大阪の女
これは私が小学生の頃に本当に体験した話です。
季節は夏で夏休みの時でした。
その日、私は母、父、弟と一緒に大阪に旅行に行っていました。
旅行の目的は大阪にある遊園地、ユニバーサルスタジオです。
日程は二泊三日でした。
私達が宿泊したホテルはユニバーサルスタジオのすぐ側にあるホテルです。
このホテルは玄関に恐竜の卵の模型が置かれているなど、ホテルの各所に遊び心が感じられる子供の私から見たら夢で溢れた素晴らしいホテルでした。
私達、家族は大阪につくとすぐにそのホテルにチェックインをし荷物を部屋に運びこびました。
私達の泊まった部屋は玄関があってその扉を開けると短い廊下があって廊下の左側にはバスルーム、短い廊下を抜けた先には寝室があり右側にベットが2か3つ並んだ部屋でした。
見晴らしもよく、とても素晴らしい部屋だったのですが、私はこの部屋に入った当りから頭痛を感じていました。
理由は分かりません。
もしかしたら長距離の移動で疲れていたのかもしれません。
ですが、頭が痛いなんて事を親に言えば、せっかくのユニバーサルスタジオが台無しです。
もしかしたら部屋で寝ていろと言われるかもしれません。
そう思った私はこの時、頭が痛いという事を親に隠して遊びにいきました。
結論から言ってとても楽しかったという事はよく覚えています。
ジェットコースターにも乗りましたしジュラシックパークのアトラクションにも乗りました。
頭痛も遊ぶ事に影響を与えるほどではありませんでしたので私達は夜、夕飯を食べてから部屋に戻りました。
ですが、その夜の事でした。
私は夜中の二時頃に目が覚めてしまったのです。
この時、私は真ん中の廊下側に近いほうに置かれたベットの隣のベットで寝ていました。
見ると、バスルームの方のオレンジ色の明かりがついていて、そこから漏れた光が私達の寝る寝室を薄暗く照らしています。
私達家族は当時、普段から寝るときは何かしらの小さな明かりを点けて寝ていました。
父親は暗いほうが良いのですが、母と私と弟は灯りがなければ眠れませんでした。
すると、私はその時、ある事に気がつきました。
バスルームの方からシャワーを流している音が聞こえるのです。
私はこの時すぐに、あぁお母さんがまだ起きてるんだなぁと思いました。
というのも、うちの母は夜更かしをする事が多かったからです。
だから、この時も母がこんな夜中でもシャワーを浴びてるんだなと思いました。
暫くすると、シャワーの音が止まりました。
お母さんが出てくるんだなぁと思いました。
ですが、この時、私はある事に気がついてしまったのです。
ふと横を見ると隣のベットで母と弟は普通に寝ていたのです。
もう一方を見ればもう一方のベットでは父も寝ています。
私はすぐにバスルームの方を見ました。
それじゃあ、今、バスルームを使っているのは誰なのか……。
小学生だった私はその事に気がつくと怖くなりました。
ただ、流石は子供とでも言うのでしょうか。
その時の様子は今でも鮮明に覚えているのですが、子供だった私はなんと、バスルームの方を見たままこう思ったのです。
いや、そんな事あるはずないと。
お母さんが隣で寝てるのは気のせいでお母さんは起きているに違いない。
あれはお母さんだ。
と思ったのです。
……思ったという表現はおかしいかもしれません。
思ったというよりは自分にそう言い聞かせたのです。
ですが、非情にもそれは違いました。
私がじっとバスルームの方を見ていると、誰かがバスルームのある部屋から出てきました。
その人物は恐らくホテルのバスローブと思われる白い服を着ていました。
髪の毛はロングヘアーで顔はバスルームからの逆光で見えません。
私はその女がバスルームから出てくる様子をただ見ていました。
ただ、心の中は恐怖の感情でいっぱいです。
ですが、奇しくもその女の髪型は私の母と同じロングヘアーでした。
そのため、私はこう思いました。
あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。
お母さんは隣で寝ていない。お母さんは隣で寝ていない。お母さんは隣で寝ていない。
私は呪文の様に心の中でその女を見ながら呟き続けました。
ですが、バスルームから出てきた女はバスルームから出てきて数秒の間もない間にゆっくりと歩き出しました。
女はなんと寝室に歩き入ってきます。
廊下と寝室の間の敷居を越え寝室に入ってきます。
私はその様子を見て現実逃避を繰り返すだけです。
あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。あれはお母さんだ。
女はそのままベットの前の所を歩いてきます。
私はこの時、誰かを起こそうとようやく思ったのですが恐怖で身体が動きません。
私が恐怖で固まっている間に女はさらに進み、廊下に近いベットのある場所を越え、そしてついに私のベットと廊下に近いベットの所まで歩いて来ました。
すると、その時でした。
女はそこで立ち止まりなんと、体の向きを変え、ベットとベットの間の通路の方に向かって歩いてきたのです。
つまり、女は私の方にこのままではあと数歩の間にたどり着く方に向かって歩き始めたのです。
私はここでついに恐怖の限界に達してしまいました。
目を瞑ったのです。
何も考えてはいません。
もはや、この時の私の心の中は恐怖で支配されていたのです。
そして、少しの時が経ち私は目を開きました。
恐らく何処かに行っていると思ったのか、本当にお母さんだと思い込もうとしていたので、やっぱりお母さんが起きていたんだと思いたかったのかも知れません。
しかし、女はそこにいました。
私の枕元に立っていたのです。
そして女は私の顔をググググッとゆっくりと覗き込んで来ました。
恐らく……女と私の顔との距離は30cm位かそれ以下だったと思います。
私はその時見た光景を忘れる事が今でも出来ません。
鮮明に覚えています。
女が私の顔を覗き込んできた時、今までは逆光で見えなかった女の顔がくっきりと私の目には見えてしまいました……。
私が見たその女の顔は、顔の輪郭はよく見えているのになぜか目の部分だけが黒色で塗りつぶしたかの様に真っ暗で何も見えないというものだったのです。
私はその顔を見た瞬間にそのまま意識を失ってしまいました……。
翌日、私は起きるとすぐに母と父に昨日の夜に誰か起きていたかという事を聞きました。
ですが、その答えはやはり、というべきか、母も父も寝ていたと言うのです。
その答えを聞いた私はそれから昨日の夜に見た女の話をしました。
しかし、両親は夢でも見たんだろうと聞いてはくれません。
私はこれ以上は話してもしょうがないと思いそれ以上は言いませんでした。
それに、確かに夢かもしれないというのはごもっともです。
私も内心では夢かもしれないと思いました。
ですが、私はチェックアウトをする為に両親が荷物を持って部屋から出るときに聞いてしまったのです。
父が母に向かって聞いていたのです。
昨日、風呂場の明かりをつけた?かと……。
それで私は思い出しました。
昨日の夜、皆が寝る時に父が明かりをつけたのですが、その明かりは廊下の明かりでバスルームではなかったのです。
父いわく、父が朝、一番に起きると廊下の明かりが消えていて変わりにバスルームの明かりがついていたそうです。
だれが廊下の明かりを消してバスルームの明かりをつけたのでしょうか……。
私にはあの女以外思いつきませんでした。
あれから、かなりの年数が経ちましたが、今でもあの女がなんだったのかは分かりません。
ですが、一つだけ言える事があります。
私はこれをきっかけに霊の存在を信じるようになったという事です。