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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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井の中の蛙大海を知らずと言うように、バトラコスは海を知らなかった。

どうしてか、記紀は絶対にバトラコスを海の国、果ては他国の海岸にも行かせようとしなかった。

別に海に入って遊んだりはしない。それにもう人間と同じような体質なのだから浸透圧で死んだりしない。

それなのになぜか行かせてはくれなかった。

だから一番の親友のオピスといつか一緒に海に行こうと話していた。


そしてそれはもう少しで叶う。

記紀と約束していたのだ。デウスを食べたあとはみんな自由に生きて良いと。


海に行ったら何をしよう。海は本当に青いのだろうか。オピスが話していた通り広いのだろうか。どんな匂いがするのだろう。砂の上を歩くのはどんな気持ちなのだろう。


早く行きたいなぁ。



「デルタ、そっちになんかの気配があるよな。」

「あぁ。ベータも気をつけろよ。」

デルタとベータがある高台を見つめていた。まだこの辺りは住民が避難を始めていない。

逆を言えば障害は多い。

「なぁデルタ、住民は守らなきゃダメか?」

「当たり前だろ!何考えてるんだ!」

「ハイハイ。善処するよ。」

ヘラヘラとした態度が一変する。

2人同時に刀を構え、飛んできた3本の矢を切り崩した。

「遠距離攻撃か。」

「毒矢らしい。当たったら大変だ。」

「俺たちだから良かったけどなぁ。」



矢を放ったのはバトラコスだ。

「えぇぇぇ…何アイツら絶対強いじゃないか!どうしよう…。」

バトラコスは弓の名手だ。実際は大きな運動が苦手で700年間地道に腕を磨いてきたからなのだが。

もう一度、今度は4本。

全て防がれる。


無理無理無理!!オピス助けて!!

よく見ればあれは前デンドロンが話していた2人ではないか。海の国の人間の任務を手伝いしていたとか、強すぎるからデンドロンが無視をしたとか。あの二人がいたから花月さんの実が御主人の自宅から盗み出されたんだ。

僕がかなうわけがない!!


「ベータ、距離はどのくらいか分かるか?」

「デルタもわかってんだろ。まぁ、あの高台の上に行こうぜ。走ればすぐだ。」


2人は明らかにこちらを見ている。

バトラコスは一度逃げることにした。デウスほどでないが、殺気が凄まじい。

早くオピスに会いたい。



「気配が消えたな。」

「なんでだろうな。」

デルタとベータは顔を見合わせて首を傾げた。


その時、地面が揺れた。街路にヒビが入る。

「やつの方から現れたのか!?」

「いや違う!もっと強い殺気だ!!」

街路に敷きつめられたレンガが弾け飛ぶ。露出した土から黄色のカーネーションが咲き乱れた。

住民たちは悲鳴をあげることしか出来ない。

2人は刀を構え、迎え撃つ準備に入る。


ゆらりゆらりと迫る影。笑い声がする。

カレットに似た薄緑の髪。この人はまさか…

「デウス…さん?」

デウスは微笑むと、呪文を唱えた。

「アドベント・テラリウム 月石8式の一ツ、橄欖石(ペリドット)。」

コイントスのようにペリドットを弾いて上空に飛ばした。ペリドットの像が太陽に重なった瞬間、ペリドットからレーザーのような光線が放たれた。ちょうど光線を浴びた住民の1人に風穴が開く。

それを見てベータは少し笑った。それにデルタは怒る。

「どうして今笑った?」

「さぁな。」

ベータはシラを切る。

「俺たちには力があるんだから、弱い住民を護って当然だろ!?それを、お前は…」

デルタがそう言うと、デウスの様子が変わった。

「お前も俺の敵なのか…?」

「そんなもの護ってどうする…?」

「お前なんか死んでしまえ。俺の味方じゃないなら死ね。」

ブツブツと呟いた。

「なんで俺ばっかり!!!こんな奴ら全員死ねばいいんだよ!!!!」

見えないほどの速さの斬撃だった。

「…あーあ。」

ベータとデウス以外の人間は全て真っ二つになった。

「俺だけ残すなんてすごい技術だ。」

「お前は俺の敵かわからないから。」

「…敵では無いけど…味方とも言いきれないしなぁ…。でも俺も似たような目的があるんだ。ただ貴方は俺よりも早く行動に移しただけだよ。」


「復讐って楽しいよな。」


デウスは少しだけ驚いた顔をした。対してベータはにっこりと微笑んでいる。

「俺はこの騒ぎに乗じて元素の国まで逃げる。もとより愛着はあまりないし。俺が愛する国の復権のために、俺はこことは別の場所で復讐戦争をするつもりさ。貴方が人殺しが好きというなら、ぜひ楽しみにしててくれよ。」

じゃあまたいつか。そう言ってベータは歩き去ろうとした。

しかし振り返って一言添える。

「貴方が持ってるその刀は元々俺の一族のものだ。満足したらいつか返してくれよ。」

そして今度こそ本当に去っていた。


デウスは静かになった場所に1人で立ち尽くす。

復讐は楽しい。

そう改めて言われると、心が空っぽになっていることに気付かされた。



「さて、カレット坊っちゃんはどこかなぁ。」

ハウドヴィスはカレットを探し回っていた。行く先々に死体が転がっている。

「広いしなかなか見つからないかぁ。」

そうボヤいていると、遠くの方で爆発のような音が聞こえた。

「…毘沙門天か。」

音の方向には竜のような男と戦っている毘沙門天が見えた。

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