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第9話 天使ちゃん、蛮族と戦う 前

「何をしているのかね、ティアマト」

「見て分かりませんか?」

「分かるわけないだろう」


 植木鉢に植えられた小麦を前に両手を突き出しているティアマトに、飽きれるようにアダムは言った。

 ティアマトの両手には黄金に輝く魔法陣が展開している。

 

 何か、小麦に対して何らかの処置を施しているということしかアダムには分からない。

 天使の力と悪魔の力は本質的には異なるため、見当がつかない。


「品種改良です」

「品種改良?」

「ええ、乾燥と病気、害虫に強く、そして味も良い小麦を作ろうかと。穀物で成功したら、他の野菜や果物、そして最終的には鶏や羊にも試そうと考えています」


 そう言ってからティアマトは手を離した。

 一先ず、品種改良は終わったようだ。


「思ったよりも力を使いました。やはり生命を弄るのは、かなり力を消耗しますね」


 ティアマトはそんなことを言いながら肩を回してみる。

 別に肩が凝ったからではない。

 ただ、そういう気分だったからだ。


「この小麦から得られる種子は、今までも小麦よりも遥かに優れたものになると思います。私がどこかでミスをしていなかったらの話ですけどね。……本当は収穫倍率もあげたかったのですが、そのためには肥料が必要になりますからね」


 いわゆる【緑の革命】と呼ばれるものの問題点の一つだ。

 一つのイネからより多くの粒が実る品種を開発……したのは良いが、実際にその品種の本領を発揮させるためには大量の化学肥料が必要となる。

 

 当たり前と言えば、当たり前の話だ。

 品種改良は魔法ではない。

 従来よりも多くの粒を付けるということは、従来よりも多くの栄養を必要とするということなのだから。


 生憎、この世界には化学肥料は存在しない。

 まあ、作れないこともないが……今後の発展を考えれば『持続可能な農業』を目指すべきだ。


「それで、何でしょうか? アダム」

「新たな城壁に関する、詳細な計画書だ」


 アダムはそう言って二枚の粘土板をティアマトに渡した。

 一枚目には川と各丘、そして丘を取り囲む城壁に加え、さらにすべての丘を取り囲む城壁が描かれている。

 そして二枚目にはびっしりと、必要な労働者の数や必要な資材などが書かれていた。


 この場合、“新たな城壁”とは全ての丘を取り囲む巨大な城壁のことだ。


 現在、エレク国は中央にある1から4の丘にある首都と、そこから南北西の5から7の丘それぞれにある三つの衛星都市、合計四つの都市から成立している。


 そして“新たな城壁”を作るい計画とは、この四つの都市と平野部にある農地全てを取り囲む長大な、総延長三十キロになる城壁の建造計画である。


 現在はそれぞれ四つの都市を取り囲むように城壁が存在するが、これでは城壁の外に広がる農地を守ることができない。

 

 キエンギ地方では軍隊と軍隊が直接ぶつかるような戦闘よりも、農地を焼き払ったり、勝手に麦を刈り取ったりするような焦土戦の方が多い。


 それを防ぐには農地を含めて、全てを城壁で囲んでしまうのが効果的だ。


「思ったよりも労力が必要ですね。うーん、治水との兼ね合いが難しいですね」


 以前発生した大洪水。

 あのレベルの大洪水に備えるために、現在エレク国は大規模な治水工事、つまり堤防作りに励んでいる。

 二年前から行っている事業だが、まだそれは終わっていない。


 城壁作りも、治水工事も、どちらも片手間ではできないほどの大工事だ。


「まあ、一先ずは地面を掘って、誤魔化しましょう」

「そんなんで良いのかね?」

「ないよりはマシです」


 二人がそんな話をしていると……


「ぶひぃ! た、大変です、ティアマト様!」

「何ですか、ブダン。ぶひぶひ、うるさいですよ」

「ば、蛮族が攻めてきました!」






「被害を報告しなさい」

「はい。焼き払われた畑の面積は……」


 家臣の報告を聞いたティアマトは不愉快そうに眉を潜めた。


 敵が攻めてきたという報告を受けたティアマトはすぐに軍隊に出動命令を出したが、こちらが反撃しようとすると、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。


 結果、蛮族を捕らえることもできず、畑だけを荒らされてしまった。


 それがたった一日ならば良かったが……

 それは連日のように続いた。


 すでに襲撃が始まって一週間。

 少なくない数の麦がダメにされてしまっている。


「馬というのは想像以上に厄介だな」

「全くですね」


 ティアマトたちが蛮族にいいようにやられている理由の一つとして、敵が馬に乗っている遊牧民だからというものがある。

 エレク国は騎兵を全く保有していないので、蛮族の攻撃に対応できないのだ。


「ぶひぃ! ティアマト様!」

「なんですか、ブダン」

「ば、蛮族の使者がティアマト様に謁見を求めています!」






「全く、腹立たしいこと、この上ありませんね!」


 ティアマトは苛立ちを露わにした。

 彼女が苛立っている理由は、少し前に済ませた蛮族の使者との謁見である。


「何が、『攻撃をやめてほしければ、俺の妻になれ』ですか! ロリコンは蜥蜴と豚で十分です!」


 ちなみに他にも『毎年小麦を貢納せよ』『鉄器の作り方を教えろ』などの要求を蛮族の王はしてきた。


「ま、まあ……それだけティアマト様がお美しいということでは?」

「……ふん」


 ニンリルがティアマトを宥めると、ティアマトは小さく鼻を鳴らした。

 少しだけ機嫌が良くなったようだ。


 一方、ロリコントカゲ扱いされたアダムは冷静な口調で言った。


「しかしどうするかね。このままではすべての畑が燃やされてしまうのも時間の問題だ。だがこちらから攻め込もうにも、逃げられてしまうだろう。下手をすれば、包囲されてしまう」


「蛮族は馬を持っていますからね。戦略的にも戦術的にも、こちらよりも機動力が上。どうにもなりません」


 ティアマトはため息をついた。

 しかし敵の要求を呑むわけにもいかない。


「こういう時に、人を攻撃できないというのは厄介だな」

「……まあ厳密にはできないこともないんですけどね」

「そうなのか?」


 アダムが尋ねると、ティアマトは曖昧に頷いた。


「物凄く無理をすれば……まあ、できなくもないです。制限は主に精神的なものですからね。人を直接攻撃するのが“とてつもなく気持ち悪い”だけですね。相手を殺すくらいなら死んだ方がマシだと思うくらいには」


 無論、人を攻撃対象として力を振るった場合はとてつもなく力を消耗する上に、体への負担もとてつもなく大きい。

 だが絶対にできないというわけではないのだ。


「いえ、やっぱりやめましょう。……考えただけで蕁麻疹が出てきました」

 

 ティアマトは両腕を摩りながら言った。

 天使にとって“力で人を直接害する”ことは、アレルギー源や寄生虫塗れ・腐敗した食べ物、場合によっては排泄物や吐瀉物を食べるのと同じだ。


 心理的な抵抗はとてつもなく大きい。

 が、口に入れて咀嚼し、胃に入れることは気合いと覚悟でなんとかなる。


 そのあと、体調がどうなるかは別として。


「ではどうする、ティアマト」

「……このまま攻撃を受け続けたら負けるのは我々。しかしこちらから攻撃を仕掛けても、負けるのは我々。かといって、敵の要求を呑めばいずれエスカレートする……というか、蛮族の妻なんぞになりたくありません」

「ということは……つまり?」

「方法は一つでしょう」


 ティアマトは目を細めた。


「敵に攻撃させる(・・・)。これが唯一の方法です」







「そうか、ティアマト女王は私の求婚を拒絶したか」


 使者からの報告を受けた蛮族の王、トゥクルティはなぜか愉快そうに笑った。

 

「ぐはははは! それでこそ、屈服させがいがあるというものだ」


 トゥクルティがティアマトに出会ったのは今から一年以上も前のこと。

 まだエレク国が出来たばかりの時。

 ティアマトは覚えていないが……その時、トゥクルティは遊牧民の一部族の族長の一族の傍流の傍流という立場に過ぎなかった。


 彼は一族を代表し、エレク国に通商を求めに行ったのだ。

 その時、ティアマトに謁見した。


 トゥクルティはその時のティアマトの言葉を、今でも覚えている。


「はぁ……なんですか? これ。羊毛に、ヤギの毛皮、加えて馬乳酒? よくこんなものを『我が一族が出せる最大級の貢納品です』などと自慢気に出せますね。私には『我々は貧乏な部族です』と言っているようにしか見えませんが。まぁ……良いでしょう。売りたければ好きに売ると良いのでは? こんな商品、どれだけまともに売れるかは見物ですがね。それと、あなた。少し体臭が臭います。まるで下水に堕ちた犬みたいな臭いがしますね。今度、私の前に来るときはまともに体を洗ってから来ることですね」


 トゥクルティはこの時、自分が恋に落ちる音を聞いた。


 それからトゥクルティはどうすればティアマトを自分の物に出来るかを考えた。


 考えた手段が、反乱である。

 彼はまず反乱を起こし、部族長を殺し、自らが部族を支配した。

 そして周囲一帯の遊牧民たちに戦争を仕掛け、彼らを服属させた。


 今では二万を超す蛮族を支配する王だ。 

 この規模はキエンギ地方の都市外に住む遊牧民としては異例の数だ。



「ああ……あの太陽のように輝く金髪、紅玉のように美しい瞳、白く滑らかな肌。そして何より、あの生意気な性格……今からでも、屈服させるのが楽しみだ」


 捕まえたら、舌で自分の体を舐めさせ、綺麗にして貰おうとトゥクルティは考えていた。

 そのためだけに、トゥクルティはここ二年間、水浴び一つしていない。


 全てはティアマトに舐めさせるためだ。


「さあ、行くぞ!! 今回は農地を焼き払うだけでは済まさん。都市を落とし、奴らを我らの馬で踏みつぶしてくれよう!!」



 なお、これは余談だがトゥクルティは既婚者であり、すでに妻が三人いる。

天使ちゃん、マジ天使!

天使ちゃんにお近づきになりたい!!


とお思いの方はブクマpt(信仰心)をお送りください

きっとお近づきになれます

ついでにご利益で成績も上がり、部活でも大活躍でき、彼女もできるようになります

社会人の方は収入が上がり、夫婦生活が上手くいくようになるはずです(効果には個人差があります)

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