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銀行家の娘とエリートの徒然日記  作者: 夕立
Firenze編 幸せの在り処
48/83

48話 interlude

 * * * *



 楽しい時間というのは過ぎるのが早いもので、ベリザリオの研修期間も残り2カ月。


「もうすぐ私はヴァチカンに帰るが、アウローラはどうする?」


 食事中にベリザリオが言ってきた。質問の意味が広すぎて、どう返したらいいのか私にはよくわからない。


「どうって?」

「私1人なら実家に帰る。アウローラもヴァチカンに来るというのなら部屋を借りよう。別々に暮らしたいというのなら無理強いはしないが」


 返答が思いつかず私は目をぱちぱちさせる。そう言われてもどう反応すればいいのか。ベリザリオの誘いに、感激に似た何かがゆっくりと私の中で広がっていってはいるのだけれど。


「以前お母さんが口走っていただろう? アウローラがヴァチカンで働きたがっているって。私の移動に合わせてアウローラも転勤するつもりだったんじゃないのか?」

「気付いてたんだ?」

「さすがにね」


 ベリザリオがくすりと笑う。それ以上は喋らず食事を再開させた。私の答え待ち、というやつだろうか。


「一緒に暮らし続けていいの?」

「むしろなんでダメなんだ? アウローラがいる方が嬉しいに決まっている」


 ベリザリオがやや憮然となる。その顔が可愛くて、私はちょっと笑ってしまった。

 一緒にいる方が嬉しいと言われて嬉しい。それになんか馬鹿みたい。ここひと月くらい、こっそり1人で悩んでいたのが。


 同棲は1年と言われていたから、ヴァチカンまで付いて行って一緒に暮らしたいと言ったら嫌がられるかな、とか。

 ベリザリオはご実家に帰るだろうから、私は家を借りようかな、とか。


 悶々としていた。ひとこと聞いてみれば、こんなに簡単に答えを得られたのに。


「もちろん一緒に暮らさせてください。私もあなたといたいから」


 お願いしますと、両手を彼の前に出す。カトラリーを置いたベリザリオは私の手を包んでくれた。


「こちらこそよろしく頼む。ああ、良かったよ、断られなくて。それじゃあアパート探しだな。今度あっちに行った時にいくつかみつくろってこよう。それで、2人の休みが合う時に見に行って――」


 嬉しそうに彼はこれからの予定を話しだす。随分と先のことまで。

 私が悩んでいたのと同じくらいベリザリオも悩んでいたのかもしれない。

 先の予定まで考えているくらいだから、私より悩んでいたりして。


 たまに私達って似ているよね。一緒に暮らすようになってから、私と同じようにあなたが悩む姿を見ることが増えた。それがとても嬉しくて愛おしい。

 この幸せの中にまだ居続けられるようで良かった。



 * * * *



 もう1回は引越ししそうなので、ヴァチカンでも家具付きの部屋を探す。

 選帝侯が下流の賃貸にいたりしたら迷惑がられるだろうからと、普通より少し上くらいのグレードの物件を選んだ。ひと部屋ひと部屋が広めの2LDK。エレベーター付き。

 研修が終わればベリザリオは本名のデッラ・ローヴェレを名乗ってでの生活になる。生活レベルもある程度のラインは保たないと体裁が悪いというのだから、面倒なことだ。


 もちろん自分達の給料だけじゃ無理なので、2人とも実家から与えられている家族カードを解禁。

 ベリザリオと一緒にいる私もそれなりの身だしなみは保たなくちゃだし。

 お金ないね〜って言いながら1本のジュースを半分こしたりする生活も楽しかったんだけど、それはもうおしまい。

 本来の生活に戻ると言うのかもしれないけれど。




 そうして迎えた新年度。9月。

 ヴァチカンでの新しい生活が始まった。と言っても、仕事において私の生活はそう変わらない。出勤場所が変わったくらいだから。


 ベリザリオはかなり楽になったみたい。

 日勤だけになって、休みも祝祭日と安息日固定になったから。

 土曜は半日出勤だからって、午後からジム通いまで始めていた。連日書類整理ばかりな上に先輩達根性悪いわでストレスが溜まるんだって。

 ディアーナとエルメーテも同感らしくて、週末ジム通いが3人+私の新しい共通の遊びになっている。


 ディアーナとエルメーテは引っ付いたり離れたりを繰り返してる感じかな。上手くいっている時はいいのだけど、こじれた時が面倒なのはどうにかして欲しい。




 そんな感じで3カ月が過ぎて新しい生活にも慣れてきたある日、何気なくベリザリオが言ってきた。


「今度私が実家に戻る時、アウローラも一緒に来てみる?」

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