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第5話 天使ちゃん、製鉄技術を伝授する

「あっちぃ……」


 春を過ぎた夏。

 新たに作られた都市……その名も【エレク国】は炎天下に晒されていた。


「暑い……というより熱いなぁ……」


 奴隷たちに団扇で扇いで貰いながら、ティアマトは植物の茎で出来たストローに口をつける。

 チュウチュウとジュースを飲むが、しかし飲んだ側から汗として体外へ流れ出る。


「今日はヤバいって……これ、五十度超えてるんじゃない?」


 奴隷たちが団扇で扇ぐ風は非常に生温い。

 焼石に水とはこのことだ。


「君はまだマシな部類だろう。こうして、日陰で扇いで貰いながらジュースを飲んでいる。君の民たちを、エレク国の国民たちを見たまえ。この炎天下の中で必死に働いているぞ」


 彼らの住居を作り出すだけで、ティアマトはその力の殆どを使い果たしてしまった。

 そのため現在は残りの作業を行っている。


 と言っても、その殆どは終えている。

 畑の整備は終わり、すでに作物が植えられている。

 また最低限の河の治水……堤防や溜池、分水路の作成もアダムの活躍によって終わっている。

 

 そういうわけで現在取り組んでいるのは外敵の侵入を防ぐための城壁造り、道の作成、上下水道の整備、そして……


「しかもそのうちの一つは君のためだ」


 ティアマトの住まう宮殿造りである。


「それは彼らが勝手にやっていることです」


 エレク国の国民たちは、ティアマトのために率先して宮殿を造っている。

 そう、これはティアマトが命じたことではない。

 彼らが自分で考え、そしてティアマトの許可を取り、始めたことだ。


 というのも、ティアマトが自分で作り出した屋敷は他のエレク国の国民たちの家よりも少し大きい程度の大きさしかなかったからだ。

 エレク国の国民たちはこう考えたのだ。


 自分たちの敬愛するティアマト様が、そのような粗末な建物に住むのは良くない。


 またティアマトが一万五千人分の住居を用意したことで体調不良になったことが、彼らにバレてしまったこともある。


 ティアマトは極力、知られないように取り繕っていたのだが……

 明らかに顔色が悪ければ、少し勘の良いものなら気付く。

 そして一人でも気付けば、噂が広がるのはあっと言う間だ。


 恩を返さなければならない!

 とエレク国の民が張り切るのも当然である。


 そしてティアマトはそういうことを断ったりするタイプの性格ではない。

 貰えるものは貰うのが彼女の流儀だ。


 そういうわけでティアマトは現在、エレク国の民が宮殿を造ってくれるのを心待ちにしている。


「というか、君の力はまだ回復していないのかい?」

「回復という言葉の意味にも依りますね。体力という意味では回復しています。街を一つ作るという意味合いでは、まだまだですね」


 ティアマトはそう言ってから、自分の力について軽く説明をする。


「そこそこの家を建てるのに必要な力の総量は五百ほどです。信者一人に対し、一日に一ほどの力が戻ると考えてください」

「家を一つで五百、一日の回復量は一……よくそれで街を一つ、作ることができたな」


 一日に一。

 と考えると、街を作り出した段階でのティアマトの力の総量は、街を一つ作り出すには到底足りていないように思える。


「信者が一人、私に対して信仰を抱くと……その時限りですが四百から五百くらいの力が入ります。街を作り出せたのはそのおかげですよ。まあ、その時の力は全て使い果たしてしまったのですがね」


 もし新たに街を作り出すのであれば、新しい信者が必要となる。

 もっとも……そもそも信者がいないのであれば、街を作る意味もないのだが。


「しかし……確かにそろそろ力も戻ってきましたし、何かをするべきかもしれませんね。明日、もし涼しくなったら出かけましょう」


 



 さて翌日。

 涼しい……とは決して言い難いが、気温は四十度程度と昨日よりはまだマシというほどの暑さにまで下がった。


 そこでティアマトとアダムは十キロほど離れた山へと向かった。

 ティアマトはアダムに背負って貰いながら、山の奥へと進む。


「少しは自分で歩いたらどうだね?」

「何度も言っていますが、基本的に悪魔と戦うとき以外の天使は見た目相応の力しかありません。信仰の力を使えば別ですが、山歩きに浪費するのはナンセンスでしょう」


 まあ、実際のところは楽したいだけだが。

 ある程度、奥へと進むとティアマトはアダムに止まるように命じた。


「アダム、あそこの崖、少し赤っぽいでしょう?」

「ふむ……まあ、確かにそうだが」

「あれは鉄鉱石です。運びますよ」

「鉄鉱石? それは何だ?」

「説明は後です」


 ティアマトは竜となったアダムの背中にありったけの鉄鉱石を詰め込むと、エレク国へと帰還した。

 それからティアマトは、青銅器を作ることができる職人のうち、最も腕が良いと評判の男を呼び出す。


「何でしょうか? ティアマト様」

「今からあなたに知恵を授けます。この世界で初めて、鉄鉱石から鉄を作り出した人間になるのです。その栄誉を噛み締めなさい」


 ティアマトはそう言うと鍛冶師の男の頭に手を置いた。

 ティアマトの掌から、黄金の魔法陣が出現する。


「פלדה טכנולוגיה, התקנה......」


 ぶつぶつと呪文を唱える。

 そしてティアマトはゆっくりと手を放し、そして呆然としている男に対して言った。


「鉄鉱石は用意しました。まずは……そうですね。剣を作り、私に献上しなさい。そのあとは農具を作りつつ、あなたの弟子や同僚に製鉄技術を教えなさい。あなたが独占することは許しません。ただし……他国の人間に教えることは固く禁じます」


「は、はい!」


 男は元気よく返事をすると、鉄鉱石が乗せられている荷車を引いてあっという間に立ち去ってしまった。

 ティアマトは満足そうに頷く。


「これで鉄製農具が手に入ります。農作業の効率も上がることでしょう」


「さっきから言っている、“てつ”ってのは何だ?」


「鉄です。金属のうちの一つですよ。【アンキ】はいろいろと遅れていますが……他の世界では、青銅器は軒並み鉄器に置き換わっています」


「他の世界? 何だ、それは」


「はぁ……そんなことも知りませんか。この駄トカゲは。恥を知りなさい」


「じゃあ教えてくれ」


「……仕方がありませんね」


 ティアマトはそう言うと丁寧にアダムに対し、“世界”について教える。


 実は世界は【アンキ】だけではない。

 少なくとも天使たちが認識しているだけでも、百を超える“世界”が存在する。


 天使たちはそのそれぞれの“世界”を悪魔から守り、そして導くのが仕事だ。


「ちなみに、私は人間として【アンキ】に堕とされる前は、地球の日本という国を担当していました。あそこは良いところです。美味しい物も、楽しいこともたくさんありました」


「そのせいで堕ちたんじゃないか?」


「私は悪くありません。最低限の仕事はしていたはずです。天使長が過剰労働を要求するから、抵抗しただけのことですよ」


 ティアマトはむすっとした顔で言った。


「じゃあ、この流れでついでに聞くんだが……天使と悪魔ってのは何なんだ?」

「あなた、自分たちがどういう存在なのかも分かっていないのですか?」

「生憎、中級悪魔なんでな」

「良いでしょう……仕方がありません」

 

 そう言うとティアマトはアダムに天使と悪魔が何なのかについて説明を始める。


「天使というのは、世界の防衛機能です。ああ……ここでいう世界というのは広い意味での、つまり無数の“世界”を内包した【世界】全体のことです。天使は【世界】の正常な運行と発展を守るために存在します。逆に悪魔は【世界】を蝕む存在です。まあ、【世界】の体調不良によって生まれてしまった腫瘍のようなものです。放っておけば、場合によっては【世界】の正常な運行と発展を阻害し、【世界】を壊しかねません」


 天使と悪魔はそれぞれ、強大な“力”を持っている。

 例えばティアマトは無から有を作り出すことができるし、アダムもまた魔眼で物質を石や塩に変えるなどという芸当ができる。


 一見、同じように見える“力”だが、実は根本から異なる。


 悪魔の“力”は世界を壊すものだ。

 そもそも悪魔そのものが【世界】の異常によって生み出されたものなのだから。

 悪魔は【世界】の秩序や法則を乱すことによって、“力”を行使する。


 一方、天使の力は世界を正すために存在する。

 天使の力は乱れた秩序や法則を正すための、超法規的な上位者権限である。


「堕天使という存在を知っていますね? 上級悪魔の一種です。あれは本来、【世界】を守るために存在するはずの天使が何らかの誤作動を起こし、世界を乱す側になってしまった存在です」


「なるほど……ところで、君も【アンキ】に堕とされたわけだが、堕天使なのか?」


「まあ……天使の中でも変わり者という意味では、誤作動を起こしていると言えなくもありません。そう判断したから、天使長は私を人間界へと堕としたのでしょう。ただ、私は【世界】を壊そうとまでは思っていません。少なくとも、悪魔に堕ちたつもりはありませんね」


 ティアマトはあくまでサボっていただけだ。

 反逆を起こしたわけではない。


「神様ってのは、どんな人だ?」


「知りませんよ、そんなの」


「会ったことないのか?」


「会ったことあるかどうか以前に、存在するかどうかも知りません。私たち天使は、気付いたときにはすでに存在し、そして気付いた時には死んでいる。ただ、【世界】を守るためだけに存在するシステムに過ぎません。まあ、私はそんな人生……天使生? 嫌ですけどね」


「神ってのは、いないのか?」


「いないってことはないんじゃないんですか? 私たちを、【世界】を設計した者がいるはずです。その存在を観測したことはありませんけどね」


 ティアマトはそう言って肩を竦めた。


天使ティアマト様「べ、別にブクマpt(信仰心)なんて、これっぽっちも欲しくないですよ? 目次の下にある評価のところをクリックして欲しいなんて、これっぽっちも思ってませんからね? か、勘違いしないでください。ま、まあ……でも、ちょっと、ほんのちょっとだけですが、してくれたら……う、嬉しく思わないというわけでもありません。く、クリックしてくれたら……ま、まあ、感謝してやりましょう。お礼に良い子良い子をしてあげます」チラッチラッ

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