三話
それから私は両親を説得して魔力をコントロールするために先生を雇ってもらい、体術も学び、鍛錬に明け暮れた。この先生を雇うことについては娘の命にも関わるし、お医者さんが「魔力をコントロールできれば身体の方も改善するかもしれない」と言ったので親も乗り気だった。
そして15歳になった今年、私は軍に入隊した。
軍には祖父がおり、入隊が決まったあと祖父に会いに行ったら驚かれた。そういやこの人には言ってなかった。めんご!
「儂には今年16になる孫娘と今年6歳になる孫息子しかおらんはずなんだが」
呆れたように話す祖父。祖父の階級は少将。なかなか高級な椅子に座っている。
まぁ祖父が戸惑うのも無理はない。何せこの世界、魔力持ちの殆どが軍に属するとはいえ、女性は後方に回される。女性に戦わせるなど! という考えの下だ。戦うとしても王妃などの護衛としてしか戦わない。
しかし、私が入隊したのはバリバリの前線勤務……とはいってもこの国は比較的平和(現在は)なので暫くは前線などは経験しないが。とにかくここに女子はいない。
「合ってますよ。私は女子です」
「お前それ儂以外に言うなよ。……大きくなったなぁ」
呆れた顔のすぐ後にそんな愛情に満ちた顔ができるってすごいと思うよ。
「ちゃんと年相応に見えるでしょう? 魔力制御覚えましたからね!」
「ここに来たのはその魔力のせいか?」
「ここに来たのは自分の意思ですよ。……私はもう女ではない。魔力しか取り柄のない私が家族にのためにできることは、魔力を利用して家族を、しいては国を守ることですから!」
これは、親を説得するときに用いた言葉だ。もちろんこれも本心。
私はもう、女としての価値はなく、女として家族を幸せにできることはない。家族は、両親は私が子を成すことができないとわかったあとも今までと変わらずに接してくれた。これはこの世界では珍しいことだろう。愛情を持って私を育ててくれた家族に何かを返したい。家族を守りたい、そのために軍に入った。すべて本心だ。幸い、家を継ぐ弟も生まれたし。心置きなく軍に入ってやった。
「そうか。ならば儂もお前を軍人として扱おう。まぁ多少の気遣いはしてやるが」
「やりぃっ」
「取り敢えず部屋は一人部屋を用意してやる。あとしてほしいことはあるか? 祖父として最後にわがまま聞いてやろう」
おじいちゃんやっさしー!! 愛してる!!
私は軍に入ったもう一つの理由。彼を上司に据えてもらった。おじいちゃんまじあいしてる。
そして今! 私の目の前に! 念願の! エルくんがいる!!! ありがとうおじいちゃん!! ありがとう神様!! いま死んでもいい!! いやごめんだめ!!
「……新人、ですよね。この間あった入隊試験に合格した」
「そうだな」
「……なぜ私に?」
「お前頭いいだろう」
私を目の前にして困惑気味の彼は少将に質問を投げかける。困惑気味のエルくんも可愛いわ。
「こいつ、実技は文句なしだが座学がアレだから、鍛え直してやれ」
「少将酷い」
そこまで酷くない! 少し、少し苦手なだけだ! 兵法とか知らんし!
「……はぁ」
「実力はあるからな。こき使ってやれ。こいつアホだから扱いやすいぞ」
「少将酷い」
「そんなにアホなんですか」
「アホだな」
おじいちゃんひどい。そこまでアホじゃないですー。
「……わかりました。……カルヴィーノ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますっ!」
おじいちゃんの中で私がどんな立ち位置にいるのかすごく気になったけど、まぁ、いいか。おじいちゃんのおかげでエルくんの部下になれたわけだし!!