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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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イオタの情け

「え、あの、イオタさん、なんて言いました?」

「ここから40キロ程歩く。まぁ8時間くらいだな。」

「何ノンストップで行こうとしてるんですか!?無理ですよ!」

「そ、そうか…?」

オメガとウプシロンから電報を受けたカレットたちは早速2人のもとへ向かうことにした。しかしあまりにも遠いからとカレットは時間配分に文句を言う。

「うーん、それならその途中にあるアルファたちの家に少しお世話になるか。アルファやガンマあたりはすぐ近くに住んでいるらしい。お隣さんかもな。」

「で、そこまでは何キロですか?」

「25キロ。」

カレットは大きなため息をついた。



仁にしばしの別れを告げて歩いていく。

「カレット、水銀刀は上手く使えそうか?」

「いやぁ、昨日開いてみたんですけど、ただのちゃぽちゃぽ音のする液体にしか見えないんですよねぇ。これから練習ですね。」

「そうかそうか。」

アイがカレットの背中を叩いた。

「カレット、俺が手伝ってやるからカレットも俺の特訓に付き合えよ!」

「よっし、じゃあアルファさんのとこで休んでる間に少し練習しよう。」




「で、ここに来たと。ここは宿屋やホテルじゃないんだぞ。」

アルファは不機嫌そうな顔をしていた。

「まぁまぁ、そう言わずに。」

「まったく、遠慮ってものを知らないのは困るんだぞ。」

とかなんとか言って、お茶を出す。アルファとはそういう男だ。


「そういえば、カレットはガラス屑を出せたりしないのか?」

イオタが突然聞いてきた。

「あー、あのなかなか難しいやつですよね…。まだいまいちできないんですよ。」

話を聞いていたアルファが割って入る。

「そういえば、シグマに聞いたんだが石英ガラスというものもあるらしいぞ。要は水晶のガラスだぞ。とても頑丈で弾丸にはいいかもしれないぞ。」

「石英ガラス…。」

カレットはシグマに見せてもらった砕けた水晶を思い出した。

「何か呪文…条件を決めるといいぞ。」

「それはわかってるんですけどねぇ。」

「例えばイオタはどんな言葉を使ってるんだぞ?」

「俺?」

「イオタが呪文を使って戦ってるところ、あんまり見た事ないぞ。実際のところどうなんだぞ?」

「別に俺は呪文は使わないんだよ。刀を使う技術があればなんとでもなる。」

「はー、やっぱり強者の言うことは違うんだぞ。」

「そういうわけじゃないが…」

イオタが困った顔をした。


「どんな呪文にしましょうか。結構迷いますね。」

「シグマやタウのはかっこいいよなぁ。『砕星術(さいせいじゅつ)』、『鳥言葉』…なんか羨ましいぞ。」

「ですねぇ。俺が受け継いでるものといえば…」

「石彫り、ヘブンズドア、色々あるじゃないか。」

「あとは…『静深(しずみ)童唄(わらべうた)』ですかね。」

イオタが妙に驚いた。

「ん?どうしましたか、イオタさん?」

「いや、古い流行り歌だったから、知ってる奴がいるんだなーと驚いて。」

「何言ってんですか〜。イオタさんと俺なんて10と少ししか歳離れてないでしょう?」

「そ、そうだな。」

イオタはうんうんと頷いた。


扉透天(ひとうてん)鉄砲雨(てっぽうあめ)。」

「お、なんかいい感じの言葉が出たぞ。」

「カレット、ひとーてんってなんだ?」

「静深の童唄に出てくる歌の名前だよ。」

「へぇー。」


「天の扉は透明の扉。ただ生きるだけでは見られない。扉の先には神がいる。万事を見守る神がいる。罰する神は石を降らす。石英か金剛か、どちらだろうと降り注ぐ。神の罰を引き継ぐ者よ、時を経れども罰を下せ。

ヘブンズドアって名前の由来になった唄だって父さんが言ってたよ。」

「なんか壮大な歌だな。ね、イオタ。」

「そうだな。……。」



物は試しというわけで、実際に練習してみることにした。目標は膝くらいの高さの小さな岩。

シグマの水晶をイメージする。どうにかできそうだ。


「扉透天 鉄砲雨、誤差5ミリ!!」

カレットの頭上に四角の陣が開いた。そしてそこから大量の石英ガラスが現れ、岩に向かって飛んでいった。

「うぉ、おぉ…?」

すごすぎて訳が分からない。やがて岩は削れきった。

「すごいじゃないかカレット!!」

「静深の童唄…もっと調べて見た方が良いかもしれないな。」

イオタがポツリと呟いた。

アイは首を傾げた。




ザリッ…


閏は突然現れる。音が聞こえた瞬間、アルファとイオタが警戒態勢に入った。

「閏だ!気をつけろ!」

「カレットの力を試すにはちょうどいい!ちょっと頑張ってみろ!」

「は、はい!!」

現れたのはカレットより少し大きいくらいの閏。辺りをキョロキョロと見回す。

「扉透天 鉄砲雨、誤差2mm。」

術を展開して閏に当ててみた。腕でいくつか防いだが、その頑張りも虚しく閏の両腕は無くなった。


妙に心が痛かった。もしかしたら、無害な閏だったのかもしれない。痛そうに転げ回る姿が悲しかった。


「可哀想なら早くトドメを刺せ。」

見かねたイオタが容赦なく首を()ねた。

「イオタさん!も、もし人間に戻れる人だったらどうするんですか!!」

「言葉を話せないほど理性の無い奴は生かしていても可哀想だ。」

「でも、だからって殺すのは…」

「その倫理観で救えるのは誰だ?まさか自分とは言わないよな。」

カレットは黙ってしまった。

「アダムに聞いたんだ。言葉の話せない一般閏は基本的に人肉を食っている。極秘の取引ルートがあるらしい。とにかく、救う余地はない。」

「意外とあっさりしてるんですね。」

「閏は敵だからな。」

「もっと生きたいって思ってたりしないんですかね。」

「500年も生きたんだ。もういいだろう。」

今までになく冷たい声で言い放った。


「イオタ、さすがに極論すぎるぞ。」

アルファが割って入った。

「死にたくないと思う奴は何百年経っても死にはしないぞ。時代に適応して、生きやすいように生きていく。その思いを容赦なく摘むのは少し可哀想だぞ。」

「…可哀想だと言っていれば救われる命も救えないまま、殺すべきは死なないまま。そうなった時責められるのは誰だと思っているんだ。」

「お前は閏なら全員殺すつもりか?」

「…かもな。」


サァァッと風の音だけが響いた。

ここで機転を利かせたのはアイだった。

「でもイオタ、俺には優しかったよな!あの時は身にならなかったけど戦い方も色々教えてくれたし。イオタは良い奴だよ!」

ふふんと笑って話す。

「アイちゃんは、500年経っても生きていたいと思ったか?」

「俺はパパを守りたいから生きたいと思ってたよ。でもなんの目的もなく500年生きろって言われたら、俺は無理だったなぁ。一般閏は理性がないって言うより目的が無いんだよ。だから生きてるだけで虚しいわけ。」

どちらも正しいと、そう言いたいのだろう。


「アイちゃん。」

イオタが手招きした。アイがとてとてと近づくと、イオタはアイと目線を同じ高さにして頭を撫で回した。

「どうしたんだよイオタ。」

アイがいくら聞いても無言のままだった。

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