6-4.伝説は一人歩く
死んだはずの勇者が普通に暮らしてるっぽいことがあっさり知れ渡ってしまいましたが、さらに悪いことが起きてしまいます。今まで物語に登場する勇者は女でしたが、なんと、勇者を男に書き換えたものが出回り始めたのです。これは由々しき事態です。勇者再登場フラグがもうビンビンです。
アイスが、町まで行こうとすると、途中でまたもや残念さんに会う。
「あ、残念なやつだ。
おい、どうした。困っているのなら相談に乗ってやってもいいぞ。
今日は機嫌がいいからな」とアイスが言うと、
「ほう、さては、今日も大ナマズだな。あれは確かに美味かった」と残念さんが答える。
「残念だが、その予想は外れだ……」とアイスが何故か渋い顔で言った。
「そうか、やはりあれはレアだったのだな」と残念さんが言う。
そこでアイスは今日の食材を教える。
「今日は小エビだ」
「小エビ? そんなもの、食うところ無いだろうに」と残念さんが言う。
確かに、あれはほとんど食い応えは無い。
アイスは、そう答えるだろうと思っていたのか、
「ふっ。お前は本当の小エビの美味さを知らない。思い知らせてやろう」と言った。
残念さんが「その話、乗ってやろう」と答える。2人とも凄く残念な感じだ。
……………………
……………………
アイスが、また残念さんを連れてきた。
俺が「なんだ、お前ら仲良いのか」と言うと、
「そうだな。まあ、友達だ」とアイスが言った。
すると残念さんが
「そ、そうか? そうだな。トルテラ、お前は敵だがアイスは友達だ」とか言った。
俺はお前らの仲が良いか聞いただけだ。俺と仲が良いとは思ってないのだが。
わざわざ言われると腹立つ。まあ、アイスが友達だって言うなら、いいかと思った。
アイスは誰とでも話はするが、友達を連れてくるのは珍しい。
「そうか、これ食うか、酸っぺーけど」と、最近何故か取れるようになった、変なみかんみたいなやつを渡す。
「毒とか入ってないだろうな?」と言うので、気になるなら食うなよと思ったが
凄い勢いで皮むいて「なるほど、酸っぱい」と言った。
もう食ってんのかよと思ったら、
「私は、アイス殿を信じている。何しろ友達だからな」と言った。
俺は瞬間的に理解した。
「おまえ、友達少ないだろ」と言うと、
「うっ、何故それを」と思った通りの反応をした。
「俺も、友達少ないけどな」とアイスが言うと、
「私が数少ない友人の一人とは、くっ、それでも次に会ったときは敵同士……、いや、護衛の者はいいのだ。
トルテラ、貴様だけが敵だ。護衛の者と積極的に敵対することは無い」とか言い出した。
俺の心の中は、残念さで満たされた。
「やっぱ、お前、なんかいろいろ残念だよな」と言うと、
「なんだ、貴様、ケンカを売っているのか」と突っかかってきたが、
「はい、これ、魚、骨っぽいから気を付けて」と言ってリナが小エビ汁を渡す。
「気を付けて食えよ。お前、すぐ難癖付けそうだからな」と言うが、小エビ汁が気に入ったようで、特に何も言い返してこなかった。
残念さんは「ほう。こ、これは、絶品だな。アイス殿のおかげで素晴らしい味に出会えた」とか言った。
普通に”美味い”って言えよと思った。
この世界の料理は、あんまり美味しくないので、このくらいのものでも、相当美味い部類に入るのだ。
この料理は俺だけでなく、皆だいたい好きなので、俺の味覚に合うだけではなく、かなり美味しいものと思っている。
この土地に住んでるなら食べたことありそうなもんだが。
先に小エビを炒っておいて、それで汁を作ると香ばしくてうまい。
魚は小エビと一緒に獲れるやつで、大きさの割に骨っぽくて食いにくい、獲れたので入れてあるだけだ。
「作ったのはエスティアとテーラだぞ」と言うと、「エスティア殿、テーラ殿、感謝する」と言った。
俺が小エビ獲って来たのに、俺が入ってない。
「エビ獲ったの俺だけど」と言うと、
「お前は敵だ」と言った。
なんて失礼なやつだと思ったので、「食ったら、さっさと帰れよ」と言っておいた。
========
ベルタナ勇生会の俺の支援派(勇者は男でも良い派)の方が、急激に勢力を増していた。
俺が生きてることが知られつつある状況で、勇者が男OKになってしまうと、俺が再登場しなければならなくなる。
”勇者は男でも良い派”が優勢になったのは、男の姿の勇者本が出回ったためだ。
ダルガンイストには、俺の勇者像がある。おっさんが勇者のやつだ。
男の姿で書かれた勇者本が、大量に出回り始めたのだ。
”勇者は男でも良い派”は、元は性別に拘らない派がほとんどで、たぶん女だろうけど、男だと駄目ってことはない程度だったのが、今は”勇者は男であるべき派”が増えていた。
これは由々しき事態だ。”元から男の勇者なんて居なかった。勇者は女!”ってことにしておかないと、後々めんどくさいことになる。
いろいろ考えて、良い策を思いついた。
本で人々の認識が変わるのなら、本で対抗すれば良い。
本なら心当たりがある。
アイスの友達に、アルカディアと名乗る”勇者は女派”のとっても残念な子が居る。
よく飯をたかりに来るやつだ。
その子に頼んで、神の使いの”勇者は女派”に、初代の男勇者は、実は偽物で二代目以降が本物で女という設定で本を作ってもらうことにした。
コイツは、本を仕入れることができる。出版社みたいなものがあるはずなのだ。
話をすると、印刷所兼出版社みたいなものが存在することがわかった。
「アイス殿の頼みとあれば!」と張り切ってたが、「良いのか? 勇者が女で」とか言うので、俺は勇者とか嫌なんだよと思いつつ、「俺も勇者は女だと思う」と言って、いろいろ説明すると、やっと理解してくれた。
「どうやら、お互い勘違いがあったようだな」
お互いじゃねーよ!!
俺は、はじめから、男の勇者はいらねーって言ってただろ!!!と叫んだ。心の中で。
今まで、何度言っても理解しなかったのだ。
それはそうと、残念さんが、張り切って、男の勇者なんかはじめから存在してない版の勇者本を作ってくれた。
まあ、既存の本と大差ないのだが、巨人との戦いの前座で男の偽勇者が出る。
ところが、この本は気合いが入りすぎて高くてさっぱり売れなかった。
話の内容自体も、あまりウケが良くなかった。
紙が高いのでページ数は大きな壁だ。
俺から見たら薄い本なのだが。
そこで、ページ数を減らして値段を下げ、誰にでもわかる簡単な内容、挿絵も入れてわかりやすく。
しかも面白いから、多くの人が読んでくれる本を作って、俺が金も援助してサンプルを村役場(公民館的なもの)とかに置いてもらうようにした。
ところが、このバージョンでは二代目は初代の娘になっていた。
初代が娘を庇って死んでしまい、娘が敵討ちする話だ。
いや、その方がウケるのかもしれないけど、俺は、初代を無かったことにして欲しいのだ。
今度は娘設定を削除した版に改版した。
今度は、初代の弟子になった。師匠の仇!
すげー意味ないじゃないか
残念な子は、何やらせても残念なのだ。
さらに改版して、親子でも師弟でも無い版作ったが、全く人気が出ず、結局師弟版に戻った。
多くの人が読む内容にすると、どうしても初代勇者が登場してしまうようだ。
========
この世界には、著作権とか概念自体がほぼ無い。
大手同士だと契約するので、無いわけでは無いのだが、揉めると面倒なので根回し的な意味合いが強いように感じた。
零細は、堂々とパクリ改変版出している。
俺が援助して作ってもらった勇者本を微妙に変えたバージョンが出回るのだが、これは爆発的に売れてるらしい。
子弟版がベースで、人気のパターンは、あとで師匠が再登場して今度は仲間として助けてくれるものだった。
俺はアボン先生じゃないぞ!!
アボン先生というのは、俺がまだ若くて、日本に居たとき連載されてたマンガの登場人物で、勇者に必殺技を伝授する。
必殺技は剣を逆手に振るアボンストラッシュ。
いや、そんなことより、復活したらこの本作った意味ないだろ!!と思うのだが、復活版の人気が高過ぎでそっちが主流になった。
元々俺が作ってもらった本の挿絵の回想シーンが、復活して助けるシーンという認識になってしまったのだ。
字が読めない人が、挿絵を見てそう思ってしまったのか、そもそも回想シーンと言う手法が広まってないので読み手が理解できなかったのかもしれない。
ビックリするほど裏目に出た。俺が余計なことしたから師弟版ができてしまったのだ。
そして、その子弟版のパクリ本が主流になってしまった。
このままじゃ、俺が初代勇者として再登場させられる。
因みに大人気版は師弟愛で子供できて幸せに死ぬ。
しかも心外なことに、残念騎士が勇者の弟子と噂され、暫くしたら真実のように言われている。
初代から勇者の鎧を託されたと公言してるらしい。
託そうとしたのは確かだけど、勇者の鎧の話どっから聞いてきたんだよ!と思ったら、話の出どころはエスティア達だったらしい。
俺の居ない間に、勝手にフラグ立てやがって!!と思った。
やばい、俺が生きてることが知られてると、師弟愛で子供出来て俺は、幸せに死ぬことになりそうだ……
残念騎士は、俺が勇者になる前に、すでに俺を夫扱いしてたようだから極めて危険だ。
ベルタナ勇生会の出している”正伝書”という預言書の要約本も、初代が男、二代目が女という内容に書き換えられた。
勇者が途中で交代しても矛盾がないどころか、辻褄が合うという。
元々前半と後半で勇者の特徴で少し矛盾気味なところがあったらしい。
ベルタナ勇生会の”勇者は女派”と”勇者は男派”が合流して1つに戻った。
こうして、勇者は初代が男、二代目が女で確定してしまった。
俺の努力は、いつも通り無駄になった。
ただ1つ気がかりなことがあった。
勇者の話が、子供を作る話に変わったのだ。以前はそんな話は無かったのだ。
大鎧の書には、巨人と戦うなんて書かれていないのに、勇者は巨人と戦った。
勇者の伝承も真実なのかもしれないのだ。
勇者本では、初代勇者は二代目をかばって死ぬのだ。そして後で復活する。
俺はリーディアを庇って死んだ(ことになっている)。
俺は、子を作れるのだろうか?だとしたら、勇者はうちの女の中から選ぶべきなのだろうか?
それとも、勇者は既にリーディアで内定済みなのだろうか。
勇者は誰でも構わないが、子供作れるなら、相手は俺が選びたいんだが。




