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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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予兆と嵐

お茶を注ぎ、香りを楽しんで、ゆっくりと口をつけようとしたが、熱くて飲めない。一旦テーブルにカップを置いてスコーンを食べようとした。

もふもふの帽子にもふもふのマフラー。何月だろうと変えないスタイル。オミクロンは今日ものんびりとしていた。スコーンを食べながら、先日のイプシロンの料理が美味しかったことを思い出した。あの日、オミクロンがほぼ独占してしまったが、美味しいシフォンケーキがあった。もう一度食べたいなと思った矢先、外で爆発音が聞こえた。だから外に出た。

「今日はどんなヤツ〜?」

「オミクロン!!早く来い!!」

「わかったよ〜クシー。よく頑張ったねぇ〜。」

パッと家に戻るとオミクロンは自分より大きな太刀を取り出してきたのだった。




「今日の2体目はオミクロン達のところだったか。」

イオタは奇妙な羅針盤のようなものを見て呟いた。それはイオタと雑魚くんが帰ってきてすぐのこと。

「なんですかそれ?」

「どの辺に閏が現れたのかがわかるシステムだ。前までは雑魚くんの反応もこれでわかっていたが、人間になったら反応は消えた。」

「不思議なアイテムですね。」

「これは俺が作ったんだ。」

カレットは目を丸くして驚いた。

「めっちゃすごいじゃないですか!!」

「だろう?隊員からも好評だった。」

ふふんと得意げな顔をする。そんなに器用なら雑魚くんを気絶させないように運んでほしいものだが。

「そうだ、早速だがカレットには体力作りを行ってもらう。ここからイプシロンの家まで走るという訓練だ。3キロだし、できるだろう。」

「待ってください、それってまさか…」

「片道3キロだが?」

「ですよねぇ…」

カレットは腕力と集中力には自信はあるが、体力にはとことん自信が無かった。石を掘るだけの毎日だ。そうなっても不思議ではない。

「いいか、これは死なないための大事な訓練だ。何かにつけて大事なのは体力。閏から一人で逃げるための訓練だと思え。」

「ですよねぇですよねぇ。逃げきれなきゃ意味ないですもんねぇ…。」

「わかってるじゃないか。」

じゃあ走ってみようか。そう笑顔で言われたら走るしかない。



今回は道がわからないかもしれないからと、イオタもついて行くことにした。つまり、カレットからしてみれば休むこともサボることも不可能なのである。

「イ、イオタさ…もう無理です…でも死にたくないです…。」

「じゃあもっと走ろう。まだ2キロだぞ?」

「俺からするともう2キロなんですよ…」

へたばりそうなカレットを心配しながら、イオタは一切息切れしていない。一体どうしてそんな体力があるのか。

「あの、走ったらそんな体力がつくものなんですかね…?」

「俺は異常だが、鍛え方次第ではお前にもすごい力があるんじゃないか?」

「俺は基本現実主義なので…。」

「あり得ないことが起きても起きたからにはそれは現実なんだぞ。現実は諦めの言い訳じゃない。」

「まぁ、それもそうですよねぇ…。なんか、コツとかあるんじゃないですか?」

「あるが、まずは普通に3キロを往復できるようになってからだな。時間はたっぷりあるから、自分で探してみるのもありかもな。」

「うへぇ…もー頑張りますよ…。」


「あー、カレットに走り込みやらせておくべきでしたね…。」

どうにかイプシロンの家に着いたが、結局カレットはへたばってしまい、サンピの部屋のベッドに寝かせておくことにした。

「サンピ君、カレットはホントに体力が無いんだな…。」

「ずっと石をいじってて、鬼ごっこもドッジボールも避けてたようなやつでしたから…。」

「…天性の引きこもり。」

「やめたげてください…。」


「サンピ君は、体力があるんだろう?」

「地味なふりしながら走りまくるの大変でしたよ。」

「確かにその丸メガネ、伊達っぽいしな。」

「あ、わかりました?」

急にドタバタと音がした。

「おま、お前それ伊達なのか!?」

足をプルプルさせながらカレットが顔を出した。

「そういえば言ってなかったね。」

「まって、割とショックだわ…。」

カレットがしゃがみこんだ。

「そんなに〜?」


サンピがカレットに近づく。そして耳打ちをした。

「イプシロンさんが死ぬ日が近い。早く名前を聞き出しておくから、いい石に目星を付けておいてくれ。」

「…わかった。」

サンピは立ち上がると元気な声で言った。

「ほら、回復したんなら早く帰れよ。ほれほれ。」

「待て待て、まだ無理。」




どうにかカレットを帰らせた。途中まで走ってへたばったらイオタさんに担いでもらうらしい。一人残されたサンピはイプシロンとシータの帰りを待つ。イータのところにでも行ったのだろうか。

聞き出さねば。今日見た夢の精度は高かった。だが、どうやって死ぬのかの特定はできていない。ただただ、その日が近いということはわかる。

明日でも、数週間後でも、半年後でも、誰かが死ぬと思うと近いうちなのだ。

溜息が出る。その時イプシロンが帰ってきた。

「ただいま。何かあったのか?」

「兄さん…やっぱり兄さんが死ぬなんて嫌だよ!でも、でも…」

「サンピ、自分の予言をそんなに深く信じてるのか?占いもそうだが、そうなると言われればそうなるべく動きたくなる人間が多い。つまり信じれば信じるほどその日は近づく。それに、人はいつか死ぬようにできている。きっとただの寿命だろう。まだ起きていないことは現実じゃあない。いくらでも抗えるさ。」

サンピの頭を撫でるその瞳は深い慈愛に満ちていた。

「兄さん、それでも一応名前は教えてください。いつになるのかわからない以上、備えはしておきたいんです。」

「…それもそうだな。じゃあ耳を貸せ。オレの名前は…」

イプシロンは自分の名を囁いた。



1ヶ月は過ぎただろうか。才能があったらしいカレットは息切れはするものの往復ができるようになった。

「カレット・ヘブンズドア、やっぱり特別な家系だったりするんじゃないのか?」

ニヤニヤとしながらイオタがそう言った。

「ただの彫刻家の一族ですよ。何も特別なことはないです。」

「特別な家系だのと言っておけば子供は喜ぶと思ったんだがな。」

「10歳をなめないでくださいよ。」

「雑魚くんは喜んでくれたんだけどな。」

基礎体力の高い雑魚くんはもう実践的な訓練を行なっていた。回避力を上げるための訓練だとか。この前はネコジャラシだったのにな。

「イオタさん、少し休んだらもう1セットやってきますね。」

「わかった。しかし今日は明日の嵐に備えて窓と屋根の補強をしたいからなるだけ早く帰ってきてくれ。」

「わかりました!」

ここには定期的に嵐が来る。季節関係なく月に一回。


そしてその後には強い閏が来る可能性が高い、とか。

「俺が守るから安心するといい。」

イオタのその言葉にとても安心した。

自室で風呂上がりの雑魚くんの髪を膝に座らせて拭いてやる。父親代わりの大黒天さんにこんな風に拭いてもらうのが習慣だったらしい。

「なぁ、雑魚くん、こんな呼び方嫌だから早く名前を教えてくれよ。」

「確かにお前に雑魚くんと呼ばれるのはなんか嫌だ。」

「だろう?だからさ。ほら。」

「アイ。アイ・ヘルゲート。」

「へぇ、いい名前だな。アイちゃんか。」

「イオタには内緒だぞ。アイツが自分の名前を明かせないのに俺だけ明かすなんて不公平だ。」

「そういやアイちゃんはイオタさんとなんで仲が良いんだ?」

「…それも内緒。」

「また今度教えておくれよ。」



奇妙な夢を見た。閏の来る地面のヒビを眺めていたイオタがフッと消える夢。まさか殺される予兆ではないよな?この日は不安で仕方ないまま嵐を迎えた。

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