37-36.タカアシガニ旅行(17) 犯人に気付く(2)
現代日本側のお話です。
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結局、最後のイベントである新婚旅行まで、唯ちゃんに送ってもらうことになるのだ。
申し訳ないが、でも、もう、この世界でのイベントは残り少ない。
それが一番確実なのは俺も理解している。
ここはお言葉に甘えさせてもらうことにする。
俺は確実にこの世への未練を捨てて異世界に旅立つのだ。
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車の運転は、正直結構疲れるが、そんなことより唯には気になることが他にあった。
「それはいいんです。それより気になったことが」
「なに?」
「あの金髪の子、たぶん、前にお母さんと話してるんじゃないかと思って」
唯が妙なことを言った。
洋子は少し考えてみるが、金髪の子と話したという記憶は無い。
「え? 私は話してないと思うけど」
「でも、お母さん、覚えてなかったでしょ、鎧の話のこと。
お母さんが知らないはずのことを話した」
はじめの人生の時のことだ。
確かに、洋子はあのときのことを覚えていなかった。
唯は話をしたが覚えていないと言っているのだろう。
「ええ。確かに覚えてなかったけど」
「あの子、目的が同じ相手と同調できるみたい」
「同調? 同調ってどういうこと?」
”同調”では洋子にはうまく伝わらなかった。
とはいえ、説明が難しい。
「うん、良い言葉が思いつかなくて同調って言ったんだけど、
目的が同じとき2人が1人の人間として行動できる……そんな感じ」
洋子は、なぜ唯がそんなことを知っているのだろうという疑問を持つ。
「同じ目的って、どういうこと?」
「金髪の子もお母さんも、杉さんと玲子さんを神殿に連れていく必要があった。
目的が一緒だった」
唯はそう言うが、洋子は1人で行くつもりだった。
少なくとも、杉と玲子に同行してもらおうとは思っていなかった。
「私は、一緒に行こうとは思ってなかったと思う」
洋子はそう言っているが、唯の感覚では、目的が一致していたように感じた。
「わからないけど同じ目的を持つ者同士じゃないと同調できないみたい」
「何か見えたの?」
「私は鎧の話の時生まれてないから知らなかったけれど、
あれを見て、もしかしたらって思ったの」
唯は何かに気付いていた。いつの話だろうか?
「いつの話?」
「私が高校生の時、栫井さんがうちに来て、ベスが生きてるとき」
「え? ずいぶん前の話なのね……」
「鎧の話は、ずっと前の話でしょ」
確かにそうだが、てっきり最近の話かと思ったのに、前回の歴史での話だ。
前回の歴史で金髪の子と話をする機会は……
「あ!」
洋子にも思い当たることがあった。
あれが金髪の子だった?
あのとき、実は金髪の子と接触した?
なぜか栫井のカバンに洋子の下着が紛れ込むという事件が起きた。
洋子には全く心当たりが無かったが、洋子が入れたと言う。
その場面を唯は見ていた。ベスも見ているから、見間違いではなさそうだった。
洋子は自分がそんなことをするはずがないと思っていたのに、ベスも唯も洋子がやったと言っていた。
今ならわかる。あのときもそうだったのだ。
ここで栫井も話に乗って来る。
「話したことを思い出したのか?」
「ジン君も知ってるでしょ」
「いや、俺は見た覚えが無い」
栫井が何のことかわかっていないようなので唯が付け足す。
「私が高校生の時、栫井さんのカバンに、お母さんの……」
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ここまで聞いて思い出す。
「ああ、アレか」
「はい。あのとき、次の日届けてもらいましたよね」
確かに、そうだとすれば納得できる。
洋子さんが入れるわけがないのに、オーテルは洋子さんが入れたと言っていた。
※ベス(オーテル)が入れたことにしておく約束だったが、オーテルは隠し事が苦手なので
あっさりばらしてしまったことがあります。
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「アレかじゃないわよ、本当に死ぬほど恥ずかしかったんだから!!」
今となっては夫婦だったころの記憶があるが、あのときの栫井と洋子は共に、高校卒業後疎遠で過ごした記憶をもって生きていた。
そして、再会していきなりのことだったので、その衝撃は激しかった。
もともと下着を見せる予定なんて無いうえに、飲みつぶれて公園のベンチに寝転がっていたのだ。
見られるのが嫌で、敢えて見えない場所に置いておいたら、それがカバンに紛れ込んだ。
”なんで、よりによって、アレを持たせるのよ!!!”
洋子は、金髪の子に対する印象が悪くなった。
「なんで、あんなものを……」
「ベスに聞いたら、アレでいいって言うから……選んでる時間なんて無かったみたい」
まるで、唯には何かが見えていたかのような言い方だ。
「見えたの?」
「うん、、、見えたのかわからないけれど、私が見たあの時、異世界の子が何かした。
金髪の子と青い服の子と」
そこに栫井が割り込む。
「異世界側の様子が見えたのか?」
「見えたのかわからないけれど、写真の金髪の子と青い服の子。
あともう一人。
【妻の形見】を知らせようとしたみたい」
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ああ、唯ちゃんも、妻の形見のことを知ってるのか……
あれは俺がパンツ好きだからではない。それだけは理解してほしい。
「転移で持っていけるものは限られていて……
何が持っていけるのかよくわからない」
とは言ったものの、俺は俺が持って行けるものは触れればわかる。
「ベスが言ってました。体の一部しか持っていけないけど、
髪は染めてるし、シャンプー使ってるからダメだって。
爪もマニキュア塗ってるからダメみたいで」
そうだ。思い出した。
俺は髪の毛で良いと思ったんだが、オーテルはダメだって言ってたな。
まあ、次に行くときは試してみるか。
そんなことを考えていると、ようやく洋子さんが口を開く。
「そういえば、確かに、あのとき誰かと話をしたかもしれない」
……………………
……………………
まあ、オーテルは言うだろうな……人間の都合考えないから。
アレを洋子さんは見られたくないと思っていた。
金髪の子は疑問を持たなかったのだろうか……いや、異世界の女の子にとっては、
あのパンツはみすぼらしいものには見えなかったのだろう。
俺は異世界のことは身近なことはあまり覚えていないが、みすぼらしいパンツを見た気がする。
俺が悲しくなるくらいみすぼらしかったのだ。
だから、異世界の下着と比べると、おそらく、アレはそんなにみすぼらしいものでは無かったのだと思う。
確か、衣類が恐ろしく高かったと思う。
でも、あのときの洋子さんのパンツも、日本の基準で見ると、性的な意味とは別な意味で、あまり見て欲しくないものだろう。
あのとき洋子さんは”武士の情け”と言っていた。
つまり、非常事態だ。
俺はなるべく見ないようにしていたので、あんまり細かく覚えていない。
ただ、金に余裕が無いのは確かだろうと思えた。
あのときの洋子さんは、パンツくらい買えるけど、見えないところに投入する余裕は無かったのだろう。
どうせ見えないから良いと思っていたものを見られてしまった。
それはそうと、聞き捨てならない言葉がでてきた。
”写真の金髪の子と青い服の子。あともう一人。”
いきなり話を変えて悪いが、確認しておかなければならないことがある。
大事なことだ。
「唯ちゃん、金髪の子のほかにも、まだ居るのか? いったい何人いるんだ?」
洋子的には、何人居るかは大きな問題ではなかった。
「それだけ多くの人が待ってるのよ」
「わかりません。でも3人だったと思います」
なぜ3人だとわかるのだろう?
「なぜ3人だと?」
「わかりません。でも、今はわかるんです。3人だったって」
同じ湯に浸かると、石の記憶を読むことができるのだろうか?
まあ、でも、あのタイミングに下着が紛れ込んだから、翌日も会いに行った。
「翌日会いに行く必要があったのか……少なくとも、その3人は、
翌日会う必要があると思ったんだろうな」
「翌日、届けに来てくれたときに、私、魔法に気付いたんですよ」
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確かにそうだった。おれは失敗してしまった。
オーテルのせいで、いろいろバレそうだったから。
※オーテルさんのせいばかりではないのですが。
俺は、公園で寝るおっさんをやろうと思って失敗した。
降り始めの雨に気付かなかった。
俺は俺が魔法使えることを忘れていたのに、雨には濡れなかった。
俺はあの程度の雨では濡れないと思っていたから、たぶん、もっと前から魔法を使っていたのだろう。
よく気付かれなかったものだと思う。
どれだけ、ろくに人付き合いしていなかったかがわかる。
「それにしても、俺を待ってる人が居るのか……」
それに気づいてしまった俺は、仮に、この世界で消える方法があっても、異世界に行くことになる気がした。
異世界に行くのは元から決まっていたことだとは思うが、今更ながら実感できた。
俺は、出来損ないとはいえ一応神様だ。
人間を辞めると神様になってしまうのだ。
あの子たちは人間なのだ。
異世界に行く能力なんか持っていない。
それでも、俺に気付かせようと接触してきたのだ。
それを無視して、ここで消えてしまうことはできない。
でも、謎だ。
「なんで俺を待ってるんだろうな? もっと良い神様も居そうなものだけどな」
それを聞いて洋子は即答する。
「いないわよ」
確かに、この神様にはあまりにも欠点がある。
今この段階に至っても、異世界の子たちがどんな気持ちで待っているのか気付いていないのだ。
もっと良い神様をよこせなんてことは望んでいない。
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「そうか? いくらでもいると思うんだが」
むしろ、俺より良い神様が居ないなんて、夢も希望もない世界なんだなと思う。




