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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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子供の国

軽く荷物をまとめて出発の準備が終わる。

「さて、こんなもんか。」

キッチンからカイの声がした。

「カイさん、何してるんですか?」

「お前たちのお弁当。お昼がないとキツいだろ?戦闘になったらプシーに持ってもらえば良いだろう。」

「えぇーありがとうございます!」

「師匠みたいに上手くはないけど、ゆっくり食べてくれよ。」

「はい!」

5つ弁当箱の入った袋を受け取ると、カレットは外に出た。

「カレット!遅いぞ!」

「アイちゃん、ごめんごめん!カイさんがお弁当をくれたんだ。お昼にみんなで食べよう!」

「本当に?嬉しいなぁ!」

ね、みんなと言うようにクセロが直視(なおみ)たちを見た。直視は相変わらずオドオドしているように見えるが、対してつゆは笑顔だ。アイはつゆが腕に抱きついているため大袈裟に喜ぶことはしなかったようだ。

「アイちゃんもお兄ちゃんだねぇ。」

「当然だ。つゆは俺が責任持って守るよ。」

「うんうん、頼もしい。」

クセロがアイとつゆの頭を撫でるのを見てから、カレットは歩き始めた。



3時間ほど歩いた頃、とても甘い匂いがカレットたちの鼻をくすぐった。どういうことだろうと思い、カレットが辺りを見回すと、かなり先に家が見えた。

「みんな、あの家でちょっと休ませてもらおう!甘い匂いがするし、きっと優しい人だよ。」

適当な予測の元、その家に向かうことにした。


「おお、ニューかと思ったら子供たちだったか。何か用かな?」

「イオタさんの家に戻る途中なんですけど、少しだけ休んでいって良いですか?」

カレットがパイに聞くと、パイは少し考え込んだ。

「うーん。それならお菓子を出してあげたいけど、これからきっとニューが来るしなぁ。新しく作れば大丈夫かな?」

その話を聞いてカレットはお菓子を断ろうかと思ったが、どうもつゆが食べたそうにしている。5歳なのに頑張って歩いたんだから、きっとお腹も空いているだろう。

「…パイさん、ここでお昼ご飯を食べてもいいですか?あと、つゆちゃんにだけ1つお菓子を分けてあげてくださると嬉しいです。」

「あぁ良いよ。本当に他の子は要らないのかい?それなら助かるのだけど。」

「えぇ、大丈夫です。」

「ニューも大人なんだから我慢してくれれば良いんだけどねぇ…。つゆちゃんはウプシロンさんのお菓子を食べたことある?」

その問いにつゆは首を横に振って答えた。

「それは都合がいいや。あの人は料理だけじゃなくてお菓子作りも上手だからハードルが上がらなくて済むよ。」

パイはへらへらと笑うとリビングに来るように手招きをした。それに従ってついていく。


カイに貰ったお弁当を食べながらクセロはパイに話しかけた。

「パイさんと言い、ウプシロンさんたちと言い、皆さん優しいですよね。優しい大人って良いですね。」

その話を聞いたパイは困ったように笑った。

「ボクとニューが来たのは24を過ぎてからだったけど、今の代はほとんど君たちのような子供の頃にここに来てるんだよ。だから、子供が子供同士で大人になっていったり、少しだけ大人に触れた子供が大人になっていったりなのさ。だから…ここには完璧な大人はいないんだよ。」

「…みんな子供だから優しい、ということですか?」

「…かもなーって程度の話だよ。ボクの予測。でも、真実には近いんじゃないかな。」

「そうですか…。」

「それが不幸かと言われたらそうでもないからね。優しいならそれでいいじゃない。」

「まぁそうですけど…。」


パイは温かいお茶を飲むと、一息ついた。

「この荒野は内側の栽の都から隔絶された世界だ。そしてここら一帯のアドベント地方は海の国や日の国というような呼び名がある。だからそれに則ってこの荒野に名前をつけるなら、ボクは『子供の国』と呼ぶよ。」

「子供の国…。」

「先祖代々、子を閏に供えてきたようなもんだから。結構しっくりくるでしょう?」

「そうですね。」


空になっていく弁当を見守って、パイは微笑んでいた。

「お弁当箱は置いていきなよ。ボクがカイに返しておこう。」

「良いんですか!?ありがとうございます!!」

カレットは目を輝かせて喜んだ。弁当箱は案外荷物になってしまうため、嬉しくないはずがないのだ。

「食べ終わったなら早く出た方がいいよ。日が落ちたら風邪ひいちゃうからね。」

「はい!」

「つゆちゃん、お菓子美味しかった?」

「うん!ありがと!」

「どういたしまして。」


カレットたちはパイに別れを告げるとまた歩き始めた。つゆは眠くなってしまったのか、瞼が重そうだったため、アイが背負って歩くことになった。つゆが怯えるといけないからと、眠ってしまうまでは普段の姿で背負っていたが、寝落ちてからは閏の頃と同じのビースト状態で背負うことにした。

イオタの家までの道中、2つほど家があったが、ちょうど留守にしていた。




「…おかえり。待ってたぞ。」

ドアを開くと、1年ぶりに見るイオタの姿があった。思わずカレットとアイはイオタに抱きついた。その衝撃でイオタはよろめいたが、なんとか支えることが出来た。

「クセロ、プシー、ミューもよく来れたな。閏には会わなかったんだな。」

「はい。運良くなんの危険もなくここまで来れました!」

「それなら良かった。」

「イオタさぁん!なんで1年も俺たちを放っておいたんですかぁ!寂しかったんですよ!!」

「それはすまないと思っている。でも、やっと落ち着いたからもう大丈夫なはずだ。」

「…でも無理はすんなよ?」

「…ありがとうな、アイちゃん。」

「お前はよく無理をするからさ。」

「まぁ気をつけるよ。そうだ、夕飯はできてるからみんなで食べよう。」


夕飯にありつきながらカレットたちはパイの話をした。

「『子供の国』…確かに言えてるな。嫌味も効いていて俺は好きだな。」

「子供からしてみるとちょっと怖い話ですけどね。」

「そうだろうなぁ。」

少し微笑むとイオタは何か考え込んでしまった。

「子供の国かぁ…。」

その視線の先には何があるでもない。だが、イオタには確かにかつての仲間たちの顔が見えていた。

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