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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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デウスの宿命

「それで、一緒に帰ってきたわけだね。」

デウスたちが王たちの元に戻ると、オレオルだけが出迎えてくれた。

「あとのみんなは移動だとかで疲れてしまったみたいでね。」

王たちは椅子に座ったまま眠っていた。

「ヴァロナ、静かに動けよ。」

「大丈夫大丈夫。それくらいわかるさ。」

ゆっくりとドアを閉め、部屋の隅のソファに座る。客用ではない硬いソファ。デウスの小さい頃からのお気に入りの場所だ。

「ようやくデウスにも私以外の友達が出来たんだね。」

「まぁ、まだ警戒は続けますけど。」

「…疑り深いのは君の長所でもあるけど、少しくらい気を許したって大丈夫だと思うよ。」

「そうだぞ〜。俺様はお前のことならなんでもわかるんだから。」

「俺がお前のことをあまり知らねぇから怖ぇって話だよ。肝心なとこ馬鹿だなお前。」

その様子を見たオレオルはまた嬉しそうに微笑んだ。

「ヴァロナくんはいいな。私も見れていないデウスの顔を見れるんだから。」

「…な、何をおっしゃいますか。俺はオレオル様には本音でしか話していませんよ。」

「その敬語。立場上仕方ないけど、君は本当は少し口が悪い。そういうところは彼がいなければ私は知らないまま死んでいってしまっただろうね。」

デウスは少し顔を赤くした。

「私はヴァロナくんが羨ましいよ。ちょっと妬けちゃうな。」

「…俺様がデウスの今まで隠してきた部分を全部引きずり出してアンタにも教えてやるよ。」

「それは嬉しいね。」



やがて他の王たちが目を覚まし、会議を再開することになった。

「デウスくんに友達かぁ。俺たちも嬉しく思うよ。な、ケフェウス。」

「うん。僕たちのことも友達と思ってくれてよかったんだけど、デウスくんは真面目だからね。」

ロンドとケフェウスがデウスとヴァロナを見ながらそう言った。

デウスに友達ができるということは、それほど珍しく重大なことなのだ。

「君さ、御主人様のところに戻る必要が無いのならデウスくんと一緒にいなよ。その方が僕たちも安心だしね。デウスくんって、どこか少し危ういから。」

「どういうことですか?瑞紀様。」

少しムスッとした表情でデウスは瑞紀を見た。

「なんでもないよ。わたあめあげるから怒らないで。」

瑞紀はとてとてとデウスに近づくと小袋に入ったわたあめを差し出した。

「ありがとうございます…。」

瑞紀はにっこり笑うと、席に戻っていった。



国交についての話し合い、貿易についての話し合い、自衛、政治、経済の相談、…様々な話が飛び交う。

「デウスは参加しないのか?」

「難しい話は王様たちの仕事さ。俺はその中でも要りそうな情報だけを掻い摘むだけ。」

「ふぅん。さっきのわたあめ少し食べてみてもいいか?」

「あぁ。日の国のスイーツはとても美味いんだぞ。」

「昔から日の国の人間の肉は甘いって言うしな…。」

ヴァロナがそう呟いた瞬間、瑞紀が険しい表情でこちらを見た。

「その話、詳しく聞かせてほしい。」


「…日の国の人間は幸福な人間が多いから比較的甘い。エデン人とエルドラド人は向上心からくる嫉妬が多くて少し酸っぱい。海の国の人間は怒りと憎悪が多いから少し辛味があって旨味も強く、魚肉に近い味がする。そう御主人様は言っていたよ。」

ヴァロナが申し訳なさそうな表情で語った。

「…どうやら彼は人の感情を味として感じているみたいだね。どうりで僕たちが彼の感覚を理解できないわけだ。」

瑞紀が分析を進める。その分わたあめを食べる早さも増す。

「…意味がわからん。」

匙を投げたのはロンドだ。

「ほんとにね。しかし、憎悪が旨味って怖いなぁ。」

ケフェウスも溜息を吐いた。

「そういえば、デウスたちがいない間に彼からあの被検体の情報が届いたよ。」

オレオルが封筒を差し出した。

「縁起でもないからポストに入れるのはやめてほしいな…。」

ぶつくさと呟きながら、封筒を開いた。

「被検体…かぁ。」

ヴァロナは不安げな表情でデウスを見た。

それに気づいたデウスは大丈夫だとヴァロナの背中を叩いた。

「えっと、被検体の観察結果。いつもと変化無しだってさ。あと、感情の揺らぎが足りないって。どうしろって言うんだろうね。」

「知らねぇよそんなの…。被検体が誰かもわかってねぇのに。」

ロンドが頭を抱えた。


「この被検体の人、俺に似ててなんか見捨てられないんだよなぁ。」

デウスがオレオルから書類を貰って眺める。

「それが誰なのか、俺様は知ってるけど…御主人様に言っちゃダメだって言われてるから…。ごめん。」

王たちはそれを聞いてあからさまに溜息を吐いた。

「まぁ、そうだよね…。無理に言わせて殺されたりしたらデウスくんの数少ない友達なんだから…。」

「ごめんな、ケフェウスさん。」

「…デウスくんのこと、大事にしてあげてね。」

「おう。何があっても守ってやるさ。」

「ありがとう。」

「あの、俺の意見は…?」

勝手に話を進めていく2人にデウスは戸惑った。




それから1ヶ月、デウスとヴァロナはまるで親友のようになっていた。毎日一緒に街のパトロールをして、時にはヴァロナの仲間を殺した。毎日遊んで、買い物もして、デウスは今までで一番心が満たされていた。


「アンデルさん、ありがとう。」

今日は買い物の日だった。パンの入った袋を受け取ってデウスがお礼を言った。

「デウス、お前街の人全員の名前を覚えてるんだな。」

「まぁな。」

楽しそうに話す2人の背中が遠ざかると、街の人々はデウスを見ながら口々に悪口を言い始めた。

「ねぇ、デウスさんって普段何をしてるか知ってる?」

「知ってる知ってる。人殺しでしょ?」

「早く出て行ってくれないかな。」

「安心して暮らせないよ。あんな人が刀を持っているなんて。」

「いっそ死ねばいいのに。」


デウスはこの悪口については知っていた。ヴァロナが怒りを(あらわ)にしているが、デウスは落ち着いている。

「あんな奴ら、オレオル様の命令じゃなきゃ護ってねぇよ。」

ヘブンズドア家は言わば狼だ。そして街人は食用の羊だ。敵が羊飼いだとするなら、羊が助かるには狼と仲良くするしかない。それを理解した者から羊飼いに消されていくのだが。


「友達はお前とオレオル様だけで俺は十分幸せだよ。」

デウスが楽しそうだから良いか。

ヴァロナもつられて笑うのだった。

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