懺悔
サンピは1人で歩いていた。向かうはカレットのいる場所。きっとイオタのところに行けば一緒にいるだろう。
そう思っていたのに、
「イオタさん…カレットは?」
「今はアイちゃんと一緒にウプシロンとオメガのところにいる。何か連絡でもあるのか?」
サンピは黙り込んだ。
「どうした?何か言い難いことなのか?」
「とても言い難いですね…。」
「…大丈夫だ。言ってみろ。」
「…あの、…あのっ…!!」
サンピが告げたのはミューとプシーの訃報だった。イオタは驚いて目を丸くした。
「運命を変える力が足りませんでした…。僕が止めなくちゃと息巻いて、二人のもとを訪れたのに、…ただ、二人の最期を見に行っただけでした…。」
「…遺体は?」
「彼らの家の近くに埋めました。カレットに墓石を掘ってもらおうと思って…。」
「そうか…。」
「僕、カレットの所に行ってきますね。」
「…わかった。」
イオタはサンピの落ち込んだ背中を見送って部屋に戻ると、蹲って泣いた。
「サンピ!どうしたんだ?」
ウプシロンと水銀刀の特訓をしていたカレットがオメガに呼び出されて家に戻ってきた。
「…カレット、ごめん。」
「どうしたんだよ。落ち着いて喋ってみろよ。」
「僕は弱かった。目の前でミューさんと、プシーさんを殺された…。」
カレットは驚いた。が、落ち着いて話に戻った。
「…そんな中よく帰ってきたな。生きていてくれて嬉しいよ…。」
「ありがとう…。」
「墓石を掘ろう。2人の名前を教えてほしい。」
「雨宮 大樹さんと、猪部 進之介さん。」
「ありがとう。なぁ、サンピ。きっとお前のことだから2人の死の予言を一人で抱え込んでしまったんだろ?次は俺にも相談してくれよ。2人だったら運命を変えられるかもしれない。」
「頼れる大人たちモいるからネ。」
「子供だけで抱え込まなくていいぞ。」
オメガがやさしくサンピの頭を撫でた。その様子を見ていたカレットの頭をウプシロンは撫でた。
「本当にキミたちはヨク頑張ってるヨ。おかげで僕達にも希望が見えてきたヨ。ありがとう。」
その言葉を聞いて、サンピは泣いてしまった。
「サンピと一緒なら安心だなぁ。」
「そうか?こいつまだ弱いんだろ?」
「アイちゃんも弱いだろ。」
寝室の広いベッドに3人で寝ることにした。会話が弾んでなかなか眠れない。
「なぁサンピ、雨宮さんと猪部さんはどんな人だった?」
「2人とも優しかったよ。僕が来たことで全てを察してくれたけど、僕を遠ざけたり、受け付けなかったりなんてことは無かった。…僕さえいなければ彼らは死ななかったかもしれない…。」
「それはどうしてそう思うんだ?」
「2人とも僕を守るために死んだ。僕がいたから死んだんだ。」
カレットは何も言えなかった。その代わりアイがそれを否定する。
「サンピ、それは違うだろ。お前は予言を見たから2人の元へ行ったんだろ?じゃあどうしたって2人が死ぬことに変わりはない。お前は2人を看取ったんだろ。誰にも知られず死んでいく方が怖いんだよ。だって二十四言狼はみんな自分の名前がどこにも残らないことが最も怖いことだったんだから。」
「そっか、アイちゃんは昔から二十四言狼を見てきてるんだもんね。僕よりも詳しいか。」
「だからサンピ、お前も早く俺たちに名前を教えろよ。友達だから大丈夫だろ。」
「アイちゃん…。」
サンピは何か覚悟するような顔をするととうとう本名を教えてくれた。
「僕の本当の名前はクセロ・ヘルゲート。カレット、今まで隠しててゴメンな。」
「そういう決まりなんだから仕方ねぇよ。改めてよろしくな、クセロ。」
「うん。…うん。」
「寝たか。」
深夜、イオタがウプシロンたちの家を訪れた。カレットたちの寝顔を見るとその表情は少しだけ和らいだ。
「イオタ、早く連れて帰ってやれよ。カレットもアイちゃんもお前のこと待ってるぞ。」
「…いや、まだ無理だ。」
「ネェ、イオタ。僕達キミがどんな存在なのか、もうわかってるカラさ、隠さなくていいヨ。」
「そうだ。お前が不老不死なんじゃないかって話もしたぞ。だから…」
「それをお前らが言うか。」
ウプシロンとオメガはギクリと表情を歪める。
「俺はお前たち2人の因縁も知っている。それは確かに隠したくなるような事実だ。しかし、俺の抱えた秘密もそう簡単に言えることじゃない。だから俺はまだ連れて帰る気は無い。」
驚く程に淡々と語るイオタ。
「お前たちの憧れたお兄さんを舐めるんじゃない。」
外套を翻し、イオタは帰路に着こうとする。
「イオタ!」
オメガが呼び止めた。振り返ったイオタの冷たい視線が刺さりそうになる中、こう言った。
「それでも、僕達はイオタのコト大好きだからネ。」
イオタは目を丸くした。そしてまた俯き、吐き捨てるように「クソガキが」と呟くと、消えるような速さで帰っていった。
「イオタ、荒れてるネ。」
「何かあったのかもな。」
「ミューとプシーのことカモ。」
「誰か死ぬ度に体調崩すもんな。」
「ソレくらいみんなのコトが好きなんダろうネ。」
「あの人は優しいから。」
「ソウソウ。」
違う、違う違う。何が憧れたお兄さんだ。あんなに冷たい態度をとって?全く優しくもないのに?自分が言ったことだが、ふざけるのも大概にしろという話だ。
わかってる、わかってるから。全部俺が悪い。俺が弱いから。俺がダメだから。何も好転しない。
目的もなく生きるのは辛い?あぁそうだな。でも叶いもしないことならば目的があっても生きるのは辛いんだ。
あの子たちは強い。
みんな強い。
俺だけが弱い。
二度とみんなを悲しませたくないのに。
絶望なんかさせたくないのに。
なぁ、レイラ。レイラ・ヘルゲート。いつまで頑張れば俺は許されるだろうか。君によく似た真っ白な彼も失ってしまった。
あぁ、怖い。また1人になったらどうしようか。
そもそも俺は許されたいのだろうか。
元々の罪はなんだったというのだ。
俺はただ生まれただけだったはずだ。