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銀行家の娘とエリートの徒然日記  作者: 夕立
Le Rosey編 才器の残照
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8話 夢見る少女力の謎

 次の日の朝食にはベリザリオも出てきた。ぱっと見は元気そうにしている。

 でもね、


「明日俺ら工場体験じゃん。お前耐えられるわけ?」


 エルメーテが指摘したら、ベリザリオの血の気が引いた。


「ああ、そうだった……」


 とか言いながら卓に突っ伏したから、本当はまだキツイのかもしれない。

 私だったらそんな状態じゃ絶対頑張れないのだけど、ベリザリオはどうにかするつもりみたい。


 ベリザリオだけでなくてディアーナとエルメーテも、自分の能力を底上げしてくれそうな事には貪欲に取り組む傾向がある。

 成績の良すぎる3人を天才だと周囲は簡単に言う。けれど、こういう小さな努力を怠らずに出来るから、彼らはその評価を維持できているのだと思う。




 そういうわけで、翌日、3人はそろって学外に出かけていった。

 学年の違う私はいつもの授業。今は休憩時間で、同じクラスの男子2人、女子3人で集まってお喋りしている。

 ただ、話題が、この前私がぶちまけてしまったベリザリオの彼女宣言なのが困りもの。だって、このクラスにはベリザリオの弟のフェルモもいるから。


 フェルモって、ベリザリオと同じ金髪碧眼で顔の造形も似ているのだけど、こちらはどことなく緩い雰囲気をいつも漂わせている。優秀な兄が家絡みの面倒ごとは全て引き受けてくれるから、自分は自由にぷらぷらできて気楽なのだそうだ。

 その分ベリザリオには頭が上がらないらしいけど。仕方ないよね。


 その彼、私の彼女宣言が嘘だと最初から見抜いていたみたい。私が本当のことを白状したら、やっぱりねと笑っていた。


「なんか、ディアーナと付き合ってるとかいう噂と似た臭いがするなと思ってたんだよね」

「気付いてた?」

「だてに13年弟してないんで」


 そう言って彼は苦笑する。

 女の子達は私の横で神妙な顔をしていた。


「それにしてもアウローラも災難だったよね、ヴェルナーに目を付けられるなんて。表沙汰にはなっていないんだけど、あいつに追いかけ回されて学校辞めた子いたらしいよ」

「ええ!? そうなの?」

「噂だけどね。でもほら、あいつの家って結構お金持ちでしょ? お家がすんごい寄付金積んで、学校側に黙ってもらったんだって」

「うわぁ」


 その場にいた全員が一斉に引いた。

 ル・ロゼは学費が高いから、選帝侯やお金持ちの家の子くらいしか通えない。

 逆に言えば、その階層での文化がスタンダードだということだ。

 つまるところ、不祥事は普通にお金で握りつぶす。

 みんな慣れているはずなのに(近場だとエルメーテが活用しまくってる)、ヴェルナーに対してはそんな反応をしてしまうのが、彼の嫌われ度を示している。


「フェルモの兄貴が間に入ってくれて良かったよな。本人達の実力じゃ兄貴の方が圧倒的に上だし、家格はいわずもがなじゃん? ヴェルナーの悪行もここまでだな」


 フェルモじゃない男子が笑顔を向けてきた。その発言に、女子勢ははてなマークを浮かべている。


「アウローラを諦めたあいつが他の子追いかけ回したら、悪行止まらなくない?」

「そん時はあれだよ。兄貴の所に駆け込んで守ってもらえばOK」

「我が兄ながら軽く引き受けそう」

「あれ? じゃぁ、ベリザリオ先輩とお近付きになるには、ヴェルナーに狙われるのが1番の近道?」

「すごい盲点」


 女の子達がわーわーきゃーきゃーと騒ぐ。私はむーっと膨れた。だって、ベリザリオに守ってもらうのは私だけの特権だと思っていたのに、他の子まで同じ立場になれそうだから。

 ベリザリオは優しいから、頼まれればきっと引き受ける。なんか、凄く嫌。


 ぷーっと膨れていたら、隣の子にほっぺをつんとされた。


「今現在1番羨望の目で見られてる子がこれくらいで妬かないでよ」


 その子はそう言って笑う。

 言われてみればそうだ。それに、こんな心の狭い人間だと思われたら、ベリザリオに失望されるかもしれない。

 私はぶんぶんと頭を振ってもやもやした気持ちを吹き飛ばした。代わりに、ちょっと気になる話題を振ってみる。


「ねぇフェルモ。この間の騒動の原因とかってわかったの?」


 ベリザリオが倒れてすぐに学校からお家に連絡がいったらしくて、原因究明にデッラ・ローヴェレ家の手配した人達が来ていた。私達には何も知らされていないけれど、フェルモなら情報を持ってるんじゃないかなと思ったから。

 その考えは正解だったみたいで、彼がうなずく。


「全部分かったらしいよ?」

「犯人も?」

「うん」

「誰だったの?」

「さぁ? そこまでは教えてもらえなかったし。学校には情報渡したみたいだけど」

「でも、学校は何も言ってないよね?」

「公表を兄様が止めた。1度だけは許すってさ。爺様は怒り狂って相手の家もろとも関係者潰してやるって言ってたらしいけど」

「怖っ。フェルモの爺さんって枢機卿の1人じゃなかったっけ? 睨まれたら本気で潰されそうなんだけど」


 みんなの視線がフェルモに集まる。フェルモは困ったようにうなずいた。

 枢機卿というのは教皇を補佐する立場にいる7人の人達。このポストにももちろん選帝侯しか就けない。むしろ、教皇が枢機卿から選出されるというのが正しいのだけど。

 ともかく、そんな凄い地位の人はそれだけ大きな権力を持っているわけで。お家取り潰しくらい本当に出来てしまいそうで怖い。


 微妙に空気が重くなる。

 そんな空気を払拭するためにか、フェルモが気持ち明る目な声を出した。


「そうなる可能性にすら思い至らなかったような小者だから、ほっとけばいいって兄様言ってたよ。あれもう敵とすら見てない感じ。なんか微妙に哀れだよね〜」

「やっぱ怖えなお前の兄貴。規格外すぎるわ。お前もあんななるの?」

「無理。今の30倍努力しても無理」


 フェルモがふるふると首を横に振る。もう1人の男子は「そっちの方がいいわ」とか言ってフェルモの肩を叩いていた。

 女子の1人は興味深そうに私を覗き込んでくる。


「アウローラって、先輩達と一緒にいて怖いって思ったことないの?」

「? 3人とも凄く優しくて面白くて頼りになるよ?」

「お前もある意味規格外だよな〜」


 そんなことを言われた。周囲まで「確かに」とかうなずいているけれど、私にはぴんとこない。


「なんていうかな。鈍感力と夢見る少女力? が桁外れ」


 失礼な。というか、夢見る少女力って何?

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