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祭りと贖罪

「助かった」

「い、いえ……」


 アトが抱える俺の頭部に、村長がオドオドしながら答えた。

 最初に俺が会った時から村長は変わっていないが、流石に15年という月日は短いものではなく、村長の見た目にも老いがはっきりと感じ取れる――――主に頭とかに。

 遺跡では村の男衆が丸太のように俺の身体を運んでいるところだ。腕、脚、それから胴体。個々のパーツに分解すればすんなり出口を通過できた俺の身体は、外の世界に少しずつ運び出されている。


「これが新しい世界か……」


 遺跡の入り口は小高い丘の上にあった。どこまで広がる草原の彼方では、太陽が今にも山に落ちようとしている。

 それは、俺が15年ずっと待ち焦がれていた外の世界の光景だった。


「――――感慨に耽ってるところ悪いんですがねぇ?」

「あ、はい」


 その景色を遮るのは、キャロリだった。

 というか、俺を抱えるアトは、小高い丘の上で、正座をしていた。キャロリの前で。


「どうして邪神様の首を持って私の家に来る必要があったの!?」


 キャロリは怒っていた。涙目で。

 どうもアトが持ってきた俺の頭部を見て生首と勘違いしたらしいキャロリはその場で絶叫。お陰で村人たちはすぐに集まってくれたけど、ちょっとした騒ぎも起きた、というわけだ。


「そ、その……実物を持ってきた方が早いかと」

「別に無くたって信じるわよ!!本当に腰抜けるかと思ったんだから!!」

「あの、実は私もそれは思ったんですが、エクサ……邪神様が『ついでに外の景色が見たい』と」

「あ、アト俺を売ったな!?」

「じゃ、し、ん、さま〜〜〜〜!!?」

「いた、ゴメン、ゴメンって!!」


 キャロリは攻撃対象を俺に変え、近くにあった木の棒で俺を木魚みたいにポカポカと叩き始めた。別に痛覚は無いので痛くないんだけど、なんとなく痛いなんて言ってしまう。

 邪神様の頭部を涙目で叩くキャロリの姿に村長はじめ村人たちはオロオロしているが、世話役経験者の面子は俺のことを分かっているのか微笑ましく見つめていた。


「本当に、もう!!二人とも反省してますか!?」

「「は、はいっ!!」」

「なら、いいです」


 キャロリはようやく怒りを鎮めたのか、俺たちを一喝するとそのまま離れてしまった。なんか母親みたいだな、って思った。


「あんなに私に怒るキャロリ、はじめて見ました……」


 俺を抱えたままアトは、小さくそう呟いた。







「よし……」


 全てのパーツが丘の上に並ぶ。そして俺はコマンドを唱える――――『合体』と。


「おお……!」


 まず胴体が浮かぶ。そして磁石のように各パーツが吸い寄せられると、あっという間に元どおりの姿に戻った。その光景に周りからどよめきが起こる。

 身体の動きを確認する。身体は分解する前と同じように、思い通りに動いた。


「邪神様ってやっぱりすごかったんですねぇ……」


 キャロリの口からそんな感嘆の声が漏れた。ようやく邪神っぽいこと出来た気がするなぁ。


「あ、今はエクサ様、でしたっけ」

「そうそう。いい名前だろ?」

「私はバッテン様の方がいいと思ったのですが」

「お前まだ諦めて無かったのかよ……」

「いいじゃないですか、バッテン様。親しみやすくていいと思いますよ」


 よくねえよ。親しみやすさとか求めてないから。

 キャロリは小さく笑うと、ところで、と話題を変えた。


「それで、二人はこれからどうするんですか?」


 俺はアトを見た。アトも俺を見て、頷いた。


「私は――――私とエクサは、旅に出ます。ふたりで」


 キャロリはそれを聞き届けると、何も答えずに村長を読んだ。


「村長」

「うむ」


 二人は示し合わせたように頷き合い、そして年老いた村長は声を張り上げた。


「村の皆に伝えよ!!」


 ここにいる全ての人が、村長に注目した。村長は、もう一度声を張り上げる。



「明日は――――祭りじゃ!!!」



「「は?」」


 俺とアトの気の抜けた声が重なった。それをかき消すように、周囲から村人の雄叫びが轟いた。








 村長の号令の通り、次の日の村は祭りで賑わっていた。


「アト、これ何の祭り?」

「分かりません……収穫祭はもっと先ですし」


 今は春だ。確かに収穫祭は普通秋にやるだろうから、この時期祭りは無いだろう。


「そうでしょうとも、これは初のお祭りですから!」


 そう機嫌よく話したのは、夫を連れたキャロリだ。この後村の女の子で集まって踊りを披露するらしく、一緒に踊る少女たちと同じ衣装を着ている。


「初って、何の祭りだよ?」

「それは勿論――――邪神様のお祭りです!!」


 ……俺?


「邪神様動いた記念ー!です!!」

「ああ、そう……ありがとね」


 もう邪神の面子もあったもんじゃねえな。いっそ『邪』の字抜いてくれよ。


「あ、あとアトの旅立ち記念ですねー!」

「私も、ですか?」


 もちろん!とキャロリの声が弾んだ。


「大事な村の娘がこれから頑張るんですからね。しっかり激励しないと!!」


 アトは信じられない、と言わんばかりに、ぽかんと口を開いた。


「大事?私が……?」

「そうよ?だからアト、楽しんでいらっしゃいな。あなたの為の、お祭りよ」








「アトのためのお祭り」との言葉通り、お祭りは俺とアトへのもてなしが続いていた。

 村の女達からは旅の装束と民俗調の模様が描かれたマント。男達からは革の靴とバッグ、それにナイフが贈られた。

 それらはまさしく『旅の道具一式』と呼ぶべきものだった。


「いつから、こんな準備を?」


 アトの問いに、キャロリが「少し前から」と答えた。


「アトは知りたがり屋だから。きっとこんな村に留まっているつもりは無いだろうと思ってたわ。邪神様、アトのお家知ってますか?行商が来るたびに手持ちのお金ほとんど使って本買っちゃうから家の中本ばっかりなんですよ」


 あー、やっぱり本好きなのか。この時代なら本なんてそう簡単に手に入らないだろうに、余程好きだったのだろう。


「それに、アトは邪神様に会ったら、きっと何か変わると思ってた。会ってすぐだとは思わなかったけどねー」


 あとは邪神様を動かしちゃったことも、とキャロリは付け加えて苦笑した。それにつられて周りでも笑いが起こる。

 その中心にいるアトだけが、沢山の贈り物に囲まれながら、ずっと困惑したように立ち尽くしていた。


「どうして?私に、どうしてここまでしてくれるのですか?」


 それに応えるように、村長がアトの前に立った。


「私たちはずっと、こうしたいと思っていた。もっと村の皆で、お前の面倒を見てやればよかった、と」


 それは多分、村長だけじゃない。村の全員の、後悔だった。


「私達は加害者で、お前は被害者だった。被害者であるお前が私たちに関わって欲しくないと望むなら、私達はそうせざるを得なかった」

「そんな事、思ってません!私は、私が近くにいると村のみんなが気まずいのだと思って……!」

「ああそうだ。だから、これは私達のせいだ。私達は一度間違えて、さらに間違いを重ねたのだ」


 村長はアトに向けて、頭を下げた。


「――――すまなかった。私達は、もっと早くこうするべきだった」

「っ、違うっ!私は……謝ってほしいんじゃ、ないんです……!私は、私は……っ!」


 アトの翠の瞳から、涙がこぼれた。

 聡明なアトは、誰も悪くないことを誰よりも解っている。だからその涙に怒りはなく、ただ悲しみだけがあった。





「ちょっとだけひとりにしてください」とアトは祭りを離れた。

 遺跡のある丘の上で、アトは静かに膝を抱える。ただえさえ小さい身体が、さらに縮こまった。俺もそれに倣って隣に腰掛ける。


「……ひとりにしてください、って言ったと思うんですが」

「俺人じゃないもん」

「昨日人間と変わらないって言ってたじゃないですか」


 それはそれ。これはこれ、ということで。

 アトは諦めたようにため息を吐くと、それきり何も言わずに空を見上げた。

 時刻は夕方。空は赤く染まっていた。どんな世界でも夕日は綺麗なんだな、と思った。

 アトは何も話さない。だから俺も黙っていた。


 どれくらい経っただろうか。アトはぽつり、と話しはじめた。


「私はずっと、この村に私の居場所もう無いのだと思っていました」


 アトはいつもの無表情に戻っていた。でも少し顔が赤くて、目が潤んでいるのがわかった。


「でも、違いました。私がその居場所から逃げていただけだったのだと、気付かされました」

「……村に残りたくなったか?」


 もし「残りたい」とアトが望むなら、それもいいと思った。この小さな村で、ゆっくりと邪神様として生きるのも悪くない、と。

 だけど、アトは「いいえ」と首を振った。


「こんなに優しい人たちが、魔法の存在ひとつで大混乱に陥りました。仲間だったはずの一人を切り捨てるほどに」


 それもう昔の話だ。でも、同じような混乱はずっと沢山あっただろう。あるいは、今も。

 そして、アトの中ではきっと、終わっていないことなのだ。


「私はもっと魔法のことを、世界のことを知りたいです。優しい人が魔法で苦しむことがないように、私はもっと立派な人になって、優しい人をひとりでも多く助けたい」


 アトは目に溜まった涙を拭った。


「幼稚な考え、でしょうか」


 アトは苦笑した。


「いいんじゃないか。年相応だろう」

「そこは「そんなことないよ」と言って欲しかったです」

「甘えんな小童が」

「……ふふっ」


 アトがクスリ、と笑う。それを見て俺は少し、安堵した。


「エクサは、どうしたいのですか」

「どう、って?」

「村の外に出て、私と一緒に旅をして、それだけでいいのですか?」


 俺は考えてみた。

 晴れて動ける身になって、俺は何をしたいのだろうか?

 やりたいこと……うーん……。


「……分からない。けど、楽しそうなことはいっぱいあるよな」


 異世界だ。魔法だ。オマケに身体が人型メカだ!!

 こんな愉快な状況、満喫するしかないだろう。



「この世界。魔法。俺の身体――――全部分からなくて、全部面白そうだ。アトについていったら、それが分かるかもしれない」



 それが俺の本心だ。

 世界を救いたいわけじゃない。勇者になりたいわけでもない。

 ただ、アトと一緒に色んなものを見てみたい。それだけの旅路を、俺は望んでいた。


「子供っぽいか?」

「いいえ、年相応だと思いますよ。まだ十歳ですし」

「……お前、さっきのこと根に持ってるな?」

「ふふっ」


 そうして二人で笑いあった。気が済むまで。


「行こうか、アト」

「はい、エクサ」


 手を取り合って、丘を下る。

 俺たちが戻った後の村の祭りは、それはもう大賑わいだった。

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