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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
37章.神殿再建(2)

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37-35.タカアシガニ旅行(16) 犯人に気付く(1)

挿絵(By みてみん)


現代日本側のお話になります。


--------


温泉で事故が起きていろいろ面倒だったが、なんとか帰路についた。

車のシートに座ると尾骶骨が痛い。やはり、尻尾が生えそうだ。


それにしても、最後までこの調子だ……


事故は起きるものではある……確かに、そうなのだけれど、尻尾まで生えかけてるこの局面でも相変わらずで締まりがない。


……………………


相変わらず、尻が痛そうな栫井(かこい)に洋子が話しかける。

「写真、ああやって撮ってたのね」


まあ確かに傍から見ると()()()()()ように見えるのだろう。

実際のところ、俺的には、()()()()()という能動的なイメージはあんまり無い。


「ああ、異世界の写真を撮るわけじゃなくて、シャッター切ると、時々撮れる」


「急に部屋の隅撮りはじめたから、何かと思った」


洋子さんからどんなふうに見えたか想像してみる。

まあ、確かに言われてみればマヌケな姿だ。

だが、洋子さんと唯ちゃんは入浴中だったわけで、カメラをそっちに向けて撮ることはできなかったのだ。


とはいえ、あれで何も撮れなければ、もっと間抜けに見えただろうから、あの行動の理由が証明できただけ、まだマシなのかもしれない。


「うん、まあ、時々撮れるだけだから、ほとんど外れなんだけどな」


今回は1枚だけ。金髪の子が撮れた。

挿絵(By みてみん)


この子は、多くの場面で一緒に居たのだが()()()()()()()()()ようだ。

俺は、どうでも良いもの、嫌なものしか思い出せないので、この子はきっと優しい良い子なのだろう。

※おっさんの嫌がること、けっこうしています!


写真に写った女の子は、これで4人になった。

俺と一緒に行動していた女は5人前後だったようなので、これで全員かもしれない。


今回の旅行の目的は、おそらくこれだったのだろう。

誰が仕組んだのか……たぶん、俺自身のような気がするが、こうなるように仕組まれていたのだろう。


なぜかカメラで異世界の女の子の写真が撮れる。


はじめは、何故か撮っていない……撮れないなずの写真を発見した。

俺はそう感じた。


撮った記憶も、撮る手段も無いはずなのに、写真が撮れていた。

それを発見したのも奇跡的と言って良いように思っている。


俺は以前デジカメを使っていたころは、必要な画像を吸い上げたら、メディアをフォーマットしてしまうことが多かった。

フォーマットというのは初期化、まっさらな状態にしてしまうことを言う。

それ以前に保存されていた画像データがすべて消える。


だが、このデジカメは今年買ったもので、昔とは桁違いに大容量のメディアが普通になっている。

SDカードが標準になる以前、俺がデジカメを使っていた時代のメディアの容量は32MBとか、64MBとか、そんな数字だった。容量の単位がMBだったのだ。

家に帰ると画像をPCに移して、メディアは毎回フォーマットしていた。


今の時代は、メディアの容量がでかすぎる。

メディアの容量の伸びに対して、画像の容量はそれほど極端に増えなかった。

圧縮方式の都合、画素数が多くなるほど圧縮率を高くすることができるようになる。

画素数が100倍になっても、画像の容量は100倍にならない。さらには、メディアの容量は1000倍に増えたので、1枚のメディアに保存できる画像枚数が指数的に増えた。


なので、残量を気にせず、あまり考えずに撮りまくってしまった。

空き容量が少ないから消してしまおうと思う前に、大量の画像が溜ってしまった。

そのまま撮り続けた結果、何を撮ったか忘れてしまったので全部消すのも怖い。

その後は、そのまま継ぎ足しで撮り続けてしまった。


だから気づかず埋もれていたが、実は、その中に異世界の女の子の写真が何枚か撮れていた。

日付を考えると、どうも、行動とリンクしているような気はしていた。

その後、偶然撮れるわけではないことが分かった。

夢で女の子を見た後に部屋を撮影したら、夢に出てきた女の子が写った。

どうやってデジカメに画像が写るのかわからないが、撮影したときに画像が生まれる。


条件が揃ったときに、シャッターを切ると撮れる。

この1枚も、条件が揃って撮れた。


今回の場合の条件は、風呂に一緒に浸かって、俺が異世界のことを思い浮かべることだったのだと思う。


俺は、異世界の記憶のうち、一般常識や、地理については思い出しやすく、身近なことは思い出しにくい。

ただし、身近なことでも嫌だったことは少し思い出せる。

今回の旅行で、同じ湯に浸かっている間は、俺が思い出しているシーンの俺が思い出せない部分を、洋子さんと唯ちゃんが見ることができることがわかった。


今更遅いと思わないこともないが、このタイミングである必要があったのだろう。


俺自身は、異世界で身近だった存在を知るのは難しいのだが、存在を認識できれば、写真に写すことができるようだ。


実に回りくどいが、おそらく、俺の持つ特性……転移の特性を破って俺に何かを伝えるにはこうするしかなかったのだと思う。


首の骨から直接異世界側の情報が読めれば楽なのだが、読めないように制限がかかっていて、セキュリティーホールを突いた作戦がコレなのだろう。

俺自身が簡単に読めてしまえば、いろいろ簡単に話が進みそうな気がするのだが、わざわざこんな遠回りなことをしているのには理由があるはずだ。

俺が思い出しても、写真に写らないのだろう。


女性と一緒に湯に浸かる。これは、かなり難易度が高い。

今回のように大きめの家族風呂でもない限り実現できない。

だから、今まで気づかなかった。


俺と洋子さんが、結婚していたはじめの人生でも2人で温泉に入ることはあった。

2人でラブラブしたくて一緒に入っていたわけではない。


温泉1人で入ってもつまらないからだ。


そこまで温泉好きではない2人にとって大浴場はさほど魅力的な場所ではない。

話し相手がいる方が便利なのだ。


でも、今回は、余裕がなかった。

このペースで、ここまで来ないと間に合わない。

俺と洋子さんが温泉行くのは、暇つぶしであって優先度は高くない。

なので、今まで同じ湯に浸かると記憶が見えることに気づかなかった。


結果として、こんなぎりぎりのタイミングになってしまったが、これもおそらく狙ったものなのだろうと思う。

今まで、気付かないようになっていたのか、放っておくと気付かないので、このタイミングで気付くように制御されていたのか。


まあ、このタイミングである必要があったのだろう。

どんなトリックだったのだろうか?

わざわざ気配察知の死角を突いて風呂に乱入してきたのだ。

洋子さんなら知っているのだろう。


もう種明かししてくれても良さそうなものだ。

「このタイミングで撮れるように計画されてたのかな」

「金髪の子の写真?」

「ああ」

「どうして?」


”どうして?”と来た。

意図してやったわけではないのだろうか?


「洋子さんには思い当たる理由はないのか?」

「……特には」


なるほど……意図的な行動ではないのだ。


確かにタカアシガニの話をしたのは俺だ。

が、ここまで洋子さんが拘るとは思わなかった。


タカアシガニの話を聞いたからと言って、わざわざ泊りがけでタカアシガニを食べに行こうとは思わないだろう。すごく美味しそうだから、いつかは食べたいねという話を2人でしたならともかく、俺は食べたくないと言ったのに、わざわざ、ここまでして食べに来たのだ。


普通に考えたら、それなりの理由が無い限り来ないだろう。

何か理由があると考えた方が自然だ。


まあ、確かに、俺がタカアシガニの話なんかしなければ、タカアシガニを食べに行くことは無かったと思う。


カニのコース予約したのは俺自身であり、俺の予想通りであればタカアシガニの話をする機会は無かった。

予想外だったから、タカアシガニの話をしたのだ。


俺はカニのコースを予約したのだ。写真はズワイガニだった。

だが、量的にメインとも言える茹でガニがタラバガニだったのだ。

アレはヤドカリだ。


いや、それ以前から仕組まれていたと思う。

俺はタカアシガニはヤドカリの仲間だと思っていた。

どこかで見たときに、足が全部で4対に見えたのだ。

おそらく今回と同様にハサミが見えていなかったのだと思う。

だから俺はあのとき、ヤドカリのでかいやつのつもりでタカアシガニの話をした。

でも、アレはまだ夏前の話だ。


全部が偶然なんてことがあるだろうか?

過去の歴史で、タカアシガニに繋がるような思い出があったのか?


「タカアシガニ食べた思い出なんて無いよな」

「ええ。過去の歴史全部を含めても今回が初めてだと思う」


さすが洋子さん。俺の質問の意図を正確に読み取ってくれた。

過去の思い出は関係無いと言っているのだ。


「それじゃ、偶然、温泉付きの部屋を取ったのか?」

「ええ。最後だからと思って。どうしたの?」

「偶然とは思えなくてな……」


無意識に行動させる方法があるから、もしかしたら、無意識のうちに何かが進んでいたのかもしれない。


「そうか、何かヒントがあって狙ったわけではなかったんだな」


----


洋子は女の子の写真が写ると思って狙って宿を選んだわけではない。

ただ、一生に一度くらい家族3人で一緒に温泉に浸かっても良いと思った。

それだけだった。


「何かあっても不思議だとは思わなかったけど」


まあ、あると思わなかった記憶が読めた。

栫井(かこい)に関する出来事は、何があるかは分からないのだ。


はじめの人生の時、栫井(かこい)の死後、洋子が鎧と神殿の話をした場面があった。


鎧が生まれるのはずっと後のことで、あのタイミングで洋子が鎧の話をするのは、普通に考えたら不可能であったが、ようやくカラクリが判明した。


異世界の金髪の女の子が接触してきていたのだ。

おそらくは、それが原因で今がある。


栫井(かこい)が言う。

「金髪の子が、鎧と神殿の話をしなければ、神様は生まれずに済んだのかな?」


おそらく洋子と同じことを考えたのだろう。


だが、それは()()()()()と言い切れる。

洋子は、元から樹海の神殿には行ってみようと思っていた。


何かが起きることに期待したわけではない。

何も起きないことを確認するために行かなければならないと思っていた。


洋子は答える。

「それは無いと思う。私は樹海の神殿には行くつもりだった。

 あなたの遺言だったから」


「俺は()()()()()()()と行ったはずだけど」


確かに必ず行けとは言わなかったと思う。

でも、あんな状態でわざわざ行った場所に行かないというのは洋子的にはあり得ない。


「ええ。でも、聞いたからには、何も起きないことを確認しないといけないと思った」


----


俺は聞き流してほしいとは思っていたが、たぶん神殿に来るとも思っていた。


「聞き流してくれても良かったんだけどな」


「ええ、たぶん、あなたならそう考えると思った」


まあ、バレるか。数十年一緒に過ごした伴侶だからな……


俺には何もなかったと思って生きてきた期間が長すぎて、

そんな伴侶が存在した歴史があったということを思い出せただけでも嬉しく思う。


あのときは、あの年で洋子さんを残して死んでしまうことを申し訳なく思っていたけど、俺の死を悲しんでくれる人が居るというのは幸せなことなんだと思う。


「洋子さんには、なんでもお見通しか。

 俺には罪悪感があったから、言い訳が必要だった。

 やれることがあるのなら、やっておこうと思って」


「ええ。知ってる。だから、単なる嘘ではなくて、なにかがあるのだと思った。

 ただ、杉と玲子と一緒に行くことになったのは、あれのせいかもしれないと思ってる」


俺は忘れていたが、あの2人の願いも叶えている。

協力者が必要だったのだと思う。


「きっと、あの2人を巻き込む必要があったんだろうな。

 ベスだけじゃ実現できないからな、協力者がいないと。

 俺も過去の行動が追えない……石から読めた以外の行動をしてそうな感じなんだけどな。

 種明かしがあっても良いと思うんだよな、タイミング的に」


「種明かしが必要なの?」


「必要だと思う。たぶん、俺が次に異世界に行くときは、

 すっきりした気持ちで行かないといけないと思う」


「種明かしが必要?」


「ああ。

 俺は、異世界に行かなきゃならないのに、

 写真の女の子が俺を探しているっぽいことがわかっただけ。

 よくわからずに異世界に行かなきゃならないんだろ?

 そんな気持ちで行けるのか?」


「ジン君の気持ち次第なのは確かだけど」


「まあ、呪いをかけられたから、行くことは確定してるんだけど」


「呪いって……」

「俺がテラの神様にならないと、その子が不幸にいなる呪い」


「ジン君そういうの良く効くわよね」

「もっとダイレクトに、俺が不幸になる呪いをかければいいのにな」

「それじゃ異世界に行かないでしょ?」

「まあ、そうだな」


----


唯は運転しながら2人の話を聞いていたが、考えれば考えるほどに、この呪いはうまく機能しているように思う。

少し前までは、喋る犬ベスがいたこと以外、特に何の変哲もない普通の人生だと思っていた唯の人生は、多くの人がかかわって作られたものだった。

神様やら竜やら、異世界の人々までかかわっているなどとは思わなかった。


ただ、陰ながら支えてくれる人物、栫井(かこい)の存在を、なんとなく知っていただけだった。


========


「唯ちゃん大丈夫かい。疲れるだろ」


「まだ大丈夫ですけど、疲れますね」


いきなりだが、運転の話だということが伝わった。


明日も会社だというのに、無理をさせてしまって申し訳ない。

帰りはずっと高速道路なので、ときどきSAで休憩する。


高速乗る前は時間がなかったので、昼食は高速のSAになってしまう。


昔は、SAで食べられるものは、そば、うどんをはじめとした、娯楽要素のない軽食が多かったように思う。

今はずいぶんと、力を入れているようだ。

俺は、あんまり腹減らないし、うどんで構わないのだが。


「写真の子、思い出した?」


「金髪の子は、よくわからないな。

 ただ、いつも近くにいた割に存在に気付きにくかったなら、良い子なんだと思う」


洋子はなんとなく、自分が良い子では無いと言われた気がした。

「私のこと、悪い子だって言ってる?」

「いや、そんなことはないけど……」


と言いつつ、よく思い出そうとするが、思い浮かぶ場面で、だいたい俺が嫌がるようなことをしているような気がする。

今回だって、俺は”タカアシガニなんか()()()()()()”と言っていたのに”タカアシガニを食べに行く旅行”になってしまったのだ。

結果としては得るものはあったが、良い子かと言われると、あんまり肯定したい気がしない。


「けど何?」

「ほら、なんと言うか、俺はタカアシガニは……」


「お母さん、そういうことするから」


なんとか、危ういところを唯ちゃんに助けてもらった。

思えば、唯ちゃんは一貫して良い子だった。

まあ、これは確定していたことだと思う。


俺は、本来存在しなかった娘が存在する世界を作った。

その娘が、危なっかしい子で、例えば、この年でシングルマザーで凄く貧乏だったりすると、俺は安心して去ることができないわけで、俺が安心して去ることができるような状況に落ち着くはずなのだ。


そういう観点では安心ではある。


休憩が終わると、また車で走り出す。

唯ちゃんは、3ヶ月にも満たない期間でかなりの距離走っている。車の運転には相当慣れたはずだ。


「唯ちゃん、免許取ってから何キロくらい走ったかな?」

「あー、今回は300km超えますね。

 でも、長いのは、樹海に行った時と、今回だけですよ」


確かに、1度に300km超えるのは、そのくらいだと思う。

日帰りも入れると1000kmは超えてそうだ。


「たぶん、今日も含めると1000kmは超えてそうだな」

「そんなに走ってます?」


かなりのハイペースだ。


俺は車を持ってみようと思って、一時所有していたことがある。

しばらくはあちこち乗り回していたが、2年目にはバッテリー上りが

気になるような頻度に落ちていた。

2年で手放したが、暇でけっこう乗り回していたのに、それでも2年で1万キロ。

それよりペースが速いくらいだ。


「このペースだと年間1万キロくらいになりそうだな」


「今後、乗る予定ないんですけどね」


まあ、そうだろう。俺が若いころは、車乗り回すのが良いことのように扱われていた。

他に趣味が無いからなのだが。


今は、そういう価値観では無い。

ガソリンは高いし、環境問題が大きくなりつつある。

俺の時代は1L=100円だった。


少し前までは、排気ガスがどれだけクリーンであるかを競っていた。

日本はディーゼル車を規制したが、欧州はディーゼル車を推していた。

ところが、不正が見つかってディーゼルはクリーンではないことがバレると、今度は電気自動車に流れた。


二酸化炭素を排出するのが悪いことという流れを作った。

元々ガソリン車の排ガス規制の時も、日本車締め出しのために排ガス規制をしたのに、日本車が規制をクリアして欧州メーカーの首を絞める結果になった。


今回もまた、そんな感じだろう。

ガソリン車禁止になったら、日本車は売れなくなるだろう。

だが、欧州車が売れまくることは無い。


エンジンのように、図面があるからといって、同じ品質のものを量産できないものと違って、電気自動車は、技術力が低くても作れてしまうようで、現時点では技術よりコストの問題が大きい。

結局、欧州メーカー製より中国製が売れてしまいそうだ。


まあ、そろそろ自由貿易の時代は終わるのかもしれないが。


俺よりだいぶ前の世代は、車を持つことが人生の目標の1つになるほどだった。

車を持っていて自由にどこにでも好きなところに行ける人と、そうでない人で二極化した。

だが、世の中便利になると、自家用車が無くてもそれほど困らないようになる。


俺が若かった時代は、リアル頭文字Dの世界で、AE86が既に古い車で、もっと高性能な車がいくつも登場していた。パーツ交換して、エンジンのセッティングくらいは自分でやるのが普通だった。

俺はエンジンはいじらなかったが、パーツ変えるくらいは普通という時代だった。

タイヤ変えただけで、ずいぶん変わったから、凝るといろんな部分に手を付けたくなるのだろう。


キャブレターからインジェクションに変わった時期で、インジェクションだと設定変えるために専用の機材が必要で、あれが一気に設定変更のハードルを上げたように思う。

キャブレターの時代は、自分で自由に変更できたのだ。


バイクはもっとすごい。ずいぶん後までキャブレターだった。

250cc未満は車検が無いし、なんとか人力でエンジン移動可能なので、長期間かけてかなりの改造ができる。予備のエンジン買っておいて、調子良い方を載せておいて、その間に、もう片方を整備する。

まあ、何年も乗らずに乗り換えることが多いので、そこまでする意味がないことが多かったが、排気規制後の世界を知っていれば、予備部品まで揃えて、長く乗るなんて言う選択肢もあったのかもしれない。

20代後半の頃は、そんな嘆きを何度も聞いた気がする。


でも、あれも既に20~30年前の話だ。

当時友人と話すと、そんな話ばかりしていたが、30過ぎてからは聞かなくなった。


走ること自体が趣味になる時代が終わったのだと思う。


唯ちゃんは、たまたま免許を持っていて、異世界から戻ってきたといういかれた記憶を持つおっさんの目的を果たすために運転したに過ぎない。

車の運転が好きなわけではないのだ。


「まあ、今日が終われば、唯ちゃんが運転して遠出する機会はないだろうからな」


「ええと……」


唯ちゃんの歯切れが悪い。何かあるのか。


「新婚旅行は2人で行くんじゃないのか?」


「ええ。でも、ジン君、公共交通使えないでしょ」


なるほど。わざわざ送ってもらわなきゃならないのだ。

「そうか……

 最後まで、手間かけさせて申し訳ないけど、もうすぐ終わるから」


長かった。

延べ数百年にも及ぶ俺の日本暮らしももうすぐ終わる。

俺はその時消えてしまうつもりだったのに、異世界に行かなければならない。


俺がこっちで終わりにしないように、写真を送ってくるのだ。

たぶん、あの子たちも俺の性質を知っているのだろう。


あの子たちの存在を忘れたままでいれば、俺はこの世界で最期を迎えることができたのに……


知ってしまった以上は行かなければならないのだろう。

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