二話
前世の私はしがない只の一般人だった。ちょっとオタクで、ライトノベルとかが大好きな、一般人だった。
ライトノベルには転生モノなんかも大量にあったから、記憶が戻ったあとは「なんかよくわかんないけど転生したのかな? まぁいいや。楽しもう」ってなった。悲観しても仕方ないし。
母が泣きながら謝ってくる中、私はこの10年間で培ってきた記憶の中にいくつか聞き覚えのある単語を耳にしていたので、家に帰るとすぐさまこの国の名前、王の名前、様々なものを調べた。調べた結果、この世界は以前私が愛読していた小説の世界だと判明した。
その小説はよくある話ではあった。膨大な魔力を有する主人公(女子)がなんやかんやあって王子と知り合い、王子と手を取り合いながら国に迫る危機を乗り越える、というものだ。それはまぁいい。今はおいておこう。それよりも。
私はこの小説に出てくるモブの騎士が好きだ。
名前をエルベルト・ランディーニ。王宮で働く軍人である彼はちょいちょい本編でも出てくる。真面目な性格と、小説の挿絵で描かれた彼の容貌に惹かれた。あれはもう運命だね。もう、ドストライク。最高。
さてそんな彼だが、小説の本編が終わったあと、作者様のご厚意で彼を主役にした小説が出された。本編の流れに沿った中、彼が舞台の裏側でどう動いていたのかが書かれていた。彼は作中で優しげな女性と結婚、幸せな家庭を築き上げ……。
本編の、国をかけた大戦の中、死んだ。
泣いたよね。推しが死んだんだもの。なんか本編にちょいちょい出てたのに大戦後の本編で全く出てこなかったから、おかしいなぁ? とは思ってたよ? でも文章にされるとダメージ大きいよね。
しかし終わり方がとてもきれいだったので、推しが死んだ悲しみと、感動の涙で顔がグッチャグチャになった。
まぁ、そんな推しキャラがいる世界に転生したとわかった瞬間頭がお花畑になった。少し前に宣告された言葉なんてふっとんだ。彼に会える。しかも自分がその物語の中にいるのなら、これが現実なら、彼が死ぬ結末も変えられるのだと、嬉しかったね。
この膨大な魔力があれば軍に入れる。軍に入れば推しの近くにいける。そして守れる。ならば選ぶ道はただ一つ。
そうだ軍人になろう!
そう決めて親に言ったら止められた。当然だね。
まぁ、止まるわけないけどね!!! 推しへの愛をナメちゃいけないよお父様お母様!!