや。んー、まぁ、長い目で見れば人類の滅亡だね。しかし不死者が現れた以上それは不可能になってしまった。残念なことだよ。」

「なんでそんなことをするんですか…?」


「言っても理解されない話にわざわざ時間を割くほど愚直な阿呆として生きていないんだよ私は。」


一変して怒りの籠った声で言った。

クセロは怯んだが退かない。


「こんな話をしたいわけじゃない。君たちにとって喜ばしい話を持ってきたんだよ。」



「さっきのデウスとの戦闘で記紀は大きな怪我を負った。それがトリガーとなってもう少しで記紀はサンタマリア病で死ぬよ。私が記紀にあげたのは即効性のサンタマリア病の病原石、不老不死の祈りを込めた遅効性のサンタマリア病の病原石、そして特級不老不死になれる宝石だよ。記紀が食べたのは遅効性のやつらしいからね。いやぁ良かっ良かった。」


はっはっはっと笑うが目は一切笑っていない。


このまま放っておけば、記紀は自動的に死ぬ。でもそれはなんだか違う。どうも納得ができない。


「はぁ〜。」

オズが大きな声でため息をついた。

「やっぱり、私は子供が好きなんだよなぁ。」

そんなことをボヤきながらオズは改めてクセロに迫った。

そして頭をガッと掴むとそのまま雑に撫でた。

「祈れガキンチョ。私の研究によれば祈りのエネルギーはそれはそれは凄まじいものだ。祈れ。ひたすら幸福を祈れ。そしてそれを語りなさい。占いを知ってるか?第三者が勝手に人の未来を覗く行為だ。ただの迷信のようだが、なんとなく当たってしまう不思議なものだ。それは何故か。聞かされた者はその未来が実現するように無意識に動くんだ。だから当たった気になる。そしてまた信じる。そんなことが起こるなら、幸せな未来を提示し続ける方が賢いだろう。そして君は本当に未来が見える。そんな君が祈り、不幸を捩じ伏せ、素晴らしい未来ばかりを掴むことができたなら。」


「祈ることは生きる人間の特権だよ。願わくば、君の未来に幸多くあれ。私はちゃんと見守ってるからね。」

ぽんぽんとクセロの頭を優しく撫でるとオズは優しい親の顔で笑った。

「私の娘も、生きてたらこんなに可愛いかったんだろうなぁ…。」

そんな呟きを聞いてクセロはオズに声をかけようとしたが、それを待たずにオズはフッと姿を消した。


クセロは走って教会へ戻った。

祈らなくては。

記紀が死ぬ前に。

カレットと霊残さんがきちんと決着をつけることが出来ますように!

ちゃんと、カレットたちがとどめを刺せますように!!


足りない。まだ、ただ記紀が死ぬだけの未来が見える。

まだだ。もっと強く。

祈れ祈れ、祈り続けろ!


目が潰れるんじゃないかと言うほど強く瞼を閉じた。

骨が砕けるんじゃないかと言うほど強く指を組んだ。

月夜の中、思わずその場で跪いた。


違う。

これじゃない。

まだ。

カレット…!

頑張ってくれ!!



「っ!!」

ハッキリと見えた!!


その興奮のまま満月に向かって叫んだ。

「頑張れカレット!!この戦い、お前が勝つぞ!!!」

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