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銀行家の娘とエリートの徒然日記  作者: 夕立
Firenze編 幸せの在り処
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46話 ディアーナのキモチ

「さて、どこに行こうかな」


 アパートを下りきったけれど買い物先が決められず私は足を止めた。

 スーパーでも困らないけれど面白味がない。

 変な物に出会いたいなら市場だろうか。こちらも、何にも出会えない可能性はあるけれど。


 あ、でも、中央市場メルカートのフードコートでお惣菜をいくつか買って帰れば手間が掛からなくていいかもしれない。今日はエルメーテがいて邪魔だから、手の込んだ物を作るには向かないだろうし。

 ハンバーガー屋さんもあるから、お土産に買って帰れば喜びそう。


「うん、市場にしよう」


 そう決めて歩きだした。




 そうして中央市場に向かっていたら、途中で見知った背中とルブタンを見つけた。走って追いつくとやはりディアーナだ。


「おはようディアーナ。早かったね?」

「あらアウローラ。おはよう」


 ディアーナが驚いたように目をぱちぱちさせる。けれど歩みは止まらない。進行方向はうちの方向ではない。


「寄りみち中?」

「ええ。あなた達の所のお土産にもう少し何か見ようと思って。最近ヴァチカンで流行ってるお菓子を持ってきたんだけど、これだけだとつまらないでしょう? そういうあなたは買い出し?」

「うん。中央市場に行くけどディアーナも一緒に行く? 今なら食べたいものをねじ込めるよ」

「いいわね。それに私、中央市場には行ったことないのよ。面白そうだわ」


 ふんわりとディアーナが微笑む。同行人ができて私も嬉しい。

 屋根付きの巨大な建物に入って2階に登る。中央市場の2階は丸々フードコートになっていて、中には持ち帰りのできる物もある。安くて美味しいし、パーティのちょっとした一品にちょうどいい。


「今朝って、ベリザリオ仕事だったりしてるの?」


 歩きながらディアーナが尋ねてきた。


「違うよ。なんで?」

「あの人なら荷物持ちについてきそうだから。重いものをアウローラに持たせるだなんてありえないとか言って」

「あはは……。普段はそれで正解。今日は留守番しながら何品か作ってくれてるけど」

「ふぅん。まぁ、そんな日もあるかもしれないわね。いつも同じだとつまらないし」


 さくっとディアーナは引いてくれた。

 私はこっそり息を吐く。

 このまま突っ込まれ続けたら、エルメーテがうちにいることを吐いてしまいそうな気がしたから。まったくもってディアーナの洞察力は侮れない。


 別にエルメーテがいてもおかしくはないのだけど。触れないほうが良いような予感が少々。心臓はまだバクバクしている。どうしよう、このままだと挙動不審で怪しまれそうだ。

 それをごまかすために、私は1つの店舗を勢いよく指した。


「あ、ライスコロッケ(アランチーニ)買って行こう! ベリザリオ、揚げ物は作ってないだろうし!」

「え? ええ」


 ディアーナが勢いに押されている間に彼女の腕を引いてお店の前に行く。そうしていざ買おうとして、どれを選ぶかで迷って固まった私である。

 中に入っている物の種類は、ナス、ほうれん草、ミートソース、ハム。全部食べたことがあるけど、どれも美味しいから困ってしまう。色々食べたいけれど、欲張ったら絶対これだけでお腹いっぱいになってしまうし。


 そんな私の苦悩なんてなんのその。


「全部1つずつちょうだい」


 ディアーナが男らしい注文をした。彼女を見つめてみたら優しい眼差しを返される。


「色々食べたいんでしょう? 家で割りましょう。他の物も買うんでしょうし、ここではこれで十分よね?」


 はい。まさしくです。肯定と、私はこくこくうなずく。何も言わなくてもわかってくれる友達って素晴らしい。


「ディアーナ大好き!」


 嬉しくなって彼女に抱きついた。けれど、苦笑するディアーナにすぐに優しく押し離される。


「はいはい。ほらどいてちょうだい。支払いができないわ」

「私出すよ? ホストだし」

「いいのよ。お土産」


 そう言って笑われてしまえばお断りはできない。お礼を言って買ってもらった。

 他にも揚げ物屋さんで肉詰めオリーブのフライとポテトを、お土産用にハンバーガーを買って1階に降りる。


 1階には生鮮食品とかが売っているのだけど、そこをぷらっと回っている時に素晴らしい物を見つけた。棚に置かれたばかりのそれを、私は急いで1本確保する。


「ディアーナついてるね。このチーズのバゲット、美味しいのに滅多に出ないの。それに、出てもすぐに売り切れちゃうし」


 ほくほくとそれを買って、生ハムやサラミ、チーズも買い足す。1人だと持ちきれなくなってディアーナにも持ってもらった。

 やっぱり2人の方が買い物は楽しい。途中でディアーナと合流できて良かった。


 荷物が沢山になってきたから買い物を切り上げる。

 たわいないことを喋りながら家に向かった。すれ違う人達の服装を見ながら今年の流行とかの話をしていたのだけど、


「ひょっとして、エルメーテがもう来てるのかしら?」


 前置き無しにそんな言われて、私は変な声が出た。

 ディアーナの目が細くなる。発する空気の温度は下がった気がする。


 最初の受け答えでエルメーテにつながりそうな質問は誤魔化せたと思っていたのだけど、ディアーナ、ひょっとして、色々しながら考え続けてた?

 ありそう過ぎる。ここで下手に誤魔化そうとしたら怒られそうな気もする。穏便にやり過ごせるのは、私が誠実である時だけだろう。


「う、うん」

「隠さなくても良かったのに。どうせベリザリオに泣きついてきたんでしょう? それで、あの馬鹿を1人放置もできなくて、ベリザリオが見張りがてら留守番ってとこかしら?」

「よくわかるね」

「いつものことですもの」


 どうということなさそうにディアーナは言って、横髪を耳にかけた。表情に怒りの色はなくて達観すら見える。その態度で、本当にいつものことなんだと実感できてしまって哀愁を感じた。

 こういう状態でエルメーテの話なんてしたら胸がムカムカするだろうし。私は開き直って新しい恋人さんの話を振る。


「ディアーナの新しい彼氏さんはどんな人?」

「良い人よ。誰かさんみたいに他に女を作ったりしないし。甘えてくるばかりじゃなくて自分で頑張ろうとするし。イライラが減ったわ」

「それは良かったね」

「でもね――」


 ディアーナの視線が上がった。空を眺めるその目はとてもつまらなさそうにしている。


「なんだか物足りないのよね。良い人過ぎて。もうちょっとくらい私を振り回せるくらいの気骨があってくれるといいんだけど」


 ん? と、私の思考が止まった。

 ちょこちょこ耳に入ってくる色んな人の恋バナによると、それって、長続きしないパターンなんじゃ。ディアーナもわかっているのか、


「すぐに飽きそうだわ。今度会った時にパートナーが変わっていたら、そういうことだと思ってちょうだい」


 笑顔でそんなことを言ってくる。それ、私はどう反応すればいいんですか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ディアーナクラスになると、良くも悪くも普通ではダメなんだなぁ、としみじみ……というか、8割がた元カレ?のせいですよね。今カレ可哀想に(笑) 本編でジョエレがエルメーテっぽい言動を真似てい…
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