新メンバー
新しいミューこと雨宮つゆはまだ5歳である。まだ会って日の浅いプシーから離れようとしない。
対してプシーこと猪部直視は11歳である。しかし、よく見るとつゆよりも怯えているように見える。
呆れたカイが話しかけた。
「なぁ、プシー…どうしたんだ?ミューよりも脅えてどうするんだ?お兄ちゃんだろ?」
「お兄ちゃんって関係あります?無いですよね?ね?」
ラムダも加勢する。
「関係ないけど、ミューが余計怯えるかもしれないだろ?」
「…何も知らないでよくそんなこと言えますよね…。あなた方、見たことあるんですか?この辺りもどこもそこも幽霊だらけなんですよ?」
「お前、幽霊が見えるのか?」
「そうですよ。街中ならチラホラっていう程度だったのに、ここにはありえない人数がいるんです!しかもすれ違う全員がオレを哀れむような目で見てくる…。これで怯えなきゃ無神経すぎますよ!」
「幽霊か…。」
「だからここに来てからずっと怯えてたのか。なんにも知らないのにゴメンな。」
カイが直視の頭を撫でると、直視の顔が赤くなった。
「やめてくださいよ、恥ずかしい…。」
「カレットから聞いたんだよ。幾つになっても頭を撫でてもらうと嬉しいもんだってさ。」
「…。」
直視は黙り込んだ。
「あぁ、カレットっていうのはこの後お前たちを迎えに来てくれる先輩だよ。同い歳くらいだし、いい友達になれるさ。」
「おともだち…?」
興味を持ったのはつゆだった。ラムダが会話を繋ごうと試みる。
「ミュー、お友達がほしいのか?ここなら沢山お友達ができるぞ。でも、沢山辛いこともあるから…その…。」
こんな幼い子に友達、もしくは自分が死んでいくなんて言えるものか。ラムダは思わず視線を逸らした。
「あたしがまんできるよ。おともだちができないほうがいや。」
「…そうかそうか。沢山お友達ができるといいな。そうだ、カレットと一緒にアイちゃんって子も来るんだ。見た目は一番近いし、仲良くできるかもな。」
「アイちゃん…?おんなのこ?」
「違うよ。猫族の男の子かな。とても不思議な奴で、すごく物知りなんだよ。」
「へぇぇ…!」
つゆはキラキラと目を輝かせた。
それからしばらくしてカレットたちがようやくたどり着いた。
「…カイさん、ラムダさん…こんにちは…。」
カレットもアイもゼイゼイと息切れしている。クセロは少し後ろをついてきて平気そうな顔をしていた。
「急に競走とか言って馬鹿みたいに走るからだよ。」
「うるせぇ、馬鹿って言うな!」
その様子を見ていたつゆがクイクイとラムダの手を引っ張った。
「ん?」
ラムダが目線を合わせて聞く。
「あれがアイちゃん?」
「そうそう。あの薄紫の髪の子がアイちゃんだよ。」
「へぇ…わかった!」
とてとてとアイに近づいていく。
「おわ!なんか小さい子がいる!」
「えと、こんにちは!あめみやつゆです!」
その声を聞いてカイはクスクスと笑った。
「ありゃあ…もう名前言っちゃったね。」
つゆはハッとしてあわあわと訂正しようとした。
「あの、えと、みゅ、ミューです!」
「そっかそっか、ミューなんだね。でももうせっかくだしつゆちゃんで良いかな?可愛い名前だね。」
少し背の伸びたアイはつゆの頭を撫でた。
「ほら、プシーもおいで。」
「…はい。」
できれば玄関に近づきたくないらしい。が、背中を押してやるしかない。
「…プシーです。よろしくお願いします。」
カレットは嬉しそうにニッコリと笑った。
「俺はカレット!歳も近いし敬語じゃなくていいよ。な、クセロ。」
「うんうん。よろしくね!」
「え、あ…よろしく…。」
カレットたちはプシーの手を取るとしっかりと握手をした。
「じゃあ、イオタさんの家まで行こう!」
カレットは早速というように張り切った。
「待て待て、直に日が沈むから今日は泊まっていけ。子供5人くらいなら…。」
「カイと俺の家に分けるか。俺の家の方が狭いから、俺の家に2人来い。」
ラムダがそう言うと、つゆはすぐにアイにしがみついた。
「あたしアイちゃんといっしょがいい!」
「えっ、俺?」
「うん!」
アイは時折自分が今見た目は6歳くらいであることを忘れる。だからつい異常に驚いてしまった。
「いっしょじゃいや?」
それゆえに無駄な心配をさせてしまうのだった。
「いや、いやいや、そうじゃないよ!俺なんかで良いのかなぁ〜ってびっくりしちゃった。」
「アイちゃんがいいの!」
その様子を見ていたラムダがニッコリと微笑んだ。
「じゃあ決まりだな。俺はこの2人を預かるから少年共は3人で親睦を深めとけ。」
「だってさ。仲良くしようぜ、プシー!」
「うん…!」
風呂も食事も終え、カレットたちは明日に備えて早めに寝ることにした。
ベッドはキングサイズが1つ。案外収まるものだ。
「なぁ、プシーはなんて名前なんだ?」
「え、オレ?…言っちゃダメだって言われてるから…。」
「大丈夫だよ。僕とカレットも本名だし、王子がその制度を変えていってるらしいから。」
「それに、俺たちがこの戦いを終わらせるんだ。な、クセロ。」
「そうそう。だから大丈夫なんだ。」
それを聞いて少し安心したのか、ほっとひと息ついて
「俺の名前は猪部直視だ。」
と言った。
「直視と書いてなおみ。面白い名前だろう。」
「かっこいいなぁ!やっぱり日の国の言葉は良いなぁ。」
「その名前ならどんな力が使えるかなぁ。」
「幽霊が見える。」
「本当に!?」
クセロはワクワクした表情で直視を見た。しかし、直視は暗い表情をしていた。
「…見えすぎるんだ。あのイオタって人とか…、すごい数の幽霊が背後にいたよ。何したんだろあの人…。」
「イオタさんに…?」
直視は毛布を被った。
「…もう寝よう。あまり思い出したくないんだよ、怖いから。」
「…だな。明日は頑張ろう。」
「うん。おやすみ。」
3人で黙り込むと、ものの10分もしないうちに全員が眠ってしまった。
日が差した。朝が来たらしい。久々にレイラの夢を見た。気持ちの良い朝とは言えない。
起き上がってベッドを整え、朝ごはんを作る。
味気ない。つまらない朝だ。
きっとカレットたちは今日戻ってくる。だからつまらない朝も今日までだろう。
カレットたちはこんな俺を許してくれるだろうか。情けない大人で申し訳ない。
はねた髪を整え、いつものオールバックにする。コンタクトを着けて顔を洗う。
さっさと着替えて、外に出た。
ザリザリとあの音がする。
刀を構えて待ち受ける。
閏は全員殺す。
みんなとの約束だから、そうするまでだ。