一話
「彼が今日からお前の上司になるエルベルト・ランディーニ少佐だ」
「フィオーレ・カルヴィーノです。よろしくお願いします」
渋い顔をした少将に紹介された上司に自己紹介をする。
あぁ、この時をどれだけ待ちわびたことか!
私は元はそこそこの階級の貴族の一人娘として育っていた。両親に愛され、周りの人間に愛され、スクスクと。
しかしある時母が気がついた。私の身体の成長が異常に遅い。10歳になるというのに外見だけ見ると本来の年齢より2、3歳若く見えるのだ。まだ子供だから成長がほかの子より遅いのはまぁわかる。しかしこの世界にはもう一つ子供の成長が遅れる原因があった。もしそちらの原因で成長が遅れているのならば、それは命にすら関わることだった。
まず、この世界には魔法が存在する。これは素質がなければ扱えないものだ。人間がもつ素質はだいたい三段階にわけられる。
人間の90%以上がこれに該当する『通常種』。これは魔力をほとんど持たず、魔法を扱えないもの。彼らは石などを媒体にした魔法具を使う。
人間の10%未満が『有力種』。これは魔力を持つ人間を指す。彼らは己の魔力を用いて魔法武器を使用できる、大体の者が軍に所属する。
そして、1%にも満たない『希少種』。彼らは人間が有することのできる魔力の限界値を超えた魔力を持ってしまった人間である。
この限界値を超えた魔力を持つとどうなるのか。簡単なことだ。体を循環する魔力が己の体を攻撃する。
子供のうちは魔力の扱い方など知らないから魔力を使わない。使わなければ魔力は体をかけめぐることしかできず、しかしそのかけめぐる魔力は人間が耐えられる量ではない。魔力は外に出ようと身体を攻撃する。これで死んでしまう人間もいるそうだ。
私はこの『希少種』だった。
私の場合、魔力が体の中で暴れまくり、何に作用したのか成長が止まっていたらしい。
「彼女の体を巡る魔力は様々な器官を攻撃しています。しかし、魔力のせいで痛みすら感じなくなっている。気がついていないだけで彼女の身体ははもうボロボロです」
これが、10歳の時に医師に告げられた言葉だった。
まぁしかし私は死んではいない。傷つけられた器官も徐々にだが魔力が治していたらしい。魔力に壊され魔力に治される。なんという循環。おかげで死ななかったのか。
しかし医師の話はまだ続く。
つらそうに顔を歪めた医師は何やら母に囁いた。この時私は少々私の中で他の大事故が起きていたので言葉を聞くことができなかったが、その後の言葉は覚えている。
「彼女は子供をなせない可能性があります」
やばい。
これが聞いた瞬間私の頭に浮かんだ言葉だった。
この世界では女は子を成してなんぼ。子を成せないとなると女の価値は一瞬で下がる。
その言葉を聞いた母は泣き崩れた。
因みにこのときの私の「やばい」の言葉には2つの意味が含まれている。
1つは私の体の現状と、これからについての「やばい」。子を成せないと私の価値はどうなる。貴族の女の子なんて貴族の血を残すために生きてるようなもんだぞ、という焦り。
そしてもう一つ。
「私さっきまでモン○ンしてたのになんだここ。なんかやばいぞ」のやばいである。
私はこのシリアスな時間の中で何故か前世なるものを思い出していた。