6-3.勇者再登場フラグ
やっとエスティア、リナと合流しました。これで全員揃いました。すると早速イベントフラグです。死んだはずの勇者が普通に暮らしてるっぽいことがあっさり知れ渡ってしまうのです。
俺が消えた後の話は、エスティアもリナも、ほとんどのことは既に知っていた。
ルルが俺の生存を伝えに行ったときに既に聞いていたのだ。
「森に飛んでくる竜ってトルテラだったんだ」とリナが言う。
俺的には、あまりピンとこないのだが、シートが言っていた。
「神殿跡地は聖域化するし、扉開けるし、飛んできたから竜だってシートが言ってた」と答える。
以前、”森に飛んでくる竜”の話を聞いたとき、俺には思い当たることがあった。
俺は”他の世界”から”森に飛んできた”。
おそらく、そのことを言ってるのだろうと思っていたのだが、巨人と戦ってる最中に、何故かいきなり森に飛んだのだ。
シートの家の近くにゲートがある。
どうやったのかは、わからないが、俺はそこに飛んだ。巨人と共に。
死にそうになると、飛ぶのかもしれないし、もしかしたら、無意識に巨人をコイツらから遠ざけようとして飛んだのかもしれない。
竜が飛んでくることは以前から知られていた。
どういうわけか、未来に起きることを知っているのだ。
これから何があるのか。
知っているのなら教えてくれれば良いのに、小出しにしか教えてくれないようだ。
「まだ続きがあるのか?」とテーラに聞くと、
「私にはもう無い。お父さんとお母さんと私は森に飛んでくる竜を待ってただけ」と答えた。
そして、「そこから先は竜の役目」と付け足した。
この先のことは知らない……ということだろうか?
この後は竜に引き継ぐということだろうか。あの迷宮の?
やはり、テーラの目的は、”森に飛んでくる竜”だったのだ。
まあ、お父さんの悲願だったから、そこに関しては俺的にも納得ではある。
竜の役目と言うのは、迷宮の竜と、竜の分身の話だろう。
俺は、あの竜の分身に”勇者装備を持って来い”と言われているのだ。
ルルが「何の話? なんでテーラが、そんなこと知ってるの?」と言っていた。
たぶん、キャゼリアとルルは勇者側、シートとテーラは竜と大鎧。
この家は属する文化圏がバラバラなんだなと思った。
「迷宮で、勇者の装備を取ってから来いって言われたんだよ」とルルに説明する。
「でもまあ、俺が勇者になったし、巨人も倒したから勇者は終わったんだよな」と言うと
テーラは「ちがうよ。勇者は神が決めるから、人間が決めた勇者は大鎧の書の勇者じゃない」と言った。
「伝承通り、巨人は俺が倒したぞ」と自分で言って、その時気付いた。
いや、元々巨人の話は大鎧の書に無い。勇者伝承の話だ。
今の大鎧の書の内容は
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神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる。
勇者は神が選ぶ。
神殿には竜が住む。神殿に住む一番大きな竜が人になった。
一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった。
決して壊れることは無い。
迷宮の竜が導く
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”神がいる場所が神殿であり、神が住めば聖域となる”
俺は神殿跡地に住んでいて、今また別の神殿跡地に住もうとしている。
そして、俺が住むと井戸水が透き通る。俺は竜らしい。これには全部該当しそうだ。
次の部分は、”勇者は神が選ぶ”
だとすれば、勇者は俺が選ぶはずだ。
大鎧の書には勇者装備は書かれていないが、扉の仕組み上、竜が居ないと勇者鎧は取ってこれない。竜とはつまり俺のことだ。
俺は誰かと一緒に入らなければならない。
俺が居ないと入れず、俺だけでは出られないから。
勇者は、俺が選ぶことになるはずだ。
だが、そのあとの部分、ここは合わない。
”一番大きな竜が人になるとき、尾は剣に、牙は盾に、爪が鎧と兜になった”。
大鎧は、俺が、ここに来るずっと前から有った。
それに、俺は竜と比べてずっと小さい。
もしかして、転生とかそういうやつか?
俺の前世が一番大きな竜で、今の俺は生まれた時から竜が人になった大鎧で、俺が生まれた時、剣と盾と鎧と兜ができた。
だとすると、だいたい時間が合うか?
俺が約50歳として、大鎧が60年前。10年は誤差か?
ここの時間と、日本の時間に少々の差があっても調べる方法が無い。
1日の長さがだいたい同じくらいに感じるので、大雑把に360日を1年として換算してるのだが、10年くらいの誤差は出るのかもしれない。
もしかしたら、俺は、ここでは60歳相当なのかもしれない。
勇者装備が、鎧だけなら取りに行かなければ済むかもしれないが、そうでない場合……いや、それ以前に、選ぶ基準が勇者装備を与える……で無い場合、俺は気付かないうちに身近な誰かを勇者にしてしまうかもしれない。
やはり、あの鎧は”残念騎士”に貰ってもらおう。
そう考えていたが、この後、俺の心配とは別の方向に、事態が進んでしまう。
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やっぱりリナには気づかれてるので、話しておくことにした。
「俺、たぶんあと10年か20年で寿命で死ぬと思う」と言うと、
「今だって十分普通じゃないレベルなのに、それだけ生きたら十分だ」とリナが言った。
「でも、このまま俺といたら、俺が死んだとき子供もいないし、
それなり年も取ってて、そのとき、何も残らない」と言うと、
エスティアが、
「冒険者が年取った男を引き取るって、はじめからそういうことでしょ」と言う。
「だから、それも含めて最後まで面倒見るって言ってるんだ、なぜそれじゃ駄目なんだ?
そんなのトルテラが来る前から一緒じゃないか」とリナが言う。
そうだよな、そんなことは承知の上でやってることなんだよな……それは知ってはいるのだ。
でも、それでも、俺のせいで、こつらの人生が無駄になっていくのは嫌なのだ。
「今ならまだ変えられる。今のうちに金貯めて、お前らにお婿さんでも貰ったらどうかって思ったんだ。
でも、シートに話したら、シートの家はお婿さん貰うくらいの金はあるけど、テーラ以外も、
俺が生きてる間は、無理だろうって言われた」
予想外に、良いことを言っているので、ルルとテーラは密かにシートを見直した。
「そんなことより、私は長生きしてくれた方がいい」
「そうよ、それより勝手にどっか行ったりするのやめて欲しい」
リナとエスティアが言う。
「そうだな。まずは平和な暮らしを手に入れて、それからだ」
するとアイスが「俺、子供いなくてもトルテラと一緒に居るほうがいいよ」と言った。
そういう意味では俺にとって、アイスは特別な存在だった。
アイスだけは、俺といるのが幸せで、それ自体が目的なのだ。
たぶん、エスティアもリナもテーラも同じなのかもしれない。
俺から見て、そう思えるのはアイスだけなのだ。
ところで、ルルはどういう立ち位置なのだろう?
すると、テーラが、よくわからないことを言い出した。
「だいじょうぶ、勇者の話は神に合わせて書き換わるから」
何が大丈夫なのだろう?
俺は全然意味が分からなかったが、もちろん皆、意味が分からなかった。
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今日は、もちろんエスティアとリナと寝る日になった。
こいつらの寝るは、本当に眠るの意味だ。
2人とも寝間着が新しくてかわいいやつになっている。
俺は知っている。たぶんちょっと高いやつなのだ。
"そんなの買う金有ったら、冒険者服じゃない普段着先に買えよ!!!!"と全力で叫んだ。心の中で。
お年頃の可愛い女の子が、作業着みたいな冒険者服しか持って無いのだ。
普通にルルみたいな、町娘っぽい服着れば、かわいいのに、なぜそれを買わずに寝間着買うか!と思うのだ。
迷宮に行ったときに、竜の分身だかに貰った金貨が無くなるの早いな……と思ったが、こういうもの買うからだ。
まあ、今日のところはそこはスルーして、今は再びこうして一緒に寝る時間を大切にしようと思った。
俺がこの世界に来て20日くらいだったか、まだあまり日数が経って無い頃。
ものすごく小さなテントで2人と一緒に寝た。あのときのことを思い出す……。
てか、……狭すぎないか? ここ。
オリアン神殿跡地のお堂の密着ゾーンより狭い。
「いくらなんでも狭すぎないか?」と言うと「この小屋狭いし、トルテラが大きすぎるからよ」と言われた。
そのあと「どこにも、いかないでね」と言って抱き着いてきたので何も言えなかった。
この日は夜中にエスティアに何度か蹴られた程度で平和に寝れた。
やっぱり、俺は、エスティアとリナが居ると安心できると思った。
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ここに来てから、俺は、勇者に似ていると言われることが多くなった。
ダルガンイストの、大きな老人勇者……つまり俺と背格好が似ているためだ。
そりゃそうだ、本人だし。
それが気に入らない、と言う連中が現れた。
男勇者が有名になると困るという連中が居るのだ。
似てるのは本人だから仕方ないし、俺は勇者になりたくなかった。
勝手に勇者にされたのだ。
そして同時に、支援団体も現れた。
妨害団体と支援団体は団体名は、どっちも同じで”ベルタナ勇生会”。
同じ名前の団体が2つあるのではなく、派閥が分かれて支援と妨害の両方をやってるのだ。
ベルタナ勇生会の出している正伝書という預言書なんだか、過去のことなんだかわからない本で、勇者は残念騎士みたいな姿で書かれているので、おっさんなのは認めない派と、実際の勇者に合わせて、老人に書き換える派に分裂してるのだ。
どっちにしろ、勇者は死んだことになってるのだから、俺のことは放っておいて欲しいのだが。
俺が困ってるのは、邪魔しに来ることではない。
どちらかと言うと、支援派の方が厄介なのだ。
邪魔しに来ると言っても、基本的には、俺を勇者に似てると言う人がいると、
”勇者は女です。男の勇者は偽物です”と言いに来るやつと、
”いや勇者は巨人を倒す者だから男でも良いのです”と言って回ってるやつが居るだけで、それ自体はウザイだけで済むのだが、結局、勇者の話をして回るので、話を聞いた人たちが、勇者についてどんどん詳しくなってしまうのだ。
ダルガンイストまで同行した冒険者3人組が、散々俺の話をばらまいてたせいで、熊殴り殺したり、山賊討伐したり、残念騎士との一騎打ちで勝った、大きな男の老人が勇者で、勇者は神殿跡地に住んでることになっていた。
そういや、神殿跡地にそんなやつ住んでるな……という話になり、勇者は生きてて、俺が勇者と言うことになっているのだ。
本人だから仕方ないのだが。
こんなにも短期間で、有名になるとは思わなかった。
戦場で、実際に俺を見てる兵士はけっこうたくさんいたので、見られればバレる。
でっかい老人が、でっかい盾持ち歩いてるので、遠くから見たってすぐわかる。
盾を持たなければ、もうちょっと目立たないのだが、この盾くらいしか壊れない道具が無いので、いつも持ち歩くことになる。
俺は、率先して兵士を守ったつもりはないのだが、結果的に助かった兵士も多かったみたいで、そうなると、実際に訪れてくる兵士も居る。
この世界の兵士、意外に義理堅い。わざわざお礼とか言いに来る。
しかも、手土産にダルガノードの菓子を持ってくる。
そうすると、うちの女達が普通に出迎えてしまうのだ。
なぜコイツらの好みを知ってるんだ!と思った。
どうも、手土産は菓子が良いというのも、ちゃんと情報として出回ってるのだそうだ。
兵がそれらしい事を言っていた。
俺は確信した。
100%残念騎士に、生きてることが知られてるはずだ。
また面倒なことになってしまう。
しばらくは潜伏するつもりだったのに、計画は失敗した可能性が高い。
さらに、何故か先代勇者と、二代目勇者が、2人で勇者鎧を取りに行くと言う話になっていた。
残念騎士との会談では、そこまで話してなかったと思うのだが。
何故か話が変わった。勇者の話に二代目とかは無かった。
なんでこうなるのかと思ったら、テーラが教えてくれた。
「勇者の伝承は、大鎧の書に合わせて書き換わる。
でも勇者伝承が間違ってるわけでは無いの」
そうか、勇者伝承が書き換わるってのはこういうことか。
俺が、勇者を選ぶはずが、選ばずに巨人を倒してしまったから、次の形に書き換わりつつあるのだ。
勇者伝承側でも、勇者を選ぶのは神だったはずだ。
俺は神から選ばれたのだろうか?
迷宮の”竜の分身”が勇者装備を持って来いと言った結果、勇者になった。
もしかして既に選ばれていたとしたら……
結局、先代勇者として再登場する羽目に陥ってしまう。
俺の憧れの、引退生活がどんどん遠ざかっていく……
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なんだかんだ言いつつも、平和な日々を過ごす。
俺は最近、どうも不思議に感じていることがあった。
何か世界の法則が変わりつつあるように感じたのだ。
「何してるんだ?」と、アイスがやってきた。
「あれ」と言って木の実を指す。
「いっぱいなってるな、食べ頃じゃないか?」と言う。
”変な、みかん”みたいな実なのだが、こいつは、食べ頃の時には、落ちてこないのだ。
もっと日が経って、色が茶色っぽくなって、くしゃっとなったやつが落ちてくる。
食べ頃のは、棒で叩いてもなかなか落ちてこない。
だから、食べ頃のを取るためには、結構苦労するのだ。
”ボト”
ところが、食べ頃の実が落ちてきた。
これだ。必要なときに落ちてくるように感じる。
拾ってアイスに渡す。
「あげる」
「いいのか?」と言いつつ、アイスは、早速剥いて食べはじめる。
最近不思議に思ってたんだが、何もしなくても、待ってれば落ちてくるんだよな。
”ボト”
また、落ちてきた。
森にもこれとよく似たやつがあったが、あれは、こんなに食べ頃のやつは落ちてこなかった。
同じに見えるが種類が微妙に違うのだろうか?
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トルテラは目立たないように隠れているので、当面の生活費はトルテラ抜きで稼ぐ必要がある。
町まで行かないと、冒険者組合が無いので、アイスが北の町まで仕事を探しに来ると、入り口で門番と、ベルタナ勇生会の残念なやつが揉めていた。
こいつらが来ても、揉め事になるだけでメリットが無いので、明確な用が無いと町に入れてもらえないのだ。
アイスは「こないだの残念なやつじゃないか」と言って声をかける。
そして門番に「こいつは怪しいけど、残念なだけなんだ」と言う。
「はあ?」もちろん門番は意味が分からないが、この人はいつも意味が分からないけど、勇者の付き人なので無理矢理納得した振りをした。
「はい、わかりました」と言って通してくれた。
迷惑なだけで、危険人物では無いのでこのくらいの扱いなのだ。
「俺たちの邪魔以外なら、話、聞いてやってもいいぞ。今日は機嫌いいからな」とアイスが言う。
残念な人は、いろいろ話したが聞いてるのか聞いてないのか、アイスは拠点に連れてきた。
俺は、アイスが人を連れてきたので誰かと思えば、”お前は勇者じゃない”とか言いに来るだけの残念なやつだったので、なんでコイツが、アイスと一緒にここに来るのだろう?と思った。
すると、アイスが「コイツも一緒に、食わせてやっていいかな?」と言う。
まあ、別に構わないので「食うのはいいけど、暴れるなよ。危ないし、鍋ひっくりかえしたら許さんぞ」と答える。
今日は大ナマズが獲れたので、豪勢な食事になっていたのだ。
「わかった。それは約束しよう」と残念さんが言う。
実は、ここに俺が住むようになってから、大芋が巨大化したので、食糧事情が改善していたのだ。
神殿跡地の周辺では大芋が収穫できる。
大芋が、トート森の特産物なのは、聖域化された神殿跡地が存在するからだと思う。
たぶん、大鎧の住んでいる”カリオ神殿”があるからだろうと思っている。
大ナマズは、元はものすごく泥臭いのだが、神殿跡地の井戸水で3日くらい泥吐きのために生かしておくと、全く別物の美味しさになる。
内臓を食べるなら、泥吐きは大事だと思うが肉の部分しか食べないので、泥は関係無いように思えるのだが、実際泥吐きで別次元の味になる。
井戸水で何日か泥吐きさせたものは、この世界で食える食材の中で、かなり上位だと思う。
「うまいな、これ」とか言ってアイスが食べてる。
残念さんは、
「確かに、美味だな」と言って黙々と食う。
そして、食べ終わると「ご馳走になった」と言うと立ち上がった。
「やっぱり勇者が男じゃダメなの?」とエスティアが聞くと、
「ああ、正伝書は守らねばならない」と言う。
俺は、勇者は女の方が便利なのだが。
それに、同じ正伝書の解釈で勇者は女派と、男でも良い派で揉めてるんだから、単に、勇者は女がいい!って言えば済むのにと思った。
最後に何故か
「次に会ったときは敵同士、手加減はしないぞ」とか言って去って行った。
いや、俺は、勇者は男じゃない方が助かるんだが……と思った。
それに、べつに勝負とかしてないし。
俺は、凄く残念な気持ちでいっぱいになった。




