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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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500年の決着

霊残は攻撃の手を緩める気は一切ないとでも言うような様子だ。

対する毘沙門天も迎え撃つ姿勢をとる。


霊残の攻撃は強すぎる。

いつ、ただの住民を巻き込んでしまうか…。


兄ちゃんは何もしてやれないのか…?



そう考えていた時だった。


「うわ。」

何かとても嫌そうな声がした。

「爆発音がしたと思ったら…。1対1か。面白くないな。」

そう呟くと、彼はしばらく考えた。2人の戦いの轟音にも一切動じない。

「ここは…やっぱりアメシストだな。」


「アドベント・テラリウム 月石2式の一つ、紫水晶(アメシスト)。これで混乱も解けて面白くなるだろ。…オピスにも使ってやろう。」

紫色の粉が空から降り注ぐ。

正体を探る前に彼はどこかへ行ってしまった。

ニヤニヤとした邪悪な笑みだったが、彼は霊残によく懐いているカレットにとても似ていた。


もしかしてあの人が…


粉を浴びたからか、霊残は突然冷静さを取り戻した。

「兄ちゃん、今のは…」

「デウス・ヘブンズドア…!噂でしか聞いたことないがすっげぇ怖かった…。」

『きっとカレットのお父さんだ。』

「あれが!?」

『…一体どういうことだ…?』


「恐らく、栽の都はもう滅ぶしかないだろうな。」

毘沙門天がそう呟いた。

「…いや、そうはさせない!」

その言葉に霊残が反論するが、毘沙門天は馬鹿にするでもなく哀れみの表情を浮かべていた。

「二十四言狼としては栽の都の滅亡は避けたいことだろうな。しかし、それはもう無理だ。栽の都はこの世で最も敵に回してはならない存在を敵に回してしまったんだ。」

「…。」

「…デウス・ヘブンズドアは、桜葉記紀を討てる唯一の存在、守り神だと俺は思っている。しかし栽の都の人間は神を蔑ろにした。その結果、守り神は祟り神に成り果てた。さっきから雷の音や爆発音が聞こえるだろ?あれはあの神様の仕業なんだぜ。」

「早く止めないと…」

「無理無理。俺を倒して向かおうとしてもお前は神にはかないやしない。」

「それでも行くしかないだろ!!」


また刀を構えた。

早くカレットに伝えなければ。



その美しい刃紋は消えることは無い。刀を振り、斬撃を防ぎ、火花が散る。

お互いもはや人間ではない。

化け物のような跳躍、スピードで戦う。


なるべく街から離れたいが、そう上手くいかない。

「第三頭、竜の牙!!」

そう唱えると地面から牙のような形をした岩が突き出した。

それを刀で細かく切り刻み、毘沙門天へ向けて弾き飛ばした。

ハッと驚いた毘沙門天は薄い布のようなものを展開し、それを防いだ。

「そんな薄い布でいいのか!?」

第2、第3と岩の粒を飛ばす。

「ティシュー…。薄い布のような防衛壁を展開する魔法さ。これが案外頑丈なんだ。」

そう言うと最後の第4の岩の粒を全て包み込んだ。それを霊残に向けて放る。

無論、それを切った。だがそこに毘沙門天の姿は無い。

ヒュッと背後で風を斬る音がした。


「そこか!!」

振り返りざまに斬り掛かる。


しかし、刀のみが飛んできたのだ。

嫌な気配がしてバッと足元を見た時には遅かった。

「俺の勝ちだ!!」

『何か』で左足首を斬られたのだ。

反撃をしようと試みたが、油断をしない毘沙門天は直ぐに後ろへ飛び退いた。


傷口から例の蔓が伸び始めた。

「に、兄ちゃん…」

『霊残!!大丈夫だ、落ち着け!!』

そのやり取りを見て毘沙門天は哀れみの表情のまま鼻で笑った。

「もうこうなってしまったら最期だと、一番知ってるのはお前ら兄弟だろ。」


「まさか成功するなんてな。かなりの賭けだったんだぜ。刀の先を折っておいたんだ。」

「くそ…」

『大丈夫、兄ちゃんを信じろ。兄ちゃんがついてる限りお前はまだやれる。アイツは賭けに負けたんだ。』

そうだ。奴の刀は折れている。

グッと右脚に力を入れた。

「第四頭、画竜点睛!!!」

「なっ…」

霊残の背後に現れたのは大きな竜の幻影。これはあの時の名前の無かった…

「最後のヘルゲートを喰った時の…!!」

折れた刀を構えるが、既に力の差は明白である。

だがそれでも


「俺が死んだとしても!戦果があれば兄さんは救われる!!」

「俺はまだ死なない!!お前を殺すまでは必ず!!」


口を開けた竜が迫る。閉じる口を間一髪で避けた。自分のいた地面は歯型のように抉れ、改めて恐怖を感じた。

「逃がすか!!」

一瞬怯んだ毘沙門天を、霊残は捉えた。

躊躇なく首を切りつけた。



霊残は毘沙門天の首を携えて近くの建物の屋根に登った。遠くで落雷の音が聞こえた。

「…お前ももう少しで死ぬのに。」

「兄ちゃんがいたから頑張れたんだよ。」

「俺だって兄さんがいたから…。」

「…本当に、なんか似てるな俺たち。」

「…かもな。」

その会話の間にも栽の都は悲鳴や花や爆発に包まれている。

「兄さん…。」

毘沙門天が初めて泣きそうな声を上げた。

それを聞いて霊残は毘沙門天に笑いかけた。

「心配しなくても、アイツは大丈夫そうだよ。お前が思っているよりずっと強い。」

「何を根拠に…」

「大好きな兄さんを信用してやれよ。…俺は300年前に視力をかなり上げたんだ。だから今もお前の兄さんが戦う姿が見える。」

「…視力か。俺もそうしたはずなのに、なんにも見えないんだ。」

「当然だろ。お前今泣いてるじゃないか。」

「…。」


毘沙門天の体は既に消失していた。あとは首を残すのみ。

「イオタ。手を離せ。」

「…あぁ。」

「兄さんのこと、頼んでもいいか?」

「俺がやらなくても、きっと奴は自分で何とでもするよ。安心して見守ってろ。」


じゃあな。

そう呟いて屋根の上から毘沙門天の首を落とした。

地面に着く頃には骨に変わり、パンッと地面に弾けた。


復讐を果たしたが、妙に虚しかった。


「兄ちゃん、そういえばなんで俺はサンタマリア病にならないんだ?」

『1度サンタマリア病に罹った兄ちゃんが寄生したから抗体ができていたんだろうな。しかし、あらゆる事象を貫いてサンタマリア病は発現する。次は無いだろうな…。』

「…全部が終わったら自害するつもりだったから、むしろ都合がいい。」

『そうか。その時は兄ちゃんも付き合うよ。』

「あぁ、早くレイラに会いたい!!」

『そうだな!よし、街へ行こう!!カレットを追うんだ!』

「うん!」


霊残の役目はまだ終わっていないのだ。

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