5分
ショートショートです。
気楽に読んでみて下さい。
ベッドに腰掛けていた俺は、急いで立ちあがって、壁に掛かっていたモッズコートを羽織って、玄関に急いだ。
急いでこの部屋から出ないと。
ただ、その理由は自分でも分からない、なんか急にどこか出かけないといけないっていう気になった。
正直、なんかまだ現の出来事ではないような気もする。
だって、玄関の扉を開けたら俺がいたから。
「よう、5分前の俺…、待て、ドアを閉めるな。おれの話を聞け」
俺はすぐにドアを閉めようとしたが、そいつが両手でドアを持って開けようとしている。
突っ込んで来た左足に履いているサンダルは、確かに俺が履いているものと同じ。
ドアを挟んでグイグイやってるうちに、ドアノブから手が滑って、俺は玄関に尻餅をついた。
ドアは勢いよく開いて、そいつは玄関の前にころがった。
「痛い、手を離すなら先に言え、手すりに当たって死んだらどうするんだよ」
そいつは文句を言いながら、それでも俺より素早く立ち上がって、玄関に仁王立ちになって、尻餅をついている俺を見下ろした。
尻がこれだけ痛いので、どうも夢では無いらしい。
「お前は誰なんだ」
ソイツをよく見ると頭は寝癖でボサボサ、着古したドイツ軍のレプリカモッズコートを着て、ジャージにサンダル履き。
今の俺と全く同じ格好をしている、頭に手をやってみたら俺の頭も寝癖でボサボサだった。
「だから、俺はお前の5分後の俺だ」
「意味がわからん、なんで5分後の俺が俺の眼の前にいるんだ」
「だから、さっきから俺の話を聞けって言ってるだろ、お前はこのまま外出すると、玄関で暴走車に撥ねられる。まあ、正確にいうと撥ねられる直前にここに戻って来たわけだが」
「いや、だからなんでここに居るんだよ」
「さてな、なんか身の危険を感じた時になんかのスイッチが入って眠ってた能力が使えたって感じか」
「にしても俺が二人いたら困るだろう」
「そこだ、問題は。だからお前が外出するのをやめたら、未来が変わるので問題なくなると思うんだ、だいたいなんで俺は急いで外出しようと思ったか分かんないだろ」
「確かに、どこか行く当てはない…」
「だから、外出するのを止めろ、そうしたら問題は解決すると思う」
「そうか、なんか納得できないが、外出するのを止めるは」
そう言って立ち上がった。
気がつくと玄関に一人で立っていた、尻がまだ痛いが、なぜ尻が痛いか分からない。
ドアは開けっ放しになって居る。
ドアを閉めて、部屋へ戻った。
モッズコートを壁にかけてベットの縁に座った。
なんで俺は玄関に行ったんだろう。
もともと昨日はゲームがはまって明け方までやってたので、今日は一日寝て過ごすつもりだったじゃないか。
それに今日はマラソンであちこち混雑してるはずなので、外に出ても面倒だ。
頭を掻いて寝ようとしたら、部屋の隅に俺が立っていた。
「よう、5分前の俺…まて布団をかぶるな、お前このまま寝てると、この部屋に突っ込んで来るヘリコプターに潰されるぞ」