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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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王たちの集会

デウスとオレオルはこの日、とても楽しみなことがあった。見るからにソワソワする様子に事情をよく知るオレオルの家来たちはニコニコとしていた。

瑞紀(みずき)くんは何時頃に来るって?」

「正午頃を目掛けて来ると言ってましたが、数少ない土産屋さんに捕まっていたら遅れるでしょうね。」

「瑞紀くんは社員想いだからなぁ。」

(かける)さんがいてくれれば良いんですけどね。」

「あと、ケフェウスさんとロンドさんはそろそろかな。」

「あの二人はしっかりしてるから、もうすぐでしょうね。」


今日は国王会議。栽の都、高天原、エデン、エルドラドのトップが集まり各国の今後を相談し合うのだ。

ポセイドンは相変わらず忙しいらしく軍隊総長は不参加だというが、何か指示があれば動くという姿勢らしい。


「お、来たか。」

ノックの音がした。すぐさまデウスが扉を開けに行く。だが、デウスが扉に着く前に開かれた。

「やぁ、久しぶりに会うなぁ!元気にしていたかい?」

大声で部屋に入ってきたのはエルドラドの王、ロンドだ。

「ロンド…もう少し静かにしなよ…。」

後に続いてケフェウスも入ってきた。

「やっぱり2人は一緒に来たか。」

「幼馴染の仲良しだからな。」

「えへへ…。」


「さて、瑞紀くんはやはり遅刻か。」

「オレオル様、俺ちょっと見てきますよ。」

「ぜひそうしてくれ。あのふよふよ具合だし、やっぱり土産屋に捕まってるんだろう。」

「でしょうね。一応刀は持っていきますね。」


デウスが出て行ったのを見送ると、席に着いたロンドがオレオルに話しかけた。

「デウスくんの刀カッコイイね。」

「2000年前の元素の国で造られたものらしい。名前は確か千秋八重水面(せんしゅうやえみなも)。ヘブンズドア家に伝わる秘宝らしいけど、カレットくんは知らないだろうな。」

「そうなのか。秘宝ってなんだか良いなぁ。エルドラドにも何かないかな。」

ロンドがケフェウスを見た。ケフェウスはやっと自分も話の輪の中にいたことに気づいた。

「…全て管理されてるんだから、何もないんじゃないかな。」

「だよなぁ。エルドラドは特に厳しいし。」

ロンドが溜息を吐いた。



デウスが土産屋に着くと、確かに瑞紀はそこにいた。しかしデウスは顔をしかめる。瑞紀がいつもの調子で話しているその相手は

「ヴァロナ!!瑞紀様に何をしている!!?」

「デウス!!」

全身黒い服で揃えたファッションの黒い羽根を生やしたカラスのような男。デウスにとっては街を脅かす天敵である。

刀を抜き、殺すつもりで構える。今仕留めておかねば一体何をされるか…


「キャー!!!」

響いたのは土産屋の奥さんの悲鳴だった。デウスの刀を見て驚いたらしい。

「奥さん落ち着いて!」

止めに入ったのはヴァロナだった。

「あのね奥さん、コレ模造刀なんだよ。ちょっと…撮影?しててね、民間人巻き込み型のドッキリだったんだよ。ね、ね、驚いた?」

「当たり前でしょ!!早くどっか行って!!」

「ごめんね〜。」

ヴァロナは驚いた様子のデウスと未だお土産を眺めている瑞紀の腕を掴むとそそくさと笑顔で立ち去った。


とりあえず路地裏に入る。

「はー、不味そうな目ん玉のおばさんだったな。」

「ヴァロナ…なんのつもりだ。」

「御主人様からの伝言があるのにこのわたあめばっか食ってるコイツがお前らの集合場所になかなか行かねぇから迎えに行ってたんだよ。食うつもりはさらさらねぇよ。お前がうるせぇだろ。」

「うるさいどころか国際問題だ。」

「だろうな。だからまだ食わねぇさ。」

「…。」

デウスはヴァロナを睨みつけた。


「まぁ、これで貸しができたなぁ。見たかあのおばさんの顔。これが現実だぜ、デウス。」

「何が言いたい。」

「…いや、別に。お前の慈善活動は誰にも知られてねぇんだなーって思っただけだ。可哀想に。」

「そう思うなら街の人を食うな。お前の仲間にも言いつけとけ。」

「俺様は考えてやるかもだが、他の奴らは頭悪いから聞かねぇだろうな。俺様も食うのは止めないけどな。」


その会話をよそに瑞紀はいつものようにわたあめを食べていた。



瑞紀が着いてようやく会議は始まった。

「なんでお前もいるんだ、ヴァロナ…。」

「いいじゃねぇか。どうせ筒抜けなんだから。」

「チッ…」

オレオルは苛立つデウスをなだめる。王の言いつけならばとデウスはどうにか心を落ち着けた。


「それで、ヘブンズドアの活動は街の人にはこれまで通り一切知られてないんだな。」

議長はオレオルである。

「情報封鎖は栽の都だけだろ?俺はエルドラド国民全員に栽の都にはこんな英雄がいるんだって知らせてやったぜ。」

「僕も、エデンのみんなに…。」

「海の国は当然ヘブンズドアについて知ってるだろうな。」

ロンドは空いた席を見ながら呟いた。


少し照れくさそうにするデウスをヴァロナは肘でつついてニヤニヤと笑った。

「街の人間が誰一人知らなくてもこんなに理解者がいるんだから、デウスは幸せ者だな。」

「…まぁな。」

「俺様も敵じゃなきゃお前の味方でいたいんだがな…。」

「嘘つけ。」

そんな2人のやり取りを瑞紀はわたあめを食べながら静かに眺めていた。


「近況報告会の前に、お前の御主人様の伝言を聞いてみようか。」

「よし、まずは普段からのアンタたちの行いを褒め称えていらっしゃる。そして本題。俺様もよく分からないんだが、この調味料を使ってみて欲しい…と。」

そう言ってヴァロナがコートのポケットから取り出したのは胡椒の小瓶のようなものだった。テーブルにコトンと置いた。

「バゲットも切って持ってきた。」

人数分のバゲットが入った袋も取り出す。

「えぇと、これは今栽の都の街中で流行っているものらしい。どんな料理でもスイーツもフルーツでさえも魔法のように美味しくなるとか…。」

「へぇ…。」

まず食べてみたのはロンドだ。ふりかけた粒は少し赤みのある桃色をしている。ほんのりオレンジ色をしたものもある。

「うーん、甘いとかしょっぱいとかはよくわからん…。でもすごく美味しい。」

「じゃ、じゃあ僕も…。」

ケフェウスも口にする。何を言うでもないが美味しい、という目をしていた。

「デウスも食べてみよう。」

オレオルがデウスを誘った。

「はい。」

じっくりと味わってみる。

「うん、確かに美味しい。」

オレオルが微笑むが、デウスは妙な不安を覚えた。確かに美味しい。だが、何か裏がありそうな…。

様子を見ていた瑞紀は一気にありえない量をふりかけて食べた。もぐもぐとゆっくり咀嚼する。

瓶をクルクルと回しながら眺めると溜息を吐いた。

「僕の特技なのか、桜葉家に受け継がれる能力なのかはわからないけど、僕は食べたらその料理、調味料に使われている原材料がわかるんだ。」

そう呟くと、瓶の蓋を開け、サラサラとしたその中身を一気に口の中に流し込んだ。

俯きながら飲み込んでいく。口の中から全て無くなると、紅茶で流し込み、合掌をして「ごちそうさまでした。」と言った。

「瑞紀くん、その原材料って…。」



「人間の脳味噌と脊髄。」



「ヴァロナ、君の御主人様は相当な悪趣味だ。倫理的に許されないことをやってのけるとんでもない人物だ。」

瑞紀は席を立つとヴァロナに詰め寄る。

「俺様は…その中身については知らなかったんだよ…。」

「だろうね。君は今確実に御主人様に失望している。一般人にまで人間を食わせていたのか、と。」

「…。」

「君の御主人様は倫理観という言葉を知らないのかもしれない。知らなくても構わないからこう伝えておくれ。『我々は人類の1人として君に憤りを感じている』と。」

「…わかった。」

その言葉を聞いてヴァロナは放心状態のまま窓から飛び去った。



窓際で瑞紀はその姿を見送ると、振り返って微笑んだ。

「…さて、気を取り直して皆さんお待ちかねの我が社の新作スイーツの試食会を始めましょう。」

山ほどある議題の中の一つ、それがスイーツの試食会。

楽しみなことであるはずなのに、気分が戻りそうになかった。

王たちは全員で顔も知らない住民たちに黙祷を捧げた。その様子を見た瑞紀も手を合わせて改めて合掌をした。


この国は平和なように見えて平和ではない。知らないということは、その人にとって何も起きていないこととそう変わりはないのだ。

ある日突然、愛するものが奪われることの悲しみを、憤りを街の人々は知らないのだろう。

それでいい。

そう言えるようにデウスはできる限り街の人々の命を護っているのである。

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