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遺跡とロボット

新連載です。よろしくお願いします。

「……暇だ」


 だだっ広く薄暗い遺跡の真ん中で、俺の声が反響した。

 小綺麗な遺跡は、一体何の遺跡だったのか全く分からない程に何もない。真ん中に、奇妙な像が鎮座していること以外。


 手が二本、脚も二本、頭が一つ。しかし、腕と脚は人間ではあり得ないくらい細く、長い。兜のような頭に目や口と呼べるようなものは無く、代わりにXの字を描くように淡い緑の光のラインが走っている。全長はゆうに2メートルを超えるだろう。全身は鈍く光る黒い金属で覆われており、いかにも硬そうだ。


 だから、この像を『人』と呼ぶ人はまずいないだろう。『鎧を纏った化け物』と呼んだ方が相応しい代物だ。

 あるいは、そう。

 知っている人なら、これを別の呼称で呼ぶかもしれない。


 例えば――――『人型ロボット』と。

 それか――――『これガン〇ムじゃね?』とか。



 ロボットは動かない。

 正確には、動けない。充電切れだから。

 だから、何も出来ない。


「暇だあああああああ!!!」


 ただこうやって、ボヤくくらいしかやる事がない。

 ……あ、言い忘れてました。そうです。これ、俺です。


 死んで気がついたらロボットになってました。しかも、充電切れで動けないまま、10年ほど経過しました。

 たすけて。






 ただの学生だった俺の死因は何だっただろうか。重大だったような気がするし、とてもつまらないものだったような気もする。その辺りの記憶は曖昧なので、どうでもいい。

 問題は、目が覚めたら身体が動かせなかったことだ。


「え、なんで?金縛り?」


 慌てて目を開けてみれば、変な遺跡と、俺を見上げる古臭い格好の人たちが驚き後ずさる光景が見えた。


「じゃ、邪神様の顔が、光って……!」


 ……今になって思うと、俺は『目を開こう』と思ってメインカメラを起動していたんだと思う。そのせいで俺の顔パーツの緑のラインが光ったみたいだった。


「え、邪神って何……?何言ってんの……?」

「邪神様が喋ったあああああああああ!!!?」


 そこから先はもう阿鼻叫喚だった。いい歳したおっさん達が顔面グシャグシャにしながらこぞって出口に猛ダッシュ。こっちが話しかければその度にみんなで大絶叫。結局一切のコミュニケーションが成立することなく、俺と人類のファーストコンタクトは幕を閉じた。


 後になって聞いた話だが、どうも地下にあるこの遺跡の上には小さな村があるらしく、古くからこの像(つまり俺)を認識していた村人は『邪神』として奉っていたらしい。なんで普通の神じゃなくて邪神なんだ、とは思ったがこの見た目なので仕方ない。


 ……え、どうやってその情報を知ったのかって?

 実はあの後『邪神様のお怒りを鎮めるため』という名目で生贄が送られてきたのだ。で、その経緯を教えて貰った、という訳だ。

 流石に自分のために人が死ぬのは嫌すぎるので、次の生贄が送られるタイミングで村長を呼び出してお説教。


「生贄とか、何?」

「い、いえ……邪神様がお怒りではないか、と……」

「その浅はかな思考にお怒りじゃ!!命は大事にしろ!!生贄はなし!!」

「は、はいぃいいいいいい!!!」


 とはいえ、話し相手がいてくれるのは大変ありがたい。外の情報は知れるし、何より寂しくない。

 そこで、俺と村長は約束を交わした。村人の中から邪神様、つまり俺の世話役を任命すること。世話役は定期的にこの遺跡を訪れ、俺の話し相手になること。それを一人一年続けること。


 それ以来、村人と俺はそれなりに良好な関係を築きつつある……のだが。





「キャロリが来ない……」


 キャロリとは今代の世話役だ。明るく活発な村娘で、その割には計算が得意という特技を持っている。

 割と俺に対してもフランクに話しかけてくれるので、俺も中々に楽しい時間を過ごしていた。


「で、そのキャロリはどうしたんだ……」


 おかしい。確か今日はこっちに来る日だったはずだ。途中で何かあったのだろうか。何もなければいいのだが。

 そんな不安をよそに、遺跡の入り口からガチャリ、と音がした。誰かがここに入ってきたのだ。


「お、来たか」


 入って来たのはキャロリだった。しかし、キャロリは薄いヴェールを頭に被り、いつもと違う豪奢な衣装に身を包んでいていた。俺はその衣装が何を意味しているかよく知っていた。


「そうか――――今日が最後の日か」


 俺は『一年続けるように』とは言ったが、同時に『他に事情があるなら早めに辞めてもいい』とも伝えてあった。そして、どんな事情であれ最後の日には、その衣装でここに来るという決まりが村にはあった。


「はい、邪神様。急になってしまい、申し訳ありません」


 普段はもっと明るいキャロリが、恭しく頭を垂れた。


「いいんだ。それで、どういう事情で?」

「それが、その……子を身篭ったことが分かりまして」


 キャロリは表情を崩さないまま、頬を赤く染めた。


「そうか。それはよかった」


 俺はそれを祝福した。何を隠そう、彼女の恋路をサポートしたのは他ならない俺だからだ。



「いいか、男は胃袋を掴めば勝ちだ!ついでにさりげなく身体にタッチすれば簡単に落ちるぞ!」

「な、なるほど……!邪神様、私頑張ります!!」



 そんなやりとりもあり、元々素朴だけど可愛らしい顔だったキャロリは同い年の少年とあっさりゴールイン。


「俺から言えることはひとつだけ。幸せに生きてくれ」

「っ!はい……ありがとう、ございました!」


 キャロリの目から涙がひとつ、零れ落ちる。俺はそれを感慨深く見つめていた。なんか娘の結婚ってこんな感じなんだなぁ。俺も大した歳じゃないんだが。

 まあ俺も邪神な振る舞いが板について来た、ということで。……言動は全く邪神っぽくないけど。


「それで、今日はもうひとつ要件がございます」


 キャロリは涙を拭うと、入り口に戻り、それを開けた。


 ひょこ。


 促されるように、キャロリと同じ格好をした、しかしキャロリよりずっと小さな少女が中に入ってきた。


「私の次の世話役です」


 身長がそう高くないキャロリと比べても、頭ひとつ分小さい、本当に小さい少女だ。年齢で言えば十歳かそこらだろうか。


「そうか、いつもすまない」


 キャロリは「いえ」と小さく応えて頭を下げた。小さな少女もそれに促されるように、ぺこりとお辞儀した。


「名と、顔を」


 キャロリは頷き、お辞儀から顔を上げた少女のヴェールを取った。

 現れたのは、エメラルドの瞳と、白銀の髪が特徴的な――――


「彼女の名前は、アト」


 俺は言葉を失った。

 彼女の面影を知っていたから。


「まさか、この子は……」

「はい」



「アトは――――邪神様の生贄として送られたナノの、一人娘です」

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