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言霊円~Border of the mankind~  作者: 羽葉世縋
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グリーンアメシスト

この代で戦いが終わるとすれば、どれだけの人が救われるだろうか。この500年の決着。どれだけの人が待ち望んでいることだろう。サンピの背中を見て、カレットは改めて真剣に考えようとした。

「それはあくまでも予感だろう。強く願いすぎても良い結果を得られるとは思えない。」

王子が冷たい声で言い放った。

「その機会、いつか来る一瞬を見誤らないように、ということですね。」

「そう、それが言いたかったんだ。」

今度は顔を赤くして申し訳なさそうに言った。

「それもそうですね。」


サンピは、イプシロンことケオが殉職してからというもの、一気に大人びた。ちゃんと自分の足で立たなくては。きっとそんなことを思っているのだろう。カレットは置き去りにされていく気がして少し寂しく感じていた。

ふと、王子が何かを思い出すような顔をした。

「そうだ、サンピとカレット、あとアイちゃんにも隊服を作ってきたんだ。後で着てみてくれ。それぞれ数日分はあるから。」

「…ホントか…?」

アイが目をキラキラさせていた。

「おや、そんなに嬉しいのか?ほんの少し前までは閏だったというのに。」

「500年も見てたんだから憧れもするよ。」

ピョコピョコと王子の元に近づいて、隊服を受け取ろうとする。

「まぁ、待ってくれ。このあと出してあげるから。」

「えぇ〜まだかよぉ。」


残念そうな声を上げるアイを見てクスクスと笑い声があがった。

いつものことならアイは頰を膨らませて帰ってくる。カレットはそう思っていた。しかし、アイは王子を見ながら首を傾げたあと、何かを考えるような様子でカレットのもとに戻ってきた。

(カレット、ちょっと聞いてくれ。)

コソコソと話しかけてきた。

(ん?どうした?)

(王子から俺のパパと同じ桃の匂いがしたんだよ…。何でだと思う…?)

(…あとで詳しく話そう。)

しばらく間を置いたあと、アイは何かに気づいたような顔をした。


「今日のところは帰るよ。」

数十分の会話の後、王子はそう言って荷物を漁り始めた。そして、待ちに待った隊服が配られた。

「あぁそうだ、カレット。」

カレットに隊服を渡そうとした時、王子はカレットの目を真っ直ぐ見つめた。

「…ヘブンズドアについてはまだ調べている途中なんだ。経過を待ってくれ。」

「そうですか…。」

カレットは、それが嘘であることを察した。

だからと言って、追求してはならないと何かが言っているような。

だからカレットはへらりと笑っておいた。




「…あら、ギリス様。どちらに向かわれてたのですか?」

閏の国の遊郭街。赤い牢の中から布袋は帝釈天の名を呼んだ。

「アダム、今日もお前の桃の香の匂いが俺に移っていたぞ。」

「あらそうですか。貴方が私に近づくからでございましょう?」

「まぁそれもそうだが。」

牢の外にいたはずのギリスは光に包まれると、一瞬の間に牢の中に移っていた。

「近づきたいのだから仕方ないだろ。」

「貴方が意見してきたというのに…」




隊服に着替え、鏡で確認をし終わった後にカレットとアイは二人だけで4畳半の部屋に入った。

「いや、俺は全部察したね。」

アイは不機嫌そうな表情でそう言った。

「ん?何をさ。」

「お前にはまだ早いよ。」

「俺だってもう少しで11歳だぞ。お前なんて5歳じゃんか。」

「正しくは500と5歳。500年を舐めんなよ。汚ねぇ話も何度でも聞いてきたさ。」

「つまり、アイちゃんが察したのは汚い話だと。」

「…墓穴掘った。」

手で顔を覆った。

「で、何?汚いってどういうことさ。」

「か、金!金の話だ!!」

「…なるほど。」


アイは俯いて少しだけ愚痴をこぼし始めた。

「パパは、何よりお金を稼ぐことが好きなんだ。昔から。ママが死んでからは働きに行く時間が増えた。俺の父さんの代わりは大黒天さんだった。」

「…アイちゃんはお父さんと一緒にいたかったんだな。」

「うん。でも、閏になる時、パパは何かから俺を庇った。だから俺はほかの閏とは少しだけ違うんだよ。…パパが俺を愛してくれてることもわかってるんだ。大黒天さんもそう言ってたし。」

「閏にも種類があったな、そういえば。」

「大黒天さんからな、どうやってパパがお金を稼いでいるのかを聞いたことがあるんだ。その部分はお前には話せない。」

「わかった。話さない方がいいことって訳だもんな。聞かないことにする。」

「そうしてくれ。」


しばらくの沈黙の後、アイは拳を震わせて呟いた。

「…俺は、パパを守れるようになりたい。辛い仕事をしなくてもいいように、俺が守るんだ。」

「…一緒に頑張ろうな。俺も、父さんに育てられたから気持ちはわかるよ。」

カレットは父の背中を思い出した。心配をかけてしまって申し訳ないという気持ちと同時に、ある疑惑が出てきていた。

「俺の父さんは、何者なんだろう…?」

「なにかあったのか?」

「俺この間、ケオさんの墓を作りながら眠ってたろう?あの時、不思議な話だけどケオさんの過去を見てたんだ。その中で、父さんが閏みたいな怪物を殺した跡を見たんだ。」

「カレットのお父さんが…?」

「よく考えてみたら、俺は父さんが彫刻家であることしか知らない。父さんの昔話を聞いたことがないんだ。」

「それを言ったら俺だって、パパがどうやって生きてきたのか知らないよ。だから大丈夫だろ。」

「だといいんだけどな…。」







それは夜の街の中。誰も知らない路地の裏。殺された閏は断末魔を上げる間もなくその飛んだ首をさらにスライスされる。

その場には一人、生きている男。手に持っているのは稲刈り用の鎌である。赤い血を青いハンカチで拭きあげ、元あった場所へ戻す。

今日も防ぐべき事件は防いだ。一つ背伸びをすると男は帰路についた。


月明かりにほのかな緑を湛える艶やかな髪。コードネーム、プラシオライト。


本名、デウス・ヘブンズドア。

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