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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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光の王子

王子は困り果てていた。現王である父の暴君ぶりに呆れ始めている。

「あの税金泥棒共はまだ閏の出処を掴んでないのか?もう500年であろう?使えないやつらよの。」

うるせぇ。なんも知らないくせに。

「お言葉ですが父上、貴方が一体彼らの何を知っているというのですか?」

「何にも知らん。税金泥棒だということ以外はな。なぜ私たちが奴らの支援などをせねばならんのだ。全くもって無駄であろう。」

「…貴方と話す時間はとても無駄だ。私は彼らとの会議に向かいますからね。夕飯はいりません。」

「それならさっさと行ってくるがいい。王族らしい態度を忘れるでないぞ。」

うるせぇな。アンタの言う王族らしさなんざただの暴君であることじゃないか。それを阿呆と言うのに。

王子は不機嫌が顔に出ないうちに王の部屋を出た。いつかあの首を獲る。そして自分で良い国を作る。彼らの復権は僕の手にかかっている。


王子の名はポースといった。貴重な二十四言狼の理解者である。またはファンである。特にお気に入りはイオタだった。でも全員好きだった。

だから、数ヶ月前に二十四言狼の一人であるシータの少女が閏に殺された時はショックだった。しかしポースには落ち込む暇は無かった。より落ち込んでいるイータとローを救いたかったからだ。

これが救いになるかはわからないが、今日は新しいシータを彼らの元に連れていく。準備は出来ているだろうか。心の準備は難しいだろうな。なぜなら死にに行くことと変わりないのだから。

「お前が新しいシータだな。」

うさぎの耳が生えた種族の少女。11歳と聞いている。緊張してるのか、耳が垂れている。

「お前を心配して言ってる訳では無いが、いくら大変な目にあったとしても困ることは無い。別にお前に期待など…」

シータは余計怯えたような表情をした。

悪い癖だ。『王様らしい喋り方』などという教育を受けたせいで素直に喋ることが難しい。現役の二十四言狼は理解してくれているが、初見の彼女がわかるわけないじゃないか。

「…違う。心配しなくても、先輩たちが君を助けてくれるから大丈夫だと、言いたかったんだ…。」

「…そうなんですね。」

「さぁ行こうか。」

自己紹介をしながら、ポースはシータの手を引いて歩いた。

「王子様、その箱はなんなのですか?」

「あぁ、これは玉手箱っていってね…」


「サンピてめぇこの野郎!」

イプシロンの家でカレットは怒っていた。と同時に安心していた。

「生きてて良かったよ本当にっ!!1発叩かせろ!!」

「ごめんってばカレット!」

対してサンピも嬉しそうな顔をしていた。

「しかし、イプシロンの従兄弟が来るべき時より早く来てしまうとはねぇ。しかもカレットって子も連れてさ。」

「責めてやるなよカッパ。お前だって今日俺の傍にいてくれなかったからまともに戦えなかったんだぞ。」

「それはすまないと思ってるよイオタ。でも仕方ないんだよ。今日も起きれなかったんだから。」

「は?お前起きてただろ?雑魚くんの前に来た閏を撃退してたじゃないか。」

「うん…?」

よくわからない話が聞こえてきたが、カレットは無視してサンピの頬をつねる。

「いやぁ、お前が見つかったから安心して帰れる…。帰り方探さないと…。」

「あの、そのことなんだけどさぁ…」


カレットはサンピから今後どうなってしまうのかを聞いた。要は、二度と帰れないということを。

「…なんで俺をここに連れてきたんだよ。」

「カレットの力が必要だったんだ…。」

「俺の力?俺はなんにも持ってないぞ?!」

「持ってるんだよ!今僕に必要な力をさ!君は文字が掘れる!だから…」

ふと、カレットは何かを察した。戦いを強いられる集団、文字を掘る技術。

「墓作りか?」

サンピは無言で頷いた。

「いや、お墓なんて…生きている人に覚えていて貰えばただの石でも十分意味を果たすだろ?なのにどうして…。」

「僕達、二十四言狼の道を通る人は実名を残せないんだよ。本当は名前を教えることもルール違反だ。でも、王子様がそのルールを多少壊してくれた。死んだ後なら、名が知れても問題ない。これ以上罰を受ける方法は無いからね。そして非隊員の君ならみんなの名前を聞いて回れるだろう?…これが今の君の力だよ。僕だけじゃない、名前を残せないことはみんなのコンプレックスなんだ。」

それは必死の訴えだった。カレットがたじろぐ。確かにイオタやイプシロンと言えばとある文字の名前だ。コードネームだったってことか。

「サンピ、大丈夫だ。…よくわかったから。そりゃあ帰りたいけど、俺が何か役に立つなら…。」

「正直に言うよ、僕の名前はサンピじゃないんだ。」

「は?」

「お父さんやお母さんに貰った名前はちゃんとある。でも名乗れない。実名を残せないって、こういうことなんだ。」

カレットはどうも急に悲しくなった。こんな人たちが頑張っているのを他所に、国家公認ニートだのとのたまってのうのうと生きてきたなんて。

「良いじゃないか、名前くらい…。」

「二十四言狼にとって名前、『言霊』は最もたる武器だ。メインウェポンを簡単に知られたら困るだろう?このルールはそこから来てるんだ。」

「…なるほどな。」


カレットが落ち込んでいると、横から一輪の花を差し出された。驚いて差し出した人の顔を見た。

「どうも〜ゼータちゃんですよぉ。今日は宴会ですしぃ、楽しんでくれると嬉しいなぁ。ねっ?」

ホンワカした表情の女性だ。アホ毛でかいなこの人。

「え、あ、ありがとうございます…。」

花を受け取ると、花がパチパチと火花を散らした。

「うぉあ!?」

「驚きましたぁ?そのお花は私の最新作なんですよぉ〜。ヒバナちゃんって呼んでるんですよぉ〜。」

「…すごいですね。」

「ありがとねぇ〜。」

そう言うとトテトテとカタコト喋りの男の方へ戻っていった。

「カレット、その程度で済んで良かったぞ…。私なんて頭に噛み付くタイプの花を仕掛けられたんだぞ…。」

青ざめた表情で肩を叩いてきたのは、先程雑魚くんの首をはねた男性だ。

「アルファの時は酷かったよなぁ!」

全員が大声で笑う。

「いや、本当に酷かったぞアレは。なんならちょっと咀嚼までされたからな?」

「…大変でしたね。」

「大変だったぞ…。」

アルファは背が小さい。だからどうしても気になることがあった。

「帽子に眼帯って、隠したいこと多すぎません?」

「眼帯は怪我したから仕方ない。あと、帽子ももちろん仕方ないことだから聞かないでほしいのだぞ。」

「はぇー。じゃあ後ろ気をつけてくださいね。」

「は?」

アルファに対して背の高い男がアルファの背後に立つ。にっこり笑うとアルファの帽子をヒョイっと持ち上げた。帽子の中からネズミのような耳が出てきた。

「ガンマ貴様ァァ!!」

「あっはっは。こっちの方が似合ってるよネズミくん。」

「なんだとてめぇゴラァ!!」

カレットがまじまじと見るとアルファは顔を赤くした。

「可愛いですね。」

「嬉しいわけねぇぞ、そんな言葉!」

カレットは殴れないのでガンマを殴ろうとするが、簡単に抑えられてリーチの差で拳は届かない。とりあえず、カレットは距離を置くことにした。



キィッと音がしてドアが開いた。その場にいる全員が目を向けた。

「すまない、遅くなった。」

「王子ぃ!!」

カレットはキョロキョロと辺りを見回す。見る人見る人全員嬉しそうな顔をしている。とりあえず手頃な位置にいたイオタに尋ねた。

「王子とは?」

「俺たちの支援者だ。とても良い人だからあとで挨拶をするといい。」

「わかりました。」

王子と呼ばれる少年は水色の髪をしたいわゆるイケメンという奴。そばかすだらけのカレットとは大違いだ。

「近況はどうだ?あれから誰一人欠けてないとは残念でならんと王は言っていたぞ。なんの面白みもないとのことだ。俺も腹立たしく思うぞ。なんでなんの変化もないのか。」

(え?なんか腹立つ喋り方してません?)

(王子は結構優柔不断だから、王様の意見を伝えるべきか伝えないべきか考えすぎて自分の言いたいこととごっちゃになってるんだ。いつものことだ。)

カレットがコソコソとイオタと話していると、王子の後ろから少女が現れた。

「王子様、落ち着いてください!」

「あぁ、ごめん…。…ホントにダメだなぁ…。」

「大丈夫ですよ!さっき私に話していたように…」

「よし…、俺はみんながちゃんと生きていてくれて嬉しく思う。あれからというもの辛かっただろうに、よく頑張ってくれた。」

全員の顔が綻ぶ。本当に王子を愛しているのだ。

「そして今日は新しいシータとして彼女を紹介したい。ハキハキとした良い子だ。」

「皆さん初めまして!新しいシータです!よろしくお願いします!!」

うさぎの耳の生えたショートボブの少女。

「わからないことはこの先輩たちに聞くこと。先輩諸君は彼女の質問にはなるだけ答えてあげること。よろしく頼んだ。」

「はい!」と全員が答えた。

「さて、それじゃあ宴の時間といこうか。今日はイプシロンの料理を久々に食べられるから楽しみにしていたんだ。次やる時はウプシロンの料理が食べたいな。」

「お任せ下さい。」

部屋の奥から低い声が聞こえた。カタコトの人のそばに居る男性がウプシロンらしい。顔の…ヒビ?が特徴的で覚えやすそうなおじさんだ。

「ああ、いけないいけない。朗報を持ってきたのを忘れてたよ。」

笑顔で王子は語る。

「隣の海の国で蓬莱藥の解毒剤が開発されたんだ。君たちの言う雑魚くんは半閏(はんうるう)という部類らしいね。彼みたいな半閏を人間に戻す効果が期待されるらしい。しかし彼より強い一般閏は解毒剤で死んでしまうそうだ。だが、閏は基本的に人間としての理性は無いし、遠慮なく殺していいらしい。現在解毒剤を武器に練り込む技術を開発している。今回は錠剤タイプを預かってきたよ。雑魚くんに飲ませてあげたらどうだい?」

雑魚くんは本当に弱いらしいな。そんな雑魚くんにビビってたのだから、この先生き残れるか心配になる。カレットは溜息を吐いた。

「大丈夫だ。少しずつ強くなればいい。」

「イオタさん…。」

イオタの優しさが身に染みる。

話が終わったらしく、全員が好き勝手に移動し始めた。

「行くぞ。」

イオタに手を引かれ王子の前へ。はっとこっちを見た王子はとても驚いた顔をした。

「初めまして、カレットといいます。」

「…初めまして。一体どうことなんだい?君は一般人だろう?」

「実は…」

事の顛末を王子に説明した。

「…ふぅむ。なんだか興味深い話だね。」

「本当に、二度と帰れないんですよね…?」

「そうだね。さて、どうしたものか…。よかったらフルネームを教えておくれよ。名前にちなんだ武器を考えてみよう。」

「本当ですか!カレット・ヘブンズドアといいます!」

「ヘブンズドア…!?」

王子はまた驚いた顔をした。

「あの…何か…?」

「い、いや、少し調べ物をしてからその辺については言及させてもらうよ。どこかでそんな名前を聞いた気がするんだ。」

「ぜひ聞きたいです!」

「それではまた今度生きて会おう。」

そう言うと王子は手を振って離れていった。



宴会が終わり、後片付けをする。イプシロンは余韻に浸りながらゆっくりと作業をしていた。

「イプシロンさん、お皿に油汚れが残ってますよ。」

「あぁ、ありがとうなシータ。」

「私が洗っておきますね。」

カレットはイオタの家、そしてサンピとシータはイプシロンの家で世話になることになった。カレットはイオタについて行きたがったし、サンピとは従兄弟だから自然なことであるが、シータがイプシロンの元にいる理由はない。ただ、誰も受け入れができる状態ではなかったのだ。先代シータと仲の良かった2人、イータとローは一番早く断った。まだ彼女を受け入れられなかったのだろう。他のメンバーもどうか尋ねてみたが、既に2人で住んでいたり、部屋を絶対に見られたくなかったり、余裕が無かったり。だから世話好きなイプシロンが預かることにした。

── 近いうちに死ぬこともわかっていたからであるが。

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